前回のブログで、普段何気なく食べたり飲んだりするものが歯を溶かしてしまうことがあることにふれました。

むし歯菌が関係しない酸によって歯が溶けることを酸蝕症(さんしょくしょう)といい、「食後30分以内の歯みがきはNG」というフレーズを生み出す源にもなりました。今回は飲食による酸蝕症の話をいたします。

Googleで「酸蝕症」と検索し、画像をクリックすると酸蝕症の画像を見ることが出来ます。むし歯とは違う、歯の欠けや穴が見られるのが酸蝕症です。

むし歯のように黒くならず、欠けた面や穴の中はザラザラしているのではなく、つるっとしているのが特徴です。

最初にお断りをしておきますが、これからご紹介する食品や飲料を摂らないようにした方が良いのではありません。普通に食べたり飲んだりするのであれば何の問題もありません。ただ、「普通に」という言葉のとらえ方は人により差があるものです。

気をつけるキーワードとしては

頻繁に

習慣的に(基本的に悪いことではないのですが)

大量に

だと考えます。

このような言葉があてはまるとなると、「普通に」ではなくなるのです。

 

前回のブログでも紹介させていただいた2010年12月の日本歯科医師会雑誌の「各種飲食物の酸性度と酸蝕歯の関係」という記事に以下の図が掲載されていました。

日本歯科医師会雑誌 Vol.63 No9 2010-12 より

この二つの図は、著者の北迫勇一先生(当時、東京医科歯科大学大学院う蝕制御学分野助教)が実際にpHを測定した結果です。

エナメル質臨界pHというのは、歯の表面のエナメル質が溶けはじめるpHのことです。

市販の飲料120種のうちなんと73%がエナメル質臨界pHを下回っているという結果でした。ただ、上図に載っている飲料、食品、調味料などはだれでも普通に口にするものばかりです。もちろん、私も例外ではありません。

また、図にはありませんが酢のpHは3、一般的な炭酸水はpH4くらいです。

少なくとも食品や調味料を「普通に」摂るのであれば、気にする必要はありません。ただ、飲料に関しては頻度にはやや注意が必要でしょう。

 

今回のブログのタイトルにあるように健康に良いもので注意が必要なものは

柑橘系果物と酢です。

柑橘系果物のイメージです。(順番に意味はありません。)

柑橘系果物としてはレモン、グレープフルーツが代表として挙げられます。柑橘系果物の多くにはクエン酸が含まれています。クエン酸は体をアルカリ性にし,健康に良いとされていますが歯を溶かす能力は高いようです。

健康意識が高い方には、実は注意を要する代表格になります。特にレモンはpH2.1と低く、毎日のようにレモンをかじっていると、ほぼ確実に酸蝕症になります。レモンはそのまま食べるのではなく、料理にかけたり飲み物に入れたりすることがお勧めです。

グレープフルーツはどうでしょうか。レモンほどではありませんが、pH3.2と低いです。レモンと違いそのまま食べるのが一般的だと思います。すると「頻繁に」「習慣的に」「大量に」とうキーワードになるべく当てはまらないような食べ方が重要です。このような話をすると、「週何回までならよいか?」というような質問を受けます。明確な答えはありません。

たとえば、食事の付け合わせ一つとして数切れ食べるのであれば、毎日でも問題はないかもしれません。逆に週1回でも食後にグレープフルーツだけを二玉くらい食べる習慣があると、酸蝕症になる可能性があると思います。

(他の柑橘系果物も同様に注意が必要です。)

 

健康に良い食べ物はレモンやグレープフルーツだけではありません。いろいろなものを食べる工夫が大事です。

 

酢はどうでしょうか?

酢は「酢酸を3~5%程度含み酸味のある調味料の1種」とあります。酢酸以外に、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸などの酸も含まれているようです。(酢の種類により違いがあると思います。)いずれにしてもpH3程度なのでエナメル質を溶かせる食品という認識は必要です。

ただ、料理の調味料として使うのであれば、注意をすることはありません。

やはり問題になるのは酢を飲むことです。

酢を薄めずにそのまま飲むと、かなり刺激が強いです。口の中に貯めながら少しずつ飲み込んでいくとするとどうでしょうか?比較的長い時間、歯に酢が作用します。

もし、習慣的にこのような飲み方をするのであれば、重症な酸蝕症になる可能性があります。

酢を使ったドリンクはどうでしょうか?

これはそれぞれの製品により、酢をどの程度薄めているか、どの位のpHかが違うはずですから一概にはいえません。

やはり

頻繁に(飲まない)

習慣的に(飲まない)

大量に(飲まない)

を意識していただいた方が良いです。

「健康のために飲むのだから習慣的でなくてどうするんだ!」

と言われる方もおられると思います。

その場合は工夫が必要です。まず、チビチビ飲まないことが肝心です。飲料が歯に接触している時間が短ければ問題はおきません。一気飲みとは言いませんが、小分けに飲むのは避けるべきです。また、ストローを使うことも有効です。飲料がほとんど歯に接触しません。

 

酢を調味料として使うのであれば、注意をすることはありませんと書きましたが、北迫先生の酸蝕症症例の中に、モズク酢を2年間毎日食べる習慣のある方がありました。

特殊な例だと思いますが、何事もほどほどするべきでしょう。

 

炭酸飲料はどうでしょうか?

冒頭の図によるとコーラなどの炭酸飲料はpH3以下の強い酸性です。当然ですが、酸蝕症の原因になります。嗜好品であると思います。健康のためには必要のない飲料なので、可能な限り飲む機会を減らした方が良いでしょう。

(私は年に2、3回くらいは飲むかもしれません。)

 

スポーツドリンクはどうでしょうか?

これもpH4以下ですから、酸蝕症の原因になります。

2018-2-14 糖尿病とむし歯、歯周病は同じ原因?の続き

で以下のように書きました。

CMでは「日常的に飲むもの」とのイメージで宣伝されていますが、絶対にそのようなことはありません。

体調の維持に必要なミネラル分が含まれているかもしれませんが、基本的には砂糖水です。極端に体の水分、ミネラル分が失われた状態では、とても有効であるとは思いますが、大半の方はそのような状況ではないときに飲んでいるように感じます。

 

スポーツドリンクも可能な限り飲む機会を少なくするべき飲料です。

 

炭酸飲料やスポーツドリンクは酸蝕症の原因になるというよりは、むし歯の原因になります。また、血糖値の急上昇を招きます。血糖値が急上昇するとインスリンが大量に分泌され、肥満になりやすいだけではなく、将来的に糖尿病にもつながるのです。

 

酢や柑橘系果物を歯に悪い食べ物という表現は適切でありません。悪いというと、避けるべきというイメージが前面にでます。当たり前ですが、酢や柑橘系果物は積極的にとるべき食品のはずです。

いくら健康のためとは言え、「過ぎたるは(なお)及ばざるが(ごと)し」です。

 


おまけ

なぜ、市場には酸性飲料が多いのか?

市販されている飲料の70%以上がエナメル質臨界pH以下であるという現実があります。水とお茶以外はほとんどであるわけです。

この答えにつながる事実を北迫勇一先生の著書「知る・診る・対応する 酸蝕症」から以下に引用いたします。

食品衛生法により清涼飲料水の滅菌条件は飲料自身のpH値により異なることが定められており、pH値が低い(酸性度がより強い)飲料ほど加熱条件がゆるやかであり、加熱できない飲料ほどpH値が低く酸性度が強いという見解である。

つまり、酸性飲料が多いのは製造業者が製造者責任を果たしていることになる事のようです。

歯科界が酸蝕症の危険性を理解し患者指導にあたるとともに、社会全体に訴えていく必要性が示された。

とこの一節を結ばれていました。