1月14日に地下鉄大江戸線が昨年末から今月11日まで間引き運行した原因となった、運転士39名の新型コロナウイルス集団感染についての報道がありました。
原因として
保健所からは「歯磨きの際の唾液が付着した手で蛇口を触れたことにより、感染が広まった可能性が高い」との指摘を受けた。
と記事には書かれていました。
あり得ることではありますが、本当なのでしょうか?主にマスクなしでの会話時の飛沫感染が、コロナウイルス感染拡大の一番の要因と納得している時にこの報道。歯科医師ですので、「歯磨きの際の唾液の付着」というワードに敏感に反応してしまいました。
日本口腔衛生学会がこの報道の真偽に関して調査しました。調査結果が日本口腔衛生学会員のもとに届きましたので紹介いたします。以下がその要旨です。
・大江戸線運転士集団感染の調査をしたのは江東区保健所。
・保健所は単に聞き取り調査を行っただけで、感染源についての具体的検査等を何も行ってはいない。
・東京都交通局の広報担当者は報道機関の個別取材で、保健所からは飲食を含む様々な感染の可能性を指摘された旨を回答した。歯磨きの際に唾液に汚染された蛇口はその可能性の一つ。
・実際の報道では「歯磨きの際に唾液に汚染された蛇口」が感染源であったと、断定されたかのような記事になった。
蛇口からの接触感染はもちろんあり得ることです。歯みがきを悪者にされた訳ではありません。ただ正確な報道とは言い難いことがわかり、なんとなく不愉快な思いが残りました。
以下が日本口腔衛生学会からの全文です。
一般社団法人日本口腔衛生学会
会員 各位
新型コロナ感染の拡大で新年の幕開を迎え、大変な時期となっておりますが、皆様お元気で
お過ごしでしょうか。
さて、昨日今日と、地下鉄大江戸線の運転士 39 人に「歯磨きの際の唾液が付着した手で蛇
口を触れたことにより、感染が広まった可能性が高い」との報道が日本中に広まり、本学会会
員におかれましても、学校保健や産業保健の歯科保健指導で頭を痛めておられるのではな
いかと心配しております。報道によれば、保健所からの指摘ということでしたので、保健所が
どのような根拠に基づいてこのような結論を下したのか不思議に思い、保健所に聞き取り調
査を行うため報道を行った新聞社に正確な保健所名を尋ねてみますと、分からないとのこと
でした。それでは事実確認ができないではないかと指摘したところ、この情報元は東京都交
通局の広報担当であるので、東京都交通局に尋ねて欲しいとのことでした。そこで、東京都
交通局の広報担当者に連絡を取り、調査にあたった保健所名を尋ねたところ、保健所は江東
区保健所とのことでしたが、保健所は単に聞き取り調査を行っただけで、感染源についての
具体的検査等を何も行ってはいないことが分かりました。
東京都交通局の広報担当者は報道機関の個別取材において,保健所から指摘された飲食
を含む様々な感染の可能性を報告したそうですが、歯磨きの際に唾液に汚染された蛇口もそ
の可能性の一つであったとのことです(蛇口を素手で触れず、できればセンサー式が良いと
のアドバイスを受けた程度)。しかし、いざ記事になると目新しい「歯磨きの際に唾液に汚染さ
れた蛇口」が切り取られ、あたかも「歯磨きの際に唾液に汚染された蛇口」が感染源であった
と断定されたかのような記事が飛び回っています。たしかに「歯磨きの際に唾液に汚染された
蛇口」が感染源の一つであった可能性を否定する根拠はありませんが、記事の内容は必ず
しも個別取材の内容を正確に反映していないことを東京都交通局の広報担当の方から聞き
取ることができました。記事をよく読めば可能性と書いているので、誤報とまでは言えません
が、他の可能性を敢えて言及していない点に問題がありそうです。また、この手の記事では
見出しに惑わされることが多いようです。
何が事実かということは結局分かりませんが、マスコミ報道に振り回されず、事実を見極める
目が大切であることをお伝えします。
本年が会員の皆様にとって良い年であることをお祈りしております。
日本口腔衛生学会
理事長 山下喜久