前回ブログの続きで、以前(2017年)にも取り上げた話題です。
子ども(歯がはえてきた赤ちゃん)の歯みがきをはじめようとしても、嫌がってできない。多くの親が直面する難題の一つです。
私も長女の歯みがきをはじめる時は、苦労した記憶があります。(ちなみに次女の時は、すんなりと!)
「本能」と「経験」、この二つのキーワードから、子どもの歯みがきをスムーズにできるヒントを示します。
なぜ歯みがきを嫌がるのか?
痛いこと、不快なことは誰でも嫌です。また未知のもの(歯ブラシ)には、不安を感じます。興味より不安が上回れば、やはり嫌、となります。
歯みがきを嫌がる子どもの声を想像してみました。
「いきなり、変な棒を口につっこまれて、ガシガシ動かされたらいやだよ!」
だいたいこのような感じではないでしょうか。(あくまでも、個人の見解です。)
一生懸命にみがこうと力がつい入ってしまうと、歯肉を傷つけ、痛みを感じさせてしまいます。痛いことが嫌なのは、いうまでもありません。
上の図のように、上唇内側の真ん中に、上唇小帯というスジがあります。気をつけないと、歯みがきの時に傷つける可能性があります。これも要注意点です。
親としては、むし歯予防つまり病気の予防のために、気合を入れてにみがこうとします。一方で子どものは、親の思いは理解していないので、抵抗します。
暗くてよく見えない、子どもの小さい口の中。なおかつ、じっとしてない。
痛くなく、不快でないように歯みがきをするのは、至難の業です。
結局歯みがきをするには、子どもが上を向いて大きな口をあけて、動かないでいてもらわないと難しいのです。
このような状態が確立できるように、少しずつステップアップしていくことが重要。
歯みがきに取組む時の注意点
前回ブログで、以下のように紹介しました。
上下の前歯が8本程度はえそろう、1歳前後から取組みはじめたらどうでしょうか。
2022-3-24 歯みがきはいつはじめるか?
この時期からであれば、最初の問い「歯みがきはいつからできればよいか?」の答えである、1歳半までに約半年、少なくとも2,3ヶ月の猶予があります。
十分に時間をかけて、せかすことなく、取組みはじめる。そうすれば1歳半の奥歯がはえる頃には、歯みがきが習慣化できるようになります。
つまりいきなり歯みがきをはじめるのではなく、準備期間をとるのです。
保育園の保護者向け歯科講和では、歯みがきに取組む時の注意点として以下のようなことをあげています。
- 子どもの機嫌の良い時、眠くない時にする
(歯みがきは食後にするものです。準備期間では時間はといません。取組やすい時にはじめましょう。) - お母さんの気持ちが落ち着いている時にする
(あせったり、力が入りすぎてはいけません。) - 優しく、軽い力でみがく
- 簡単で構わないので短時間で
(最初は歯みがきをしなくてもOKです。歯ブラシを口に入れられればOK。) - 歯みがき剤をつけない
(フッ素入り歯みがき剤をつけた方がよいのですが、なれるまではつけない方が無難です。)
これらのことを参考に取組んでいただければよいのですが、もう一歩ふみ込んで考えていきます。
本能と経験
2019年に港区主催の「脳科学から見る親子関係」という講演会がありました。実はこの講演会は、児童虐待をテーマにしたものでしが、子どもの歯みがきに関して参考になればという思いで、聴講しました。
この講演会で、キーワードとなったのが、「本能」と「経験」です。
この二つのキーワードを、子どもの歯みがきがスムーズにできるヒントに応用します。
「脳科学から見る親子関係」という講演会の内容は、最後のおまけで簡単に紹介いたします。
本能
一つの目のキーワードは、「本能」。
上の写真のように、抱きしめたり、スキンシップをとることは、子どもにとってもちろん心地よいはずです。
小さな子どもにとって、親は生存に欠かせない存在です。小さな子どもは自然と親が好きになり、一緒にいようとする愛着行動という本能を備えています。優しく触れ合うことを、本能的に好むはずです。
優しく触れ合うように、歯みがきをするのが理想になります。そうすれば歯みがきは、子どもにとって、とても幸せな時間になるはずです。
歯みがきに取組みはじめる時は、歯をみがくよりも、スキンシップ重視が効果的になります。
実際には子どもにとって、幸せな時間にならないケースが多そうです。なんとかむし歯にならないようにという親心が、前面に出すぎると、上手くいきません。
きれいに歯みがきをしようと、歯ブラシを握りしめる。鬼の形相?で、押さえつけてでもみがこうとする。
怖い!不快!痛い!
冒頭の写真のような反応になりがちです。
なんとか歯みがきが、好きになることを目指してください。
歯みがきを好きになる、あるいは抵抗なく受け入れるには、もう一つのキーワードもポイントになります。
経験
もう一つのキーワードが、「経験」。
「経験といっても、嫌がって経験させることができないではないか!」というツッコミが聞こえてきそうです。
「脳科学から見る親子関係」では、実際に自分で行動をすることだけが「経験」ではない。他者の行動を見ることも「経験」だと。
小さな子どもは、主に両親との小さな社会関係の中で成長していきます。両親との関係が世界のすべてに近いです。
いつも親の行動、表情、言葉などに注目しています。
きっとこのような日常を、いつも目にしていると思います。
今回は子どもの歯みがきが話題ですが、当然のことながら、ご両親も1日3回食後の歯みがきをしているはずです。
1日3回の食後の歯みがきを、子どもが自然と目にする機会が多ければ多いほど、歯みがきの経験となります。
歯みがきや歯ブラシが未知のものではないことが重要です。
逆に自分でみがくと、言いはる場合もあるかもしれません。歯ブラシを口に入れたまま動き回るのは危険です。注意をしながら、一通りやらせてみてはどうでしょうか。
その後に親が歯みがきをする。子どもは親にいろいろと世話をしてもらうのが普通です。本来は嫌がらないはずです。
前回ブログにも書いたように、歯みがき絵本の活用も効果があります。絵本に登場するキャラクターの歯みがきの様子を、経験できます。
親子で歯みがきという行為や歯ブラシという物を、共有できれば、親の意図をくみ取ってくれるはずです。(9ヶ月革命といいます。前回ブログを参照してください。)
すぐに歯みがきができるようにはならない
いくら「本能」、「経験」などさまざまな工夫をしても、すぐに歯みがきができるとは限りません。
再三紹介しているように、準備期間をとりましょう。歯みがきに取組みつつも、歯をみがかなくてもよい期間が必要です。
また小学校入学前後から、自分での歯みがきもはじまります。それでも当分の間は、それまでと同じように親による歯みがき、いわゆる仕上げみがきが必要です。仕上げみがきは小学校中学年くらいまでできるのが理想です。
優しく触れ合うように、仕上げみがきをすることを子どもは嫌がらないと思います。
冒頭で紹介したように、長女の時は歯みがきをはじめるのに苦労しました。30年以上前のことなので、どのようにして歯みがきができるようになったか、まったく記憶がありません。
次女は長女が気持ちよさそうに歯みがきしてもらっている姿を、いつも目にしていました。つまり十分に経験をしていたので、次女は苦労せず、歯みがきができるようになりました。
経験というよりは、模倣という言葉が近いかもしれません。
二人とも仕上げみがきが大好きで、予定通り小学校中学年まで仕上げみがきができました。
おまけ
本文でふれた、2019年港区主催の講演会「脳科学から見る親子関係」の内容を簡単に紹介いたします。
2021年4月に港区子ども家庭総合支援センター(子ども家庭支援センター・児童相談所・母子生活支援施設)が南青山5丁目に開設されました。この開設に先だって行われた講演会です。
講師は理化学研究所脳神経科学研究センターの黒田公美先生です。
哺乳類全般の子育ての観点から、子育てには「本能」と「経験」が必要と話されていました。
脳には子育ての時に活性化する部分が全員に備わっているとのこと。つまり養育は「本能」である。
また「経験」に関しても、子育てをしている人を見て学ぶことが経験となると。
哺乳類の親は「それなりによい親」になる、という言葉が印象的でした。
それでも実際には、育児放棄や児童虐待が社会問題になっています。その対策や、子ども家庭支援センターの役割についてが、この講演の主題でした。