港区では平成29年度より、40歳以上の区民を対象として口腔がん検診が行われるようになりました。港区以外では世田谷区や江戸川区などでも実施されています。
口腔がんとは
お口の中のあらゆる場所に出来るがんの事です。
(歯以外のあらゆる場所です。歯にはがんはできません。)
特に多いのが舌に出来る舌がんです。それ以外には歯肉、舌の下の部分や頬、唇の内側にも多くできます。
ブログタイトルにあるように「口腔がんは増えているのか?」ですが
答えは
増えています。
これは前回のブログのおまけでも書いたように、高齢になればなるほど、がんができやすくなるので、高齢化が進んだ日本においては当然の結果で、今後もこの傾向は続くということです。
Googleで「口腔がん」と検索し、画像をクリックすると舌がんを中心とした口腔がんの画像を見ることが出来ます。
国立がん研究センターの統計では、口腔がんと咽頭がんを合わせて統計をとっています。
上のグラフのように、1975年には2.500人程度でしたが、2013年には2万人にせまる勢いです。
口腔咽頭がんの約40%程度が口腔がんであると推定されています。
このように口腔がんは年々増加しているのですが、がん全体から見るとどのくらいの割合なのでしょうか?
日本頭頚部癌学会の2010年の資料では、男性 3.9%、女性 2.0%とあります。
先程の国立がん研究センターの統計から計算すると2013年では男女合計で2.2%となります。
この数字は口腔・咽頭がんの合計ですので、その40%程度の口腔がんの割合は1~2%程度になると思います。他の統計をみても同じような割合ですので、あまりメジャーながんではないのは事実です。よって、希少がんの一つという見方をされています。
2013年の罹患者数の多いがんの全がんに対する割合を見ていくと、以下のようになります。
1位 胃がん 15.3%
2位 大腸がん 15.2%(結腸がんと直腸がんの合計)
3位 肺がん 13.0%
4位 乳がん 8.9%
5位 前立腺がん 8.7%
(国立がん研究センターの統計より算出)
行政の方はよく「5がん」という言葉を口にします。
胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮がんの五つのがんは患者数が多く、これらのがん検診を効果的に実施して、がんによる死亡率を下げていこうと考えています。
逆に希少がんの場合は、公費を支出してがん検診を行っても効果的に死亡率を下げることが出来ないので、希少がんに対する検診は不要であるという考え方もあります。
では、希少がんの一つである口腔がん検診は本当に必要ないのでしょうか?
口腔がんの死亡率は高いといわれています。
国立がん研究センターの統計では人口10万人当たりの死亡数から死亡率を算出していますので、もともと罹患者数の少ない口腔がんの死亡率はあまり高くありません。
しかし、罹患者数に対する死亡者数の割合は46.1%と「5がん」などのメジャーながんに比べると高い割合になっています。
理由を特定するのは難しいですが、お口の中にがんが出来ることを知らない方は多いと思います。昨年度、港区の口腔がん検診を受診された方でも、そのようにおっしゃっていた方が多数おられました。
また、お口の中では歯周病や口内炎など、体調によって症状が強く出たり、収まったりを繰り返す病気が多いという現実があります。歯肉や舌に異常を感じても、たいしたことがないと思い放置してしまうケースが多いのではないでしょうか。
初期の口腔がんでは、90%以上の治癒が期待できます。しかし、進行がんとなった場合は60%以下になると言われています。
今年の2月にアメリカで以下のような記事が発表されました。
「がんサバイバーにおける自殺:リスクは頭頸部がんで最高」
Suicide Among Cancer Survivors — Highest Risk in HNC(Head and neck cancer)
(会員制のサイトの記事のためリンクは貼れません。)
頭頚部がんとは
口腔・咽頭がんに喉頭がんを加えた、顔面から首にかけての範囲に出来るがんの事です。
(鼻は含みますが、目や脳などは含みません。)
頭頚部がん以外の全がん種を統合した自殺率は、男性および女性の両方において、頭頚部がんの自殺率よりも約45%低かったとのことです。
自殺は「悲惨さの指標」のようなものと書かれていました。
頭頚部がんのサバイバーは場合によっては大きく外見が損なわれることや機能障害に直面します。
上顎に出来たがんを切除すると場合によっては顔面に大きな穴が出来ることがあります。顔に穴があくわけですから、見た目のインパクトは相当なものです。
最も多い舌がんでは、初期がんでなければ舌の半分もしくは全部を切除することになります。お口の最も大切な機能である食事を美味しく食べるという機能が著しく損なわれます。また、会話などの人とコミュニケーションをとる機能も低下します。
体の中に出来るがんでは起こらないようなことが起きるのです。
全てのがんに言えることではありますが、口腔がんは早期発見・早期治療が大きなポイントになります。
やはり口腔がん検診は必要だと考えます。
では、口腔がんにならないようにするにはどうすれば良いでしょうか?
国立がん研究センターの「がんのリスク・予防要因 評価⼀覧」を見てみると
最大のリスク要因は喫煙であることがわかります。
確実となっています。
(その他、飲酒や刺激物などの嗜好品もリスクになるといわれておりますが、この一覧には記載がありません。)
がん細胞が出来るには、発がん物質(イニシエーター)と発がん促進剤(プロモーター)が必要という説があります。(発がん多段階説)
タバコは発がん物質にもなり、発がん促進剤にもなるようです。タバコを吸われる方は禁煙をされた方が良さそうです。
歯が欠けたり、詰め物が取れたりした場合、歯の一部が鋭くなってしまうことがあります。
この鋭くなっているところで、舌や頬の内側がすれてキズが出来ることがあります。
痛みが強ければ、すぐに治療に来られると思いますが、痛みが少ない場合は放置してしまうケースがあります。
何年も放置したうえ、タバコや飲酒などの発がん促進剤が加わると、がんになってしまうことがあります。
歯が欠けたり、取れたところをそのままにしないということは、がんを予防するために出来る簡単な行動の一つです。
口腔がん検診の対象者は、年1回ではありますが是非とも受診して下さい。
対象者でない方や対象者でも検診期間以外で気になるところがある場合は、早めに受診をして下さい。
その時には、お口の中のどこそこが気になると、はっきりとお伝え下さい。お口を普通に開けていただいただけでは、がんが出来そうな場所は全く見えません。舌、頬や唇を引っ張ったり除けたりしながら、気になる部分を見ていきます。
著者は国立がん研究センター社会と健康研究センター長の津金昌一郎先生です。
津金先生は口腔がん検診には否定的な考えの持ち主ではありますが、がん予防を真剣に考えている方にはお勧めの一冊です。
おまけ
噛みタバコ、檳榔、檳榔子、betel nut(ビーテルナッツ)という言葉を聞いたことがありますでしょうか?
東南アジアや南アジアの国々では、檳榔というヤシ科の植物の種子である檳榔子をコショウ科のキンマの葉の上にのせ石灰にまぶして、嗜好品として噛みタバコのように噛む習慣があります。檳榔子のことをbetel nut(ビーテルナッツ)、areca nut(アレカナッツ)とも言います。
檳榔子には*アルカロイドの一種アレコリンが含まれます。この成分はタバコのニコチンと同じような作用があるため依存性があります。そして、発がん性があることがわかっています。
檳榔子を噛む習慣のある国では、口腔がんが全がんの中で、最も多いがんである国が少なくありません。「所変わればなんとやら」でしょうか?
*植物中などに含まれる、窒素を含む塩基性化合物の総称。ニコチン・コカイン・カフェインなど。生物に顕著な薬理作用をもつものが多い。