2018-10-6 タバコの歯肉への影響は人それぞれ?
で、喫煙は歯周病の最大のリスク因子と言われていると書きました。喫煙は歯周病の原因ではないが、悪化させる大きな要因になります。
また現在新型コロナウイルス感染症により、今までの日常生活が瞬く間に失われてしまいました。この新型コロナウイルス感染症重症化の要因の一つに喫煙が名を連ねているようです。
出口の見えない状況がこの先も続きそうですが、禁煙というアクションを起こす一つの機会になるのではないかと思い、この話題を選びました。ぜひこの機会に、「禁煙できる」を現実に!
タバコがだめなら加熱式タバコ?
ここ数年ですが、タバコはだめでもアイコスなどの加熱式タバコではどうでしょうか?
と言われる患者さんが見受けられるようになりました。
このように言われる方は、喫煙による悪影響を理解して、少しでも健康的でいたいと考えているのでしょう。また受動喫煙を意識し、周囲の人への配慮も考えている方でもあると思います。言い方を変えると、禁煙を目指している方、あるいは禁煙の一歩手前の方たちです。
今回は紙巻タバコに代わる、IQOS(アイコス)に代表される加熱式タバコの背景や影響を考えることにより、禁煙に挑んでいただきたいと考えました。
前置きが少し長くなりましたが、もっとも簡単な結論はアイコスのパンフレットに書かれていると言われています。
「タバコ関連の健康リスクを軽減させる一番の方法は、紙巻タバコもIQOSも両方やめることです。」
薄く小さく書かれているようです。
販売をしている会社自身が明確に表明しているのですから間違えがないでしょう。
ただパンフレットの文言だけで、済ませてしまっては元も子もないので、昨年に発刊された新型タバコの本当のリスク アイコス、グロー、プルーム・テックの科学を参考にして考えていきます。
新型タバコが注目された意外な理由
新型タバコと加熱式タバコとは違うのでしょうか?
新型タバコ=加熱式タバコ(アイコスなど)+電子タバコ(吸引機に専用リキッドを入れ加熱)となります。
今回はアイコスに代表される加熱式タバコを中心に話を進めていきます。
(ニコチンが含まれる電子タバコは日本では販売されていません。ただ個人輸入で手に入れることはできます。)
新型タバコが実際にどのくらい使用されているのでしょうか。実態調査の数は少ないようですが、今年のはじめに出された、日本公衆衛生学会の学会誌に掲載された論文によると下図のようになっています。
アイコスで0.3%(2015年)から3.6%(2017年)に,2年間で10倍以上に増えています。この急激な増加の原因を「新型タバコの本当のリスク」(以下この本)ではテレビ番組の影響が大であると書かれています。
そのテレビ番組とは2016年4月28日に放送された「アメトーーク! 最新!芸人タバコ事情」です。
著者の田淵貴大先生は
「日本で人気のテレビ番組がIQOSの普及を引き起こした。」と結論づけた論文も出されています。田淵先生も大好きな番組のようですが、皮肉な結果です。
加熱式タバコのリスク
この本では、アイコスに代表される加熱式タバコについての疑問点を解説しながら、回答しています。(加熱式タバコと電子タバコの違いも説明されています。)
疑問点に対する回答のいくつかを紹介いたします。
①加熱式タバコからは有害物質は出ない?ニコチンはふくまれない?
もちろん加熱式タバコにもニコチンがふくまれ、紙巻タバコと同じ様にニコチンが体内に吸収される。それ以外の有害物質の量は少ないものもあるが、そうではないものもある。
少なくとも現時点で紙巻タバコと比較して、加熱式タバコが安全である根拠などありません。
2012年に米国食品医薬品局(FDA)は、タバコ製品に含まれ害をおこす可能性がある、93種類の有害物質リストを発表し、タバコ会社にこれらの物質の量を測定し報告するように要請しました。(93種類の有害物質は、従来の紙巻タバコに含まれ物質です。)
アイコスを販売しているフィリップモリス社は、この93種類の有害物質のうち40種類の有害物質のみ報告をしました。(実際には58種類の物質について報告したが、93種類の有害物質のうちで報告したのが40種類)報告した物質のうち、9種類の有害物質はで紙巻タバコに比べてアイコスの方が量が少なかったことを根拠にして、「紙巻タバコに比べて有害物質が90%低減している」と宣伝しているようです。
他の物質については触れていません。なぜでしょうか?
②加熱式たばこは新製品であり、イノベーションの成果?
以前に発売された加熱式たばこ製品から、デザインや大きさといったスタイル面のみを改良したもの。有害物質が少なくなっているわけではない。イノベーションの成果などではない。
とても洗練されたデザインです。目新しくクールなイメージが湧きますが、中身は決して新しいものでも格好いいものではありません。イノベーションの成果ではなく、マーケティングの成果?といえるのではないでしょうか。
日本はたばこ対策がきちんとできていない国として世界的に有名な国のようです。たばこ事業法という法律があり、たばこ産業の健全な発展がうたわれています。日本たばこ産業株式会社(JT)の筆頭株主は国です。財務省の貴重な天下り先がJTとも言われています。我が国はたばこ産業が守られる、目に見えにくいシステムが存在するのでしょう。
このような事情があるために、日本は2016年4月に世界ではじめてアイコスが全国的に販売される国となったのでしょう。そしてアイコスの実験場になり、皮肉にも普及が実証されてしまいました。世界に誇れることではありません。
③加熱式タバコは他人への害(受動喫煙の被害)がない?
加熱式タバコによる受動喫煙のリスクは、あるかないかでいえばある。ただし、紙巻タバコに比べると低いかもしれない。さらなる研究が必要である。
屋内での喫煙を紙巻タバコから加熱式タバコに完全に変えることが出来れば、受動喫煙の害を減らすことが出来ます。しかし屋内で喫煙をしていなかった場合、加熱式タバコを吸うようになれば、受動喫煙の害が出てきます。
受動喫煙のリスクを何と比較するかです。現在は極悪非道?とされている、屋内での紙巻タバコによる受動喫煙と比較しても意味はないと思います。
加熱式タバコは害が少ないからいいだろうという考え方は、殺すわけではないのだから、ぶん殴るぐらいはいいだろうという論理に近くはないでしょうか?
巨大タバコ産業の戦略
過去から現在まで、タバコ産業はさまざまな工夫を重ねてきました。上の図はそれをまとめたものです。(最後のおまけで日本語訳を紹介します)
その工夫は決して健康に対する害を少なくするためのものではなく、少しでもタバコを吸いやすくするための工夫です。メンソールや香料の添加がその代表例で、喉への刺激をやわらげ、煙でむせにくくなりました。女性や子どもでも吸いやすくなるような工夫です。
より抵抗なくニコチンが肺に届くことに腐心してきただけです。
加熱式タバコは洗練されたフォルムを持ち、有害物質が軽減されたような錯覚をいだかせ、タバコを吸わない人への配慮を前面に出しています。
現在の受動喫煙に対処しなければならない状況においても、いままでと同じ様にニコチンを摂取しやすいような工夫がなされたと解釈できます。
巨大タバコ産業の、ニコチン依存症の人を減らさないようにするにはどうすればよいかという課題に対して、英知を結集した結果です。
80%の方は禁煙治療などをせずに、自力で禁煙に成功しています。
ぜひこの本を読んで、巨大タバコ産業の過去から現在にいたる策略に焦点をあて、人生にとってよりよい決断を下せるよう期待します。
おまけ
本文で紹介した図の解説です。
この図はこの本の34ページに掲載されています。(日本語で)
以下に書かれていた日本語訳をそのまま記します。
タバコ会社がタバコを変えてきた9つの方法
Bronchodilators
気管支の拡張
添加された化学物質が気道を拡張させ、タバコの煙が肺に流入させやすくする。
Increased Nicotine
ニコチンの増量
依存性を強めるため、タバコ会社はニコチンの吸入量をコントロールしている。
Flavorings
フレーバー
ハーブやチョコレートなどのフレーバーを加えることで、煙のイガイガ感を覆い隠し、魅力的に見せかけた製品を新たなユーザー(特に子ども)にアピールする。
Tobacco-specific Nitrosamines
タバコ特異的ニトロソアミン
タバコは、非常に高い発がん性を持つニトロソアミンを含有する混合タバコ葉で作られている。
Ammonia Compounds
アンモニア
アンモニアを加えることで、ニコチンが脳に届くスピードを高める。
Menthol
メンソール
喉を冷やし、麻痺させ、刺激を弱めるために添加されたメンソールにより、喫煙者が吸いやすくなっている。
Ventilated Filters
フィルター空気口
フィルターに空気口が開けられているため、喫煙者はより勢いよく煙を吸い込むようになり、発がん性物質が肺の奥まで届くようになる。
Sugars and Acetaldehyde
砂糖とアセトアルデヒド
砂糖を加えることでタバコの煙を吸入しやすくなり、生成されたアセトアルデヒドはニコチンの依存性を高める。
Levulinic Acid
レブリン酸
ニコチンのキツさをやわらげるために添加された有機酸塩により刺激が少なくなり吸いやすくなっている。
そして革新的なもう一つの方法が加わりました。
加熱式タバコ
iPhoneのような?洗練されたデザイン、Apple Storeを彷彿させる?アイコスストア。
有害物質が軽減されたような錯覚を抱かせるコンセプト。
受動喫煙をある程度は軽減できるシステム。
でもアイコスのパンフレットには書かれています。
「タバコ関連の健康リスクを軽減させる一番の方法は、紙巻タバコもIQOSも両方やめることです。」