前回、糖質の取り方に気をつけると糖尿病だけでなくむし歯や歯周病予防にもなるという話をしました。今回はむし歯や歯周病と少し離れて、糖質を中心とした食事に関しての話をします。
近年、糖質制限あるいは糖質制限ダイエットなるものが多くの人に知れ渡るようになっていると思います。私は2013年に発刊された
炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学 (光文社新書)
という夏井睦先生の著書でこの考えに初めて触れました。
夏井先生の専門は形成外科で「新しい創傷治療」~消毒とガーゼの撲滅を目指して~を提唱されている医師です。
私が所属する芝歯科医師会でも2007年に先生をお招きして会員向けの講演会が開催され、私も聴講しました。
火傷を含めた傷は消毒してはいけない、ガーゼを当ててはいけないという、それまでの治療法を真っ向から否定する新説を示され、とても新鮮な驚きを経験した記憶があります。
その夏井先生が専門外?の栄養学にも首を突っ込んだのかと当惑しながらも、手に取り拝読させていただきました。
この本を読んで以降、私が糖質制限をしたわけではないのですが、糖質を取ることに十分に注意が必要であるという思いを強くし現在に至っております。
ここで一応ですが、用語の確認をいたします。
炭水化物=糖質+食物繊維
糖質はむし歯の原因になり血糖値上昇を起こします。
食物繊維はむし歯の原因になりませんし血糖値の上昇も起こしません。
一口に糖質といっても砂糖などの食物繊維を含まないものもあれば、玄米のように食物繊維が豊富なものもあります。
夏井先生は昨年の新刊
炭水化物が人類を滅ぼす【最終解答編】 植物vs.ヒトの全人類史 (光文社新書)
においても炭水化物全般を控えるべきという説を展開されております。
(食物繊維は重要なので炭水化物以外のものから十分にとるべきとも書かれています。)
では日本糖尿病学会の見解はどうでしょうか?
糖尿病診療ガイドライン20163食事療法を読んでみました。
糖尿病の予防には、肥満の是正が第一であるので、総エネルギーを適切に抑えるなどの生活習慣の改善が重要であるとなっています。
「炭水化物摂取量のみの減量によって体重減少することはなく、血糖コントロールやインスリン抵抗性の改善についても、根拠となる研究結果は得られていない。」と糖質制限の有用性を否定する記載があります。特定の栄養素つまり炭水化物だけを減らすのではなく各栄養素の適正なバランスを保ち、総エネルギーを摂りすぎないようしていくという従来の考え方です。
ただ、3-4炭水化物の摂取量は糖尿病の管理にどう影響するか?では
「炭水化物摂取量と糖尿病の発症リスク、血糖コントロールとの関連性は確認されていない。」との記載がありますが
「ショ糖(砂糖)の摂取量を抑え、それによって体重や血糖コントロールなどに資する可能性がある。」
「炭水化物の摂取が血糖に直接影響を及ぼすことから、食事中の炭水化物を計算してインスリン量を調節する手法を応用カーボカウントと呼ぶが、応用カーボカウントを日常的に取り入れることは、*1型糖尿病患者の血糖コントロールに有効であることが示されている。」
とも書かれていました。
専門外なのであまり確定的なことは言えませんが
従来からの総エネルギー摂取量(糖質だけではなく)を管理し、血糖コントロールを行うという考え方をそのまま維持しつつも、糖質制限の有用性を微妙に取り入れつつあるようにも見えます。
次のガイドラインではどのようになるのか、興味津々です。
*1型糖尿病-膵臓のインスリンを出す細胞が、壊されてしまう病気。世界的には糖尿病全体の約5%が1型糖尿病と言われており、生活習慣が関わる2型糖尿病とは、原因、治療が大きく異なる。
糖尿病学会所属の先生の中にも「ロカボ」なるゆるやかな糖質制限を提唱されている先生もいます。
糖質制限の真実 日本人を救う革命的食事法ロカボのすべ て (幻冬舎新書)
最近、テレビにも出演されている北里研究所病院糖尿病センター長山田悟先生です。
山田先生はカロリー制限を行うより、血糖に直接影響する糖質をコントロールすることにより、糖尿病の予防をしていくことを提言しており、糖尿病学会のガイドラインとは相反する?主張です。
ただ、夏井先生のように炭水化物全般を控えるというものではなく、“緩やかな”糖質制限を勧められています。
ロー(低い)カーボハイドレート(炭水化物)→「ロカボ」なる言葉を考案され、普及させたいとしておられます。食後の血糖値を上げているのは炭水化物の中の糖質だけで、食物繊維はたんぱく質や脂質と同じように、一緒に食べることによって糖質摂取に伴う血糖の上昇をなだらかにしてくれるので、食物繊維を決して控えるべきではなく、炭水化物抜きは良くないとされています。
昨年、山田先生の講演を聞く機会がございました。その中で先生は糖尿病学会の新しい糖尿病診療ガイドライン(2016)では糖質制限の考え方を若干取り入れてくれているといったことを話されていたと記憶しております。
話がややこしくなりますが、食事の大半(約80%)を植物由来の炭水化物から摂るべきであると主張している方もおります。
このようにして見ていくと、諸説入り乱れているように感じられるかもしれません。
ただ、すべての説に共通している部分があると思います。
・糖質の摂りすぎは良くない
・食物繊維の摂取は重要
この2点に関しては、表現に差はあっても共通する見解だと思います。特に砂糖を含んだスイーツ、アメやジュース類は極力控えるべきであるということです。(当たり前のことのように思います。)また、果物はある程度取るべきだが、摂りすぎは果糖の摂りすぎにつながるので気をつける必要があるということです。
(夏井先生は果物全般を控えるべきとされています。)
食物繊維は健康の維持には欠かせないということも共通しています。最近、腸内細菌も私たちの健康に大きく関わっていることが知られてきました。食物繊維は腸内細菌の大切なエサになるようです。
私は正直に言うとスイーツが大好きです。
適正体重を維持していることもあり糖質制限をする気持ちは今のところ全くありません。ただ、甘い飲料を極力控える、菓子類も必要最低限にという気持ちを持っております。また、血糖値の急上昇を起こさないようにも気をつけたいとも思います。
もちろん食物繊維の摂取にも気を配ります。
普通の健康な成人であれば、アメをなめたり砂糖の入った飲料を頻繁に飲む習慣がなければ、そう簡単に新しいむし歯できることはないはずです。また、歯垢がたくさんつき歯周病のリスクが高くなることも防げます。
まさに砂糖は共通のリスク因子です。
砂糖が入った甘い飲料にスポーツドリンクは、もちろん入ります。
CMでは「日常的に飲むもの」とのイメージで宣伝されていますが、絶対にそのようなことはありません。
体調の維持に必要なミネラル分が含まれているかもしれませんが、基本的には砂糖水です。極端に体の水分、ミネラル分が失われた状態では、とても有効であるとは思いますが、大半の方はそのような状況ではないときに飲んでいるように感じます。
某ポカリスエットのCMはあまり好きではありません。
糖質の摂りすぎにつながります。血糖値の急上昇を招きます。
おまけ
夏井睦先生の本の一節に
「インスリンは血糖値を下げるホルモンではなく脂肪を貯めるためのホルモンである。」とあります。もちろん、インスリンは血糖値を下げる働きをしますが、それは本来の働きではないという考え方です。
血糖値を上げるホルモンは5種類あるのに、下げるホルモンが1種類というのは、多くのホルモンが体の機能のバランスをとるために存在していることを考えると不自然極まりないということのようです。また、インスリンが分泌されてから血糖値が下がるのに2時間もかかるということも奇妙であるとしています。先史時代のヒトの食生活では血糖値が下がることがあっても上がることはほとんどなかったとも推測されています。
よって、「インスリンは中性脂肪にできる血糖(ブドウ糖)があれば、中性脂肪に転換して脂肪細胞に取り込ませる働きをするホルモンである。」となるようです。食料の調達が不定期的になりがちだった先史時代を考えると、理にかなったシステムだと思います。
糖尿病がいよいよ重症化し、インスリンが枯渇していまい、急にお痩せになられてしまう方がいらっしゃいます。この事は、そうなられた方には大変お気の毒ではありますが、「インスリンは脂肪を貯めるホルモン」という言葉がとても理解できる場面ということになります。
インスリンがたくさん出れば、脂肪を貯めやすくなるだけではなく、インスリンを作る膵臓にも負担をかけます。野菜や肉、魚を先に食べてご飯などの炭水化物は後で食べる方が健康に良いといわれています。このような食事の仕方はインスリンの出方が緩やかになり、肥満や糖尿病の予防になるはずです。
おまけのおまけ
昨年8月には*The Lancetから「炭水化物の摂取増加で死亡リスク上昇」なる論文が出され話題になりました。
「炭水化物は体に悪い?脂質をたくさん摂るほど体に良い?」といった見出しで解説されている報道を目にしました。この論文は2017年世界一の論文に選ばれたとの事です。ただ、この見出しだけを鵜呑みにするのは危険であると考えます。
匿名のサイトではありますがこのサイトの解説がわかり易いと思いますので、ご興味のある方はご一読ください。
*The Lancet(ランセット)-1823年に創刊されたイギリスの医学雑誌。最も権威のある医学雑誌の一つ。