口臭予防の切り札は舌みがきです。お口の中が原因の口臭は、舌みがきをすることで大半は解決します。が、舌みがきが力を発揮するのは、口臭予防だけにとどまりません。
特にこのコロナ禍においては重要性がアップ。さらには大腸がん予防にもつながる?今回は健康寿命を延ばすには、歯みがきだけではなく舌みがきも大事という話です。
口臭の原因は舌
いうまでもなく、舌みがきをする目的は口臭予防が主になります。
口臭の原因は、舌背部(舌を出した時に見える、舌の上の全面)のザラザラしたところについた、舌苔と呼ばれる汚れ。舌苔は白っぽい色(黄色やうす茶色の場合も)をしています。
何でできているかというと、お口の中の細菌と*剥離上皮細胞。いっそのこと、細菌の塊といっても差しつかえありません。
*剥離上皮細胞―新陳代謝によって剥がれた粘膜表面の細胞。つまりお口の中からでる垢。
Googleで「舌苔」と検索し、画像をクリックすると舌苔がついた舌の画像を見ることが出来ます。
口臭には、誰にでもある生理的な口臭と病的な口臭があります。舌やお口の中以外の原因も少ないですがあります。
詳しくは、2018-11-6 息が臭いのは舌のせい!
口臭の予防法などを解説しています。
朝の起床直後が、誰にでもある生理的な口臭が出る時間帯です。寝ている間は唾液が出ません。お口の中、特に舌のザラザラした表面では、夜中が細菌の繁殖しやすい時間です。
顔を洗う時に、舌みがきもすることがお勧め!
舌みがきも大切ですが、しっかりと朝食をとることが口臭予防になります。スムージーなどの液体だけではなく、固形物をしっかりと咀嚼してだ液を十分にだして、食事をしてください。起床直後の生理的口臭を打ち消してくれます。
舌の細菌が肺炎をおこす
肺炎と聞くと、真っ先に新型コロナウイルス感染症による肺炎を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし日本人の死因の上位に常にあがっているのが、誤嚥性肺炎です。厚生労働省の統計では、年間の誤嚥性肺炎による死亡者数は4万人あまりです。
新型コロナウイルス感染症による死亡者数が、4月26日に累計で1万人(約1年間で)を超えたと報道されました。毎年その約4倍の人数が、誤嚥性肺炎で命を落としているわけですから、軽視は禁物。
舌みがきは誤嚥性肺炎予防になります。さらに新型コロナウイルス感染症の肺炎発症の予防効果があります。
誤嚥性肺炎について
誤嚥とは、飲み込んだものが食道ではなく、気管に入ってしまうことです。喉の周辺の筋肉や飲み込みの機能が衰えた高齢者に多く見られます。だ液などに混じったお口の中の細菌が気管から肺に入ることによって、誤嚥性肺炎が起こります。
健康な人(だ液量が十分ある・何でもよく噛める)の場合
食事の時などに、歯や舌の細菌はある程度洗い流される。
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洗い流された細菌は、だ液とともに飲み込まれる。
(飲み込まれた細菌には害はない・腸内細菌には影響?)
機能が衰えた高齢者(だ液量が少ない・固いものが嚙みにくい)の場合
食事の時などに、歯や舌の細菌はあまり洗い流されない。
↓
歯や舌の細菌が増えていく。特に舌は細菌繫殖の温床になる。
↓
飲み込むだ液中の細菌量が多くなる。
↓
誤嚥して、肺炎を起こしやすくなる。
このメカニズムから、原因であるお口の中の細菌数を少なくすることがポイントになると、イメージできるのではないでしょうか。
まさにその通りです。細菌の塊?である舌苔を除去しましょう。
歯みがきだけではなく、舌みがきも十分にすることが誤嚥性肺炎予防になります。
新型コロナウイルス感染症について
新型コロナウイルスは、ACE2という細胞の受容体(レセプター)から感染する。このACE2受容体は、舌や歯肉など、お口の中の粘膜にも多く存在します。
コロナウイルスはお口の中で増え、唾液腺にも感染します。
大声で話したり歌を歌うと、唾液の飛沫が飛び、感染が拡がるのです。
歯みがき、舌みがきや洗口剤の使用は、お口の中のウイルス量を少なくするので、感染拡大には効果がある。しかし新型コロナウイルス感染症の、自分自身の感染予防にはあまりならないと思います。
コロナに関して、舌みがきが効果を発揮するのは重症化予防です。
最初にウイルス性肺炎がおこり、引き続き細菌性肺炎に移行する。そして細菌性肺炎に前後して起こる免疫の過剰反応(サイトカインストーム)というのが、新型コロナウイルス感染症の重症化のシナリオです。
特に高齢者の場合、ウイルス性肺炎によるダメージの後に、誤嚥による細菌性肺炎に移行しやすい。日頃からの舌みがきが生死をわけるかもしれません。
2020-7-16 歯周病が新型コロナウイルス感染症を重症化させる で紹介しているので、詳しくはコチラを。
お口の中の細菌と腸内細菌の関係
お口の中の細菌(以下口腔内細菌)が腸内細菌に影響を及ぼし、そこから全身の病気に影響を与える道筋が明らかになりつつあります。(ここからが今回のブログの本題に、実はなります。)
だ液の中には歯周病菌などの多くの細菌が含まれており、計算上では約1,500億個の口腔内細菌を毎日飲み込んでいる。
でも飲み込んだ細菌は胃を通過するときに、強酸である胃酸でほとんど殺菌されます。仮に腸内に口腔内細菌が到達しても、腸内の抗菌タンパク質などにより口腔内細菌の影響は受けないと考えられています。
ところが近年の研究で、代表的な歯周病菌であるPorphyromonas gingivalis(プロフィロモナス・ジンジバリス 以下P・G菌)が、腸内細菌を変化させ、腸内の免疫に悪影響をおよぼし、全身的疾患に関連していることが明らかに。
お口の中にはP・G菌以外にも700種類以上の細菌がいます。その中には腸内で悪影響をおよぼす細菌がいても不思議ではありません。そして舌についている舌苔は、口腔内細菌の宝庫。
大腸がんが予防できる?
ここでクローズアップされているのが、Fusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム 以下F・ヌクレアタム)という歯周病菌の一つです。この菌は舌苔の中にも多くいることが知られています。
国立がん研究センターから、大腸がんの関連細菌を特定したと発表がありました。
「メタゲノム・メタボローム解析により大腸がん発症関連細菌を特定」
この発表によると、初期がんから進行とともに増加する菌としてF・ヌクレアタムとPeptostreptococcus stomatis(ペプトストレプトコッカス・ストマティス)があげられていました。ともに口腔内細菌です。
横浜市立大学医学部肝胆膵消化器病学講座の研究では、大腸がん患者のがん組織とだ液から、共通したF・ヌクレアタムが存在していることが明らかに。お口の中のF・ヌクレアタムが、大腸がんに関与していることを、強く示唆していると書かれていました。
舌みがきをしっかりすると、F・ヌクレアタムを少なくできます。そして大腸がんのリスクを下げることができるはずです。
ただ現時点では、ピロリ菌と胃がんほどの明確な関連が裏付けられているわけではありません。
ほぼピロリ菌しかいない胃と違い、腸内には約1,000種類の細菌が生息しています。個人の腸内細菌には、食品の影響も大きいでしょう。ピロリ菌と胃がんの因果関係のように単純にはいかない。
この辺りは今後の研究成果に期待します。
大腸がんとF・ヌクレアタムの関係で話を進めました。しかし腸内細菌への影響、全身疾患への影響は、やはり何と言ってもP・G菌です。P・G菌は極悪非道。P・G菌の悪の所業については、いつかまた紹介します。
今回のブログでは舌みがきに焦点をあてました。もちろん歯みがきと定期的なクリーニングが重要なのはいうまでもありません。口腔内細菌を減らす確実な手段です。
プラスして、実は細菌繁殖の温床になる舌にも、注意を向けてほしいのです。
繰り返しになりますが、口腔内細菌が腸内細菌に影響を与えることが明らかになりつつあります。
口腔・腸内細菌連関
今後注目のキーワードです。