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健康寿命を延ばすための運動の筆頭?は「歩く」。歩くことで、本当に健康になるのか?
「歩く」ことは運動になるか?
日頃からスポーツを趣味として楽しんでいらっしゃる方以外では、運動として思い浮かぶものの一つにウォーキングがあると思います。つまり「歩く」ことです。
「ウォーキングは健康によい」ということに異論をとなえる人はあまりいないはずです。ではウォーキングをすれば、あるいは歩きさえすれば健康につながるのでしょうか?
実は歩きさえすればいいというものではないようです。
今までの私自身の知識は次の通りです。
ウォーキング(ただ歩くことを含めて)では筋力アップにはならない。
有酸素運動なので持久力はアップして健康につながる。
歩くだけでは運動にならない
ウォーキングにどれくらいの効果があるのか。実際のところはどうなのか、私自身も疑問でした。
昨年の秋に発刊されたウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方 (ブルーバックス)です。タイトルの通りに科学的にウォーキングの効果がどのようなものか、どのような方法が効果につながるかが詳しく解説されています。
すでにウォーキングを実践している方も、これからはじめようと考えている方も、ご一読されることを勧めます。
結論から申し上げると
1日1万歩を実践していても、適切な歩き方でなければ効果はあまりないのです。
以前に近所の知人が、健康のためにウォーキングを日常的にするよう心掛けているという話を本人から聞きました。後日、その知人が歩いている姿を見かけました。
その方には大変申し訳ないのですが、高齢者がよぼよぼ歩いているようにしか見えませんでした。このような歩き方では、歩いていても効果があるのかなと感じたことを思い出しました。
もう一つ
体力向上はウォーキングで十分だった!
とも書かれています。適切は方法がポイントになるのです。
(冒頭の写真は適切な方法でのウォーキングのイメージです。)
なぜ多くの人が手軽な運動としてウォーキングをあげるのでしょうか?誰にでも簡単にはじめられるからでしょう。その具体的な理由はなんでしょうか?
・道具がいらない。(シューズは必要ですが)
・時と場所を選ばない。
・費用がかからない。
・一人でもできる。
・きつくない。(楽である)
思いつくままにあげてみました。他にもあるかもしれません。
ここで最も気になる理由は、「きつくない、楽である」です。
「ウォーキングの科学」では
松本市熟年体育大学の事業で「1日1万歩、毎日歩けばどのような効果があるか」を検証した結果が紹介されています。
血圧が少し下がる、血液が少しサラサラになる、ことが確認できたが、体力の顕著な向上は確認できなかった。そして、今から思えば、体力が向上しない分、血圧や血液成分の改善効果も満足なものではく、努力する割には報われない、という結論に至った。
と書かれています。
努力が報われない理由として、一般人が通常、1日1万歩、歩く際の運動強度が低すぎるとしていました。
つまり、「きつくなく、楽な」歩き方だけをしていては効果がないのです。
適切なウォーキング(「歩く」)とは
適切なウォーキングとはどのようなものでしょうか?
キーワードは「ややきついと感じる」です。
具体的には個人の最大酸素摂取量の60~70%程度の強度です。
最大酸素摂取量は最高心拍数に置き換えられます。
(最高心拍数-安静時心拍数)×0.6~0.7+安静時心拍数
この式で最大酸素摂取量の60~70%の強度が心拍数として求められます。
最高心拍数は以下の式で簡易的にもとめられます。
最高心拍数=220-年齢
例)年齢50歳で安静時心拍数が70とすると
最高心拍数=220-50=170
(170-70)×0.6~0.7+70=130~140
がウォーキングする時の目標心拍数になります。
実際には個人によってかなり差があるはずですが、運動経験が少ない方はこの式にあてはめて計算するとよいでしょう。スポーツジムなどでは心拍計のついているマシンが多くありますので、非常にきつい運動をすることにより、ある程度最高心拍数を把握できます。
私自身の最高心拍数は180程度と把握しております。上記に式にあてはめると私の年齢は40歳ということになりますが、もちろん違います。
実際にはウォーキング中の自身の脈拍を知るには、アップルウォッチなどのデバイスをつけていないとなりません。
そこで、「ややきついと感じる」という主観的な運動強度が役に立ちます。
ただややきついと感じる運動は長く続けられないと思われる方も多いでしょう。
そこでこの本で推奨している方法が「インターバル速歩」です。
簡単に方法を紹介します。
ややきついと感じる速歩とゆっくりの普段の歩きを3分ずつ交互に5セット行います。
速歩3分×5セット=15分
普段歩き3分×5セット=15分
合計30分を週に4日程度を目安にする。
30分連続の時間がとれない場合は、2、3回にわけてもよいとのことです。
速歩の合計が15分以上になることがポイントです。
インターバル速歩を継続すると、体力向上や生活習慣予防につながるという結果が多く示されていました。
この体力向上というのは筋力と持久力の両方がアップすることです。スポーツジムでマシントレーニングとバイクトレーニングの両方をやるのと同じ効果があるのです。手軽な割には、効果が高い方法ではないでしょうか。
筋力アップにつなげるには
ブログの導入部分で
「ウォーキング(ただ歩くことを含めて)では筋力アップにはならない。」と書きました。
ここでウォーキングでは筋力アップにならない理由を説明します。
上の図のように筋肉繊維は、ゆっくり力を発揮して持久力のある遅筋線維と素早く強い力を発揮するが持久力のない速筋線維に分けられます。(速筋線維はさらに細かく分類されます。)
筋肉は弱い力では遅筋線維から使われ、遅筋線維では賄いきれない強い力になってはじめて、速筋線維が使われるという性質があります。日常生活では速筋線維が使われることはとても少ないようです。つまり歩くあるいは普通に歩く速度と同じ程度で、ウォーキングをしても遅筋線維しか使われないのです。
一方筋力をアップするには速筋線維を積極的に使わなくてはなりません。よって主に遅筋線維しか使われないウォーキングでは筋力アップが望めないという結論です。
速筋線維は使われなければ、次第にやせ細り衰えていきます。歩くだけでは筋力アップが望めないだけではなく、長い目で見ると筋力の低下にもつながります。
ところがインターバル速歩では、速筋線維を使わざるおえないスピード(強度)で歩くので、筋力アップにも効果があるのです。納得!
心肺機能や筋肉にしっかりと負荷をかけることが絶対に必要です。
「ややきついと感じる」が〇
「きつくなく、楽な」は☓
おまけ
もう一度、さきほどの筋肉線維の分類の表です。この表は石井直方の筋肉の科学 ハンディ版 という本の中の表を、私が勝手に改変したものです。
筋肉線維の分類法はさまざまあり、収拾がつきにくかった時期もあったようです。
現在は特殊な染色法や筋たんぱく質による分類で、タイプⅠ、タイプⅡa、タイプⅡx、タイプⅡbの4種類に分類する方向で収まっていとのことです。さらに人の場合はタイプⅡbがほとんどないので、以下の三つでシンプルに考えてよいとも書いてありました。
タイプⅠ(いわゆる遅筋線維)- 一番遅く持久力のある筋線維
タイプⅡa(いわゆる速筋線維の一つ)- スピードと持久力を兼ね備えた筋線維
タイプⅡx(いわゆる速筋線維の一つ)- 一番スピードが速く持久力がない筋線維
運動することによって、速筋→遅筋あるいは遅筋→速筋というシフトは起こるかどうかについて、「タイプⅠ(遅筋)とタイプⅡ(速筋)の間には越えられない溝がある⁈」と記されていました。
人間ではトレーニングによって、速筋→遅筋や遅筋→速筋というシフトが起こる証拠がないというのが現時点での考え方のようです。(動物実験では認められたようですが)
速筋線維であるタイプⅡaとタイプⅡxの間では、トレーニングによりシフトは認められています。
ところが加齢により速筋から遅筋へのシフトが起こることが確認されています。つまり年をとると、強い力を発揮することができる速筋線維が減り、強い力が発揮できない遅筋線維が増えるのです。
年齢とともに筋力が衰えるのは一般的な事実だと思います。速筋が減り、遅筋が増えるというのはさもありなんです。
なぜ加齢による時だけ、速筋→遅筋のシフトが起こるのか。この理由は現時点で、結論はでていないようですが、筋肉の神経支配の変化によるとされています。
詳しくは 石井直方の筋肉の科学 をお読みいただきたいと思います。
本文でも書きましたように、日常生活で遅筋線維は常に使われます。速筋線維を使うには意識的なトレーニングなどが必要です。
使われない速筋線維は少しずつやせ細っていきます。さらに加齢により遅筋線維に変化していきます。
人生100年時代に、自分の足で行きたいところ行ける自由を持ち続けるには、速筋の維持がポイントになります。
インターバル速歩はもちろん適切な方法です。私は積極的に筋力トレーニングなど速筋を使う運動を心がけたいと、常々考えています。実は約20年前から港区スポーツセンターで細々ではありますけれど、トレーニングを続けています。
しかしながらこのブログアップ時点では、新型コロナウイルス感染症の影響で、センターは令和2年4月12日(日)まで休館となっています。(さらに長期化する可能性が高いです。)
繰り返しになりますが、1日も早く安心して外出できるようになることを願ってやみません。