大学では原則、歯科健診がありません。

保育園あるいは幼稚園に入園以降、高校を卒業するまでは、必ず年1回以上の歯科健診を受けることができます。
ところが大学入学以降は、それまでと同じように歯科健診を受けることができません。法律制定時の闇?
今回はこの辺りを考えていきます。
国民皆歯科健診とは言っているが・・・
「国民皆歯科健診」という言葉を耳にしたことがある方は、多いのでは。
ゆくゆくは年1回の歯科健診が義務付けられるのではと、勘違いをされる場合もあるかもしれません。
「骨太の方針2022」以降、毎年の閣議決定において「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)」の実現が明記され、実現に向けた取組が行われている。
実際の取組は、歯科健診義務化ではなく、歯科健診を受けやすくするように環境を整えていくことがメインです。

以前にも紹介をした年代別の歯科健診受診状況のグラフです。赤丸の通り就労世代の受診率が低い。この年代の受診率向上のために環境を整備することが、「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)」の重要な取組です。
でもよく見てみると。
20~24歳が一番低く見えます。まさに大学生がこの年代?しかしいまのところ、大学生への目立った取組は見当たりません。
大学生は成人だから?
学校歯科健診は学校保健安全法にもとづいて、幼稚園、小学校から高校までの全学年で毎年定期的に実施することが義務とされています。
保育園も児童福祉法にもとづき、学校保健安全法に準じて毎年の歯科健診がやはり義務。
では大学生は?
実は大学生も学校保健安全法の対象。しかし大学生に関しては例外的に、歯科健診は義務ではありません。
なぜ?大学生は成人だから?
自分の大学時代を振り返っても、大学生の年齢は,20歳前後ばかりではなかった。
歯科大学だったこともありますが、何年も浪人ののち入学した年寄り(当時の感覚では)もいました。その他にも一度社会人経験を経てからの再受験入学者や大学院生も。さらに医歯学部などではないと思いますが、社会人大学生など幅広い年齢層が在籍しているのが大学です。
明治30年(1897年)に学生生徒身体検査規程が制定された時から,大学生の歯科健康診断は実施されてきたとう歴史が実はありました。(すべての学校ではありませんが。)
昭和33年(1958年)の学校保健法(現在の学校保健安全法の前身)制定によって、学校医,学校歯科医,学校薬剤師の配置が正式に定められました。現在の保育園あるいは幼稚園に入園以降、高校を卒業するまで年1回以上の歯科健診実施は、ここからスタート。
それまでは学校歯科医の配置は任意であったので、たとえば昭和10年の小学校の学校歯科医配置率は25%程度との記録も残っています。
しかしながらこの学校保健法では、大学での歯科健診は除外されることに。
明治33年以降、大学生にも歯科健診が行われてきたという歴史がありながら。
東京歯科大学石井拓男先生は「なんとも不可解なことである。」と。
先生が書かれた文章の中には以下の内容の記述があります。
「学校保健法案をまとめる当時、一部から学校歯科医を各校に置くことに抵抗があったようである。大学を除くということで,すべての小中高に学校歯科医を配置することができたということが読み取れる。」
(あくまでも推測が含まれる内容ですが。)
歯科保健が軽んじられていた空気が伝わってきます。
このような事象を現在では、「闇」と表現されるのでは?
もちろん現在に至るまで、大学における歯科健診実施義務がない法律に関して、歯科界からもある程度容認されてきたという事実も。
理由として挙げられているのは、大学生は自律的健康づくりの年代であるということ。

たとえば乳幼児では、歯に関することだけでなく体すべてに関して、健康づくりは保護者が管理します。これを他律的健康づくりと言います。
成人の場合は自ら考え行動しますので、自律的健康づくりと。
小学校入学以降、さらに中、高と進学するにつれて、下図のように移行していくと考えられています。

ほぼ成人と考えられる大学生は、とうぜん自律的健康づくりの範疇。だから歯科健診が義務化されていなくてもやむを得ない。
一理あるようにも思えます、が。
では成人以降、歯科健診は必要ない?
そんなことはないはずです。
様々なライフイベントが控える年代
日本歯科大学福田雅臣名誉教授は、東京都歯科医師会の事業として、大学での歯科健診に参加された時の経験をふまえ以下のように述べられています。
「大学生には就職活動,就職のために必要な資格取得試験,そして社会に巣立っていくというさまざまなライフイベントが控えており,まさにライフコースアプローチを踏まえた歯科保健活動・歯科健康診断の必要性を感じた。」

令和6年度の大学(学部)・短期大学(本科)進学率は62.3%。残りの4割弱は就職することになるかと思います。その場合も12年間に及ぶ通学から、通勤へと生活スタイルの大きな変化が起こるのは同様です。
小、中、高と12年間にわたり、他律的健康づくりから自律的健康づくりへとスキルを身に着けてきたはずです。そして健康づくりだけでなく、文部科学省の学習指導要領の根幹に据えている「生きる力」を実践していくための最終段階が、大学生あるいは現在は成人とされている20歳前後の年代なのだと。
前述の福田名誉教授はこの年代における歯科健診は、むし歯などの疾患を発見するだけの健診ではなく
「社会人となる過程での歯・口の健康づくりのサポートとなるスクリーニング機能を備えた問題志向型歯科健診を構築していく必要性を感じた。」と。
またこの年代(20歳前後)特有のお口の健康課題があります。
それは親知らず(智歯)の問題。親知らずは第三大臼歯の通称ですが、20歳前後で萌出することが多く、一部埋伏している場合は抜歯が勧められます。
その場合切開や骨の切除などが必要となり、就職前に抜歯を済ませておくことがベター。
さらに将来的に大きなリスクとなる、くいしばりが見えはじめるのもこの時期ではないかと考えます。
何を隠そう私は若いことからのくいしばりが原因で歯根破折をおこし、ついに抜歯に至る歯が出ました。
恥ずかしいやら、悲しいやら・・・(ナイトガードをつけ始めたのは30歳代後半であったかと。)
港区「お口の健診」の受診年齢の拡大
令和8年度より港区の成人歯科健診である「お口の健診」の受診年齢が拡大されました。昨年度までは20歳以上。今年度からは18歳以上に拡大。

これにより港区民であれば全年齢において、年1回以上の歯科健診が公的に受けることができるようになりました。厳密にいうと、0歳児から保育園に入園さえすれば、完全に全年齢といえる。
平成20年に区民であれば20歳以上が受診できるお口の健診が始まってから、唯一の空白年齢であった18、19歳。ついにこの空白が埋められることに。
これは地味ですが、画期的なことです。
そしてお口の健診は
歯・口の健康づくりのサポートとなるスクリーニング機能を備えた問題志向型歯科健診
です。
「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)」の実現に向けての小さな一歩ではありますが、確実な一歩であると。
大学生でも、歯科健診を受ける意味は当然ある。
大学での歯科健診は,歯科健診の機会を増やすこととどまりません。
自律的健康づくりの年代として,自分の口腔内に関心をもつ。必要な場合は治療を含めて適切に受診するだけではなく、予防のためのセルフケアを身につける機会になります。















