新型コロナウイルス感染症 歯科にできること

新型コロナウイルス感染症の重症化予防に、どうもお口の中の健康状態が関係していそうです。

4月20日にNHK朝の情報番組「あさイチ」に鶴見大学歯学部探索歯学講座の花田信弘教授が電話出演されました。花田教授は国立感染症研究所口腔科学部長の経歴を持つ、歯科医ではありますが微生物、免疫に関する専門家です。

その時のお話の要旨は以下の通りです。

新型コロナウイルス感染症の重症化は、ウイルス性肺炎による肺の免疫力の低下で、普段なら大丈夫な歯周病菌などによる細菌性肺炎このダブルパンチによるものではないか。ウイルス感染予防だけではなく、細菌性肺炎のリスクを少なくするために歯みがきや舌清掃をしっかり行いましょう。

私も録画をして見ましたが、短時間で電話出演でもあったので、正直に言ってあまりピンときませんでした。

日歯連盟広報」(5月15日発行)に緊急提言として、花田信弘教授の提言内容の詳細が掲載されていました。やっと真意が理解できましたので、皆様にご紹介いたします。

サイトカインストームの引き金は歯周病菌⁈

今回の新型コロナウイルス感染症の恐ろしさは、一部の人ではあるのですが急激にウイルス性肺炎が重症化して死に至る点です。特に有名人のこの感染症による訃報を耳にすると、名前も知らない多くの誰かの死よりも恐怖が倍増します。

でも裏を返せば、重症化さえしなければ、ちょっと(たち)の悪い風邪をひいただけで済むのですが。重症化さえしなければ・・・

重症化による死亡のキーワードにサイトカインストームという言葉があります。

「ウイルス性肺炎によって起こされた、サイトカインストームにより多臓器不全で死亡」のような記事を目にすると、さらに訳の分からない恐怖にかられます。

花田教授の提言の要点

新型コロナウイルス感染症の重症化は、ウイルス性肺炎と細菌性肺炎の混合感染による。歯周病菌などがだす毒素によりサイトカインストームをおこす。

もちろん新型コロナウイルスによって、ウイルス性肺炎が起こります。重症化はウイルス性肺炎にとどまらず、引き続きもしくは同時に細菌性肺炎をおこすことにより起こります。その細菌性肺炎に関与する歯周病菌などから出される毒素により、免疫の暴走といわれるサイトカインストームがおこり死に至る可能性が出てくるのです。

下の図はフランスでまとめたデータだそうです。

中国武漢での治療成績をみると、抗ウイルス剤に加えて抗炎症剤と抗菌剤を併用した場合が最も治療成績が良いのです。抗菌剤が効果を表しているということは、ウイルス性肺炎だけでなく、細菌性肺炎が起こっている証拠です。

実際にはなぜ抗ウイルス剤のみが注目されて、抗菌剤があまり注目されていないのでしょうか。この理由に関して花田教授はメディカルドグマにとらわれているのではないか書かれていました。メディカルドグマに関しては最後のおまけで紹介します。

原因がウイルスであれば、抗菌剤は無効です。普通の風邪が良い例です。でも細菌性肺炎が疑われるのであれば、抗菌剤が必要です。重症化予防には原因となる歯周病菌などのお口の中の細菌を少なくする手立てが重要になります。(実際には抗菌剤も症例により使われているはずですが、メディアから重要性を耳にすることはほとんどありません。)

細菌は人を殺すが、宿主(人や動物)がいないと生きられないウイルスは原則として宿主は殺さないといわれています。

約100年前のスペイン風邪(当時の新型インフルエンザ)では、世界で4,000万人以上の人がなくなったといわれています。しかし弱毒化したのか3年程度で脅威はなくなり、その当時の新型インフルエンザウイルスは季節性のインフルエンザウイルスとして生き残っているようです。今回の新型コロナウイルスもこのような経過をたどるのではないかと、勝手に考えています。

仮に同じような経過をたどったとしても、2、3年はかかります。手をこまねいてはいられませんので、重症化につながる細菌性肺炎の原因と思われるお口の中の細菌を常に少なくすることが重要です。まずやるべきことは、毎日の歯磨きや舌磨きで、お口の中を清潔に保ちましょう。

では免疫の暴走と呼ばれる、サイトカインストームはなぜ起こるのでしょうか。

サイトカインとは主に免疫を担当する細胞から出されるたんぱく質の一種です。ウイルスや細菌が体の何に入ってくると、炎症を起こすサイトカインが分泌され、炎症をおこすことによりウイルス、細菌と闘います。このサイトカインが過剰に次々と分泌され、あたかも暴走するかのように正常な細胞までも攻撃し痛めつけてしまう状態をサイトカインストームといいます。(ほどほどにしてほしいのですが・・・)

サイトカインストームをおこす原因として、グラム陰性菌のLPS(リポポリサッカライド、外毒素やエンドトキシンともいう)が挙げられています。歯周病菌はまさにこのグラム陰性菌です。

2017-2-2 お口の健康がなぜ健康寿命に影響するか?part2

このブログで紹介したのが下の図です。

歯肉から出血するのは、歯の周りについている細菌によって歯肉に炎症がおこり、外側からは見えない歯肉の内側に小さなキズ微少(びしょう)潰瘍(かいよう)ができているからです。

この小さなキズは出血をおこすだけではなく、歯周病菌などのお口の中の細菌が歯肉の血管の中に侵入する入口にもなります血管に入った細菌は、血流にのって全身に行きわたることになります。このような状態を()原性(げんせい)(きん)血症(けつしょう)といいます。そして、血液中に入った歯周病菌などが毒素つまりLPS(リポポリサッカライド)を出しながら血管の内側に働き炎症をおこします。歯原性菌血症が継続することにより、全身血管の炎症が慢性的に続くことが、歯周病がさまざまな生活習慣病に関連する理由です

花田教授は

新型コロナウイルスの感染で免疫系が低下した場合、この歯原性菌血症が*敗血症に変わっていく、あるいはサイトカインストームに発展していく。

敗血症―生命を脅かす感染に対する体の反応。時としてショックや著しい臓器障害をきたし死に至る場合もある。

と言われていました。

あるコロナ関連記事の見出しにも

「症状は肺炎だけではない?」「脳からつま先まで全身に」

また、チューリッヒ大学の医師のコメントとして

「新型コロナは肺が主戦場だが、これは血管の病気だ」

現時点ではわからないことも多く、確定的なことが言えない状況です。

しかしながら毎日の歯磨きなどのセルフケア定期的なお口の中のクリーニングなどのプロフェッショナルケアを継続して歯周病をコントロールすることで、仮に新型コロナウイルス感染症にかかったとしても、重症化を防ぐことができる可能性が高いと思います。

今後さらに詳しいことがわかりましたら、ブログ等で紹介をしていきます。



おまけ

メディカルドグマとは

ドグマとは宗教などの教義や独断的な説を指します。必ずしも誤りという訳ではないのですが、状況によって柔軟に解釈したり対応をしないとならないことを喚起する時に用いられる言葉です。

「治療上ウイルス感染症に抗菌剤を使うとは何事か」

花田教授はこのことをメディカルドグマだと。

新型コロナウイルス感染症の治療に抗ウイルス薬を用いることは、もちろん正しいことです。そしてコロナウイルスには抗菌剤はききません。

しかし細菌性肺炎も同時におきているのならば、抗菌剤を出すことも考えなければなりません。(実際には抗菌剤が出されているケースもあると思いますが、まったく話題にはのぼりません。)

花田教授には約10年前から、歯科医師会イベント事業のご指導をいただいています。口腔衛生学会では毎年、共同で発表をしております。教授の功績、見識だけでなく、お人柄も存じ上げております。

にもかかわらず、実は最初に花田教授の提言を目にした時には、私自身もあまり信じられませんでした。最終的には提言内容を理解し、皆様にご紹介するに至りました。ある意味私にもメディカルドグマという言葉は当てはまるわけです。

現時点で花田教授の提言内容に確固たるエビデンスがあるのかと言うと、無いと言わざるを得ません。

しかしエビデンスがないから誤りという訳ではありません。

エビデンスが確立するには、必ず時間がかかります。

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