前々回のブログで「食後30分以内の歯みがきはNG」は誤った情報と明言いたしました。
ではいつ歯みがきをするのがよいのでしょうか?
歯みがきをする目的
答えを出す前に
歯みがきする目的を確認していきましょう。
一番の大きな目的はお口の中の病気、歯を失う原因になる病気を防ぐためです。
もっと具体的に言えば、むし歯と歯周病の予防のためにです。
それ以外としては
口臭予防、審美的な目的なども考えられます。
口臭は2018-11-6 息が臭いのは舌のせい!で書いたように、舌の清掃が重要ではありますが、食べかすが残っていたりするのは、多少は原因になるかもしれません。
重症なむし歯や歯周病も口臭の原因になりますので、口臭予防も歯みがきの目的としてよいと思います。
審美的な目的としては、歯面への茶渋などの着色予防が挙げられます。また、食後に前歯などの目立つところに食片がついているのはNGではないでしょうか。食べかすをきれいにすることも目的に入ります。
このように病気の予防が第一の目的ではありますが、エチケット的な目的も合わせてあるのが歯みがきです。
いつ歯みがきをすればよいのか?
一般的には
1日2~3回歯みがきをすることが推奨されています。この2回ないし3回はいつでしょうか?
朝食後、(昼食後)、就寝前 の2~3回です。
朝と昼は食後ですが、夜は食後ではなく寝る前ということです。
食後であったり、食後ではなかったり、何となく一貫性がないようにも思われるかもしれません。
歯みがきをする目的から、なぜこのような表現になるのかを考えていきます。
最初に、病気を予防する立場から考えてみます。
ご存知のように、歯周病もむし歯のお口の中に住む細菌が原因です。
もう少し具体的に言うと、歯の表面に住みついている歯周病菌とむし歯菌が原因です。歯周病菌、むし歯菌を含むお口の中の細菌が歯の表面についているのが、プラーク(歯垢)です。このプラークをしっかり落とすことが病気の予防になる事はご理解いただけると思います。
ただ、歯周病とむし歯では予防の戦略が少し異なります。
歯周病を予防するには
歯周病予防から考えていきます。
日本歯周病学会のホームページを見てみると以下のように書いてあります。
「確かに食事の後は、口腔内細菌の活動性が高まるので歯磨きするのが理想的です。しかし、不充分な歯磨きを一日三回毎食後にするよりは、夜お休み前の一回だけでもしっかり時間をかけて丁寧に行き届いた歯磨きをした方が効果的です。」
つまり、歯みがきをするタイミングより1日1回でも丁寧にみがくことが大切ということです。
ここで注意していただきたい点は、丁寧にという表現には歯間ブラシやデンタルフロスなどの歯間清掃具の使用も含まれるということです。
「夜お休み前」を勧めている理由は二つあると考えます。
一つは時間に余裕があるという点です。歯ブラシで丁寧にみがき、さらに歯間清掃具を使うとなると、それなりに時間がかかります。腰を落ち着けて歯みがきに集中できる時間にするとよいということです。
(余裕のある時間帯は、それぞれのご家庭により違うかもしれません。)
もう一つの理由は、寝ている間はだ液がほとんど出ないので、お口の中の細菌が増えやすいということです。寝る前になるべく細菌の数を少なくしておくためです。
極端な言い方をすれば、歯周病予防だけを考えるなら、1日1回いつでもよいので、歯間清掃具の使用を含めて丁寧に歯みがきをすればよいということになります。
むし歯を予防するには
次に、むし歯予防から考えていきます。
歯周病予防と違い少し複雑です。というのは、むし歯のリスクは各年代により異なるからです。
乳歯やはえたての永久歯は溶けやすくむし歯のリスクが高いです。また思春期には、食生活の乱れからリスクが高くなりがちです。つまり乳幼児期と学齢期はむし歯のリスクが高い時期なります。
歯の表面のエナメル質は唾液中のカルシウムなどを取り込み少しずつ溶けにくくなります。このことをエナメル質の成熟といいます。これにより子供より大人つまり成人期はむし歯のリスクは低くなるのが一般的です。
しかしながら、年を重ねて高齢期にはいるとむし歯のリスクは再び高くなります。だ液が減ることや歯肉が下がりむし歯になりやすい歯の根の部分が出てくることが原因です。
むし歯のリスクが高い時期は食後の早いうちに歯みがきをすることが大切です。脱灰している時間を短くするためです。食後30分を待ってはいけません。
(脱灰とはむし歯菌が作った酸によって、歯からミネラルが溶け出すことです。そして脱灰は、飲食が終わってから20分程度は続きます。)
参考 2017-3-3 歯みがきができていれば、むし歯にならないか?
そして、フッ素入り歯磨剤を使うことが何よりも重要です。むし歯予防のための歯みがきは、プラークを落とすこともさることながら、フッ素をお口の中に運ぶということが最大の目的と言っても過言ではありません。
ここでも極端な言い方をすると、むし歯予防には歯みがきにかける時間は短くても、1日に複数回、食後の早いうちにフッ素入り歯磨剤を使って歯みがきをすればよいということです。
(朝、学校に行く前に短時間でも構わないのでフッ素入りの歯磨剤を使用することはむし歯予防にとても効果的です。)
歯周病とむし歯では歯みがきの効果を最大限に発揮するには、戦略が異なることをご理解ください。
もう一つの目的、エチケット的な立場から考えてみます。
どなたも食後の口臭を気にされると思います。ただ、口臭の主な原因は舌についている舌苔ですので、口臭はむしろ食後少なくなります。
そうは言っても、食べた食品によっては臭いが気になる場合もありますし、食べかすを取ることを考えると毎食後の早いうちに歯みがきをするのがよいという結論になります。
茶渋などの歯の着色を少なくするには、1日に複数回、歯磨剤を使って歯みがきをする必要があります。この時の歯磨剤は液体ではなく、練り歯磨剤でなくてはいけません。練り歯磨剤には微量の研磨剤や界面活性剤などの汚れを落としやすくする成分が含まれているからです。
いつ歯みがきをすればよいか(人それぞれではある)
以上の歯みがきの目的から総合的に考えていくと
1日2~3回
朝食後、(昼食後)、就寝前に歯みがきをするのがよいという表現に落ち着きます。
もちろん、食後の歯みがきのタイミングを30分待つ必要はありません。
(むし歯のリスクが高い人は3回とも食後すぐに歯みがきをしてもよいと思います。ただし、そのうち少なくとも1回は時間をかけることを忘れずに。)
人により歯周病、むし歯のリスクが違うだけでなく、毎日の時間の使い方なども千差万別です。
それぞれのお口の中の事情と仕事や勉強の事情に合わせて、歯みがきの回数と磨くタイミングを考えていくことをお勧めします。
おまけ
私自身はどのようなタイミングで歯みがきを何回しているかを紹介させていただきます。
私は1日3回歯みがきをしています。
歯みがきのタイミングは朝食後、昼食後と夕食後もしくは就寝前です。
もちろん、3回ともフッ素入り歯磨剤を使っています。
時間をかけて磨いているのは朝もしくは夜です。フロスなどの歯間清掃具は朝か夜のどちらかに使っていますが、たまにしない日もあります。その他の2回はとても短時間で済ませてしまいます。
食後のどれくらいの時間に磨くかは、その時によります。忙しい時は食後すぐに磨きますし、そうでない時は30分以上してから磨くこともあります。結構、いい加減です。
自分ではむし歯のリスクは低いと判断しています。その判断の元に、食後すぐに歯みがきをしないこともあるのです。
ホテルなどに宿泊した時は、朝食の前に歯をみがくます。レストランの朝食ブッフェに行く前に歯をみがきます。
これは、歯みがきをしていない状態で人前に出ることがはばかられるという感情的な理由(口臭予防というエチケット的な理由も多少あります)からです。
そして、朝食後にはもう一度、歯みがきをします。これは病気の予防とエチケット的な理由です。
一部では朝起きた時には、お口の中には多くの細菌が繁殖しているので歯みがきやマウスウォッシュをした方がよいと言われています。確かに朝のお口の中には細菌が多いのは事実です。
ただ、細菌は食事といっしょに飲み込んでも、ほとんどは胃酸で死滅します。お口の中の細菌を体の中に入れるのは良くないからと言われていますが、それは血液中に入ることで様々な悪影響が出るのです。歯みがきをしないで食事をしたとしても、何の問題もありません。
2017-2-2 お口の健康がなぜ健康寿命に影響するか?part2
を参考にして下さい。