今回は口臭の話をします。
口臭とは
「呼吸や会話時に口から出てくる息が第三者にとって不快に感じられるもの」です。
口臭の原因は舌
人と話をしていて、相手の口臭が気になった経験はどなたも一度や二度はあるはずです。とても不快ではありますが、逆に自分の息が臭かったらどうしようと心配になる場合もあります。
自分が口臭を出さないように歯磨きを一生懸命にしたり、マウスウォッシュをしたりする方も多いと思います。どちらも間違いではないのですが、根本的な解決にはなりません。
それは一番の原因が舌だからです。
昔から胃が悪いと口臭の原因になるなどと言われていました。100%舌が原因ではないので、最初に舌以外の原因にふれてみたいと思います。
ある大学病院の口臭外来の統計では、お口の中以外が原因となるのは全体の10%以下と出ています。
その中のほとんどは耳鼻咽喉科系疾患、呼吸器系疾患が原因になります。副鼻腔、のど、気管支などに炎症がある場合に口臭の原因になります。まれにですが、がんの場合もあります。
以前から言われているような、胃が悪いことは原因にほとんどありません。胃と食道の間は括約筋で閉じられているので、胃の中の空気が口に出てくることはゲップ以外にはありません。
お口の中が原因の口臭が全体の90%以上です。
舌以外の原因として挙げられるのが、歯周病、むし歯と入れ歯の汚れです。
歯周病が重症で歯肉から膿が出てきているような場合は当然ですが口臭の原因になります。ただ、そこまで重症な方はそれほど多くはおりませんし、多少の歯周病ではあまり口臭の原因にはなりません。
むし歯も大きな穴があいたむし歯が何本もあれば口臭につながるかもしれませんが、レントゲン写真を撮ってわかるようなむし歯数本あったとしても、普通は口臭の原因にはなりません。
入れ歯の汚れは口臭の原因になりますが、取り外せるものですし毎日清潔にしていれば比較的簡単に解決はできると思います。
口臭の原因は舌についている舌苔
どんな方でも多少の口臭はあるものです。これを生理的口臭と言います。もちろん私にもあります。
この生理的口臭の原因が舌についた舌苔と呼ばれる汚れです。口臭の一番の原因はこの舌苔です。
舌苔は舌背部(舌を出した時に見える、舌の上の全面)のザラザラしたところにたまる汚れのことです。舌苔の成分はお口の中の細菌と*剥離上皮細胞が主になり、血液成分や食べ物の成分も多少含まれることもあります。
*剥離上皮細胞―新陳代謝によって剥がれた粘膜表面の細胞。お口の中の垢と言ってもいいかもしれません。
上の写真にあるように、舌の真ん中あたりが白くなっています。この部分が舌苔のついているところです。
正常な舌の色は舌の周囲のやや白味がかった薄いピンク色です。正常な舌は全体的にこの薄いピンク色をしています。
舌苔がついているところは周囲に比べて白くなっています。場合によっては黄色あるいは茶色がかった色にもなります。タバコを吸われる方は薄く茶色になることが多いです。
この舌苔が多量に付着していて臭いの度合いが強いと、生理的口臭というよりは治療が必要な病的口臭になります。(治療と言っても舌苔の落とし方を指導する程度です。)
口臭が強い時間帯がある
生理的口臭は特に朝起きた時が一番強いのが普通です。
寝ている間は唾液の分泌が減り、お口の中の細菌が増えてしまうからです。
上の図の青い線が口臭として感じられるラインです。
起床時のみ、気持ち口臭が感じられる程度のレベルです。
舌を見て白くなっていなくても舌の表面のザラザラした部分に剥離上皮と共にお口の中の細菌が繁殖して臭いの原因になります。
普通の方はこのレベルで、朝食を食べたり歯磨きをしたりすると口臭が感じられないレベルになります。
上の図の赤い線が口臭として感じられるラインです。
舌苔の付着が多く口臭のレベルがある程度高くなると、起床時以外でも口臭の感じられる時間帯が出てきます。特に食事前の時間帯や緊張感がある時などに口臭が感じられるレベルを超えてきます。
勘違いをされている方もおられますが、食事をすると口臭が増えるのではなく、食事をしてから時間が経つほどつまり食事の直前ほど口臭は強くなるのが普通です。
図を見ると歯磨きをすると口臭レベルが下がるようにもみえます。しかしそうではなく、食事をすることにより口臭レベルが下がるのです。食べ物や食事の時たくさん出た唾液が舌の汚れを洗い流してくれるので口臭が出にくくなります。
緊張をすると唾液があまりでないので、お口の中が乾いた状態になりやすいのです。
午後の時間帯に緊張感のある仕事をこなした後の夕食前の時間帯は、ある程度お口の中を清潔にしている方でも口臭レベルが上がります。私は夕食前の時間帯も、口臭要注意の時間帯だと思っています。
上の図の赤い線が口臭として感じられるラインの方は生理的口臭とはいえません。起床時や夕食前の限られた時間帯だけではなく、常に口臭がある状態です。このレベルになると病的口臭になります。
意識して舌苔の清掃をしないと、周囲の方に迷惑をかけることになります。
病的口臭だけではなく、生理的口臭をできるだけ少なくするには、ご自身の舌をよく観察して舌苔をきれいにしていくことが大事なポイントです。
おもに舌苔が付くのは舌の後ろ2/3(上の図の青枠内)です。動きが大きい舌の先の方には、あまりつくことはありません。
舌苔が付いていますと患者さんにお伝えしても、いつもきれいにしていますと答えられる方がいます。確認をして見ると舌先だけを清掃しているケースが多いようです。やりづらいですが舌の奥の方を清掃しないと、肝心の舌苔はとれません。
舌苔の落とし方
そうは言っても、舌の奥の方を清掃するのはやりにくいものです。
歯ブラシではなく、専用の舌クリーナーなどで奥から手前に向けて搔きとるように動かすときれいになります。
舌の表面のザラザラしているのは、主に糸状乳頭といわれる構造で、やや奥に向かって斜めになっています。このザラザラした糸状乳頭の間にこびりつくように舌苔はついています。
ですので、可能な限り奥から手前に向けて搔きとる意識が必要です。
では可能な限り奥とはどのあたりでしょうか?
具体的には上の図の青い線あたりです。
舌の奥の方にはボタンのような構造をした有郭乳頭があります。それより少し手前が清掃をする範囲になります。
ただ、実際にこの有郭乳頭を鏡で確認するのは至難のワザです。そこまで器具を入れるなんて普通は無理です。
やはり、表現としては可能な限り奥からということになります。
しかし、どうしても奥まで舌クリーナーを入れようとすると嘔吐反射(おえっとなる)がおきやすくなります。この事が舌の掃除をさける原因になります。
嘔吐反射をおこしにくくするには次のような工夫をすると良いです。
①起床直後に行う
(食後や歯磨きの後は嘔吐反射がでやすいといわれています。)
②最大限に舌を前に突き出す
(前にあまり出ていないと、舌クリーナーが上顎の奥にあたり嘔吐反射の原因になります。)
③呼吸を止めて、一気に行う
私も朝起きて顔を洗う時に舌の清掃をします。(歯磨きはもちろん食後です。)
では、どのくらいの頻度で行えばよいのでしょうか?
大切なことは舌の状態を目で見て確認することです。
写真にあるように、舌の周囲の薄いピンク色とは明らかに違う白色(黄色や茶色のこともある)のところが舌苔が付いている場所です。
原則的には1日1回といわれておりますが、あまり舌苔が付いていないようであれば1週間に2,3回でもよいと思います。ただ、唾液の出が少なくなったご高齢の方などは舌苔が付きやすくなっていますので、1日1回が良いでしょう。
何回くらい搔きとればよいでしょうか?
汚れの状態にもよりますが、数回以内です。あまり回数が多いと舌を傷つけてしまいます。大量に舌苔が付いている場合は、1度にすべて取ろうとせずに何日かに分けて除去するくらいで良いと思います。
力加減は強すぎず弱すぎずです。
強すぎると舌を傷つけますし、弱すぎると舌苔はあまり取れません。最初のうちは鏡で確認しながらやってみてください。
港区『お口の健診』では舌の汚れの検査があります。
港区区民の方はこの健診を利用して、舌の汚れをチェックしてみて下さい。
おまけ
近年、大病院でも診療所でも診療科名に漢方外来を標榜するところが増えています。
漢方・中国医学では舌診といって、舌の状態(色や形)や舌苔の付き方を診て診断をする方法があります。舌だけを診て薬を出すわけではないのですが、舌の清掃をしないように注意される場合もあるかもしれません。
私も漢方薬を処方したもらうことがありますが、そこの病院では舌の清掃についてあまり注意されることはありません。ただ、病院で注意される場合は、少なくとも受診前の数日間は舌の清掃をしなくてもよいのではないかと思っております。