先日、保育園歯科医を担当している保育園で保護者の方対象の歯科講和を行いました。
むし歯の予防方法や歯磨きをはじめる時期など、離乳期からのお口の健康の守り方について話をさせていただきました。
事前に保護者の方から、「乳幼児期における噛むことの大切さ」についての質問がありました。当日はこの質問の回答になるようなスライドも用意して話をいたしました。
前回のブログでは、高齢者の食に関する話をいたしましたので、今回は離乳期からの子供の食の話をしたいと思います。
「よくかむことは“あいなのだ”」は、かむことの大切な要素の頭文字を並べたもので
東京都から発行された
「歯と口の健康からはじめる-食育サポートブック-」に掲載されているスローガンです。
「あ」 顎への影響
「い」 胃腸の消化吸収を高める
「な」 なんでも食べて生活習慣病予防
「の」 脳への活発な刺激
「だ」 唾液の効果とダイエット効果
とそれぞれを意味し、かむことが全身に与える影響を表しています。
乳幼児期から思春期にかけては、よくかむことにより顎の発育を促すことが大切です。正しいかみ合わせやきれいな歯並びに成長していくことができます。
この食育サポートブックには「カミカミ番付表」なる食品の一覧も掲載されています。
また、好ききらいなく何でも食べる習慣がつくと、将来にわたって健康的な食生活をおくれる可能性が高くなります。もちろんこのことは生活習慣病予防につながります。
親としてはご飯やパスタだけではなく、野菜や果物や魚などいろいろな食品を食べさせたいと思うはずです。
ここで一つ問題があります。
親が食べて欲しいと思った料理や食材を子供は必ず喜んで食べてくれるでしょうか?
少なくとも必ず喜んで食べることはないはずです。
いくら、顎の発育に役立つ食品を知っていても
あるいは、健康的な料理をたくさん用意することができても
それを食べてくれないことには、何の意味もありません。
つまり、顎の発育によい食品や健康的な料理に関する知識が重要なのと同じくらい、それを子供に食べさせる知恵も重要であるということです。
実は、この問題の解決の糸口になるような本を見つけました。
人はこうして「食べる」を学ぶ
イギリスの女性フードジャーナリストが著者で
-最新の知見と「食べる技術」「食べさせる知恵」を“母親目線”で探るユニークな書-と評されています。
以下に本書の内容の一部を私見もまじえて紹介させていただきます。
(以下の写真は私が用意したもので、一部は保育園歯科講和でも使用しております)
幼い頃の味の好みが肥満の原因になるともいわれています。私たちのまわりには、糖分や脂肪分や塩分の多い食品があふれています。そして、そのような食品に手をのばすことが多いように思います。これは糖分、脂肪分、塩分の多い食品をひんぱんに口にすることにより、そのような味がおいしいと学習した結果です。
野菜や果物などもひんぱんに口にさせて、おいしいと学習させればいいということになります。
そうはいっても、無理に口に押し込むことは避けたいものです。
それは
無理やり口にいれられた食品=嫌いな食品
となる可能性が高いからです。
子供が自分の意志で、自発的に野菜などを好むように工夫することが賢明ではないかといかということになります。
例えば、上の写真のように手掴みさせてみる。
触ってみる
↓
匂いをかいでみる
↓
口にいれてみる
↓
食べる
毎日このようなことをやっている時間はあまりないですし、散らかってしまいます。
なかなかハードルは高いかもしれませんが、たまに試してみるのも良いかもしれません。
乳幼児期は新しい食べ物に対して恐怖をいだくことは正常で、このような恐怖心は野菜や時として肉や魚にも向けられるようです。
最初はほんの一口だけ口にいれてみる(本当に小さいかけらで)
↓
何もおこらない
「ね、トマトを食べても死ななかったでしょ!」
↓
恐怖心、嫌がる気持ちが少しずつ消えていく
(何回も繰り返して、ほんの少しずつ食べさせる)
↓
ある日突然、大好物に
ただ、最初のほんの一口を食べさせるのが最大の難関ではあり、子供を説得するのはかなり骨の折れる作業です。
ここで注意しなければいけないことがあります。
野菜などの食べさせたい食材を口に入れる見返りを、お菓子(好きなもの)にしてはいけないという点です。
ある行為に報酬(見返り)を与えられると、この行為はあまり楽しくなくなってしまうようです。つまり、子供は野菜が好きになるのではなく、今まで以上にお菓子が好きになってしまうのです。
どうしたらよいか。
やはり、その料理、食材を子供の前でおいしそうに食べることでしょう。また、子供の大好きな人形を食卓に連れてきて食べさせるまねをするのも良いかもしれません。恐怖心や不安感を取り除いてあげることが大切です。
健康的な食生活を目指すことにはあまり異論はないと思います。
では、ジャンクフードをはじめとした砂糖や脂肪たっぷりのお菓子類を徹底的に子供から遠ざけるべきなのでしょうか?
多くの研究によると、子供の健康に最も良い結果を残している食べさせ方があります。
それは、子供に対して正しい食生活をおくることをしっかりと教育する一方で、子供が発信することに対しても耳を傾けるというやり方です。
無理強いをしないし、お菓子などにもほどほどに寛容であるが、それなりに食生活に関しては管理をしているという家庭のイメージでしょうか。
本文中では
「子供にとっての最高のシナリオとは、ジャンクフードはあまりおいていないが、砂糖と脂肪の悪徳について大騒ぎをしない家庭に育つことだ。」
とありました。
厳しい対応をとりすぎると、子供に体重増加をまねく行動に走らせてしまう場合があるようです。過剰な砂糖や脂肪の制限は逆効果ということです。
最後に
「終章 アドバイスに変えて」より、一文を紹介します。
子供によりよく食べてもらいたいのであれば、指示するのをやめよう。自分自身がよい食をめざすこと。
子供に食べさせるときのわたしたちの行動は、たいてい目先のことしか考えていない。ほんとうは次の五年間について考えねばならないときに、次の五分間について思いわずらっている。野菜を残さず食べなさいと子供に圧力をかけるのは、野菜を ― ついでにいえば、あなたのことも ― 嫌いになりなさいと教えているようなものである。ほんの一口食べるように説得すれば ― そして次の日も、また次の日も、その次の日も同じようにしていけば ― 野菜の好きな子に育つ可能性が高くなる。(336ページ)
おまけ
ジョージ・H・W・ブッシュ第41代大統領(父ブッシュ)はブロッコリーが大嫌いだったそうです。大統領専用機(エアフォース・ワン)の機内食からブロッコリーを追放したほどです。ブロッコリーなどのアブラナ属の野菜は、細胞壁がこわされるときに出される物質が苦味を感じさせます。
特定の味覚、とくに苦味に対して強く反応する人を「スーパーテイスター」というそうです。これは遺伝子のなせるわざのようですが、ブッシュ大統領もこの遺伝子を受け継いでいたのでしょうか。
ただ、ある研究では「スーパーテイスター」が必ずしもブロッコリーなどの野菜が嫌いな訳ではないという結果を出しています。
好き嫌いの傾向は遺伝子よりも環境のほうが重要な役割を果たしているようです。
「食べることは学んで得られる習慣」という言葉をかみしめて、これからの自身の食習慣を見つめ直していきたいと思います。