毎年6月の「歯と口の健康週間」に学校歯科医を務める白金小学校で、4年生全員を対象に6時間目の授業枠を使って歯科講和を行っています。この講和は学校歯科医の職務の一つです。

歯科講和の後に児童たちは宿題が出され、講和で聞いた内容や質問を書いたワークシートを提出します。このワークシートに書かれた質問に答えていくことが、毎年の私の夏休みの宿題です。

昨年、一昨年とこの質問に対する回答をピックアップして、紹介いたしました。ワークシートの中に、保護者の方からの感想を記入する欄があります。

ここ数年、給食後にも歯みがきをしてはどうかというご意見が見られるようになりました。今回はこの「給食後の歯みがき」について考えてみます。

 

港区には区立小学校が18校あります。正確な数はわかりませんが、給食後の歯磨きを実施している区立小学校は2校程度のようです。港区ではほとんど給食後の歯みがきは行われていないのが現状で、私の担当小学校でも行われていません。

以前に養護教諭に給食後の歯みがきが実施できない理由を聞いたことがあります。

以下のような理由があげられていました。

・歯ブラシなどの管理の問題

・歯みがき後の洗口する蛇口数の不足

・時間的な制約

 

毎年、歯科健診などで10回程度学校に出向きますが、養護教諭の職務の多さをいつも目のあたりにしております。担任教諭も同じように日々の業務を抱えているはずです。現在の状況では学校で歯みがきをするのは困難だと思っていました。

では本当に学校で歯みがきをしなくてもよいのでしょうか?

結論としては、給食後の歯みがきは実施するべきです。

 

私も昼食後には歯みがきをします。朝食後と昼食後、ねる前(夕食後)の3回歯みがきをすることはスタンダードではないかと思います。もちろんお仕事によっては昼食後の歯みがきが難しい場合もありますが、それぞれのオフィスで歯みがきをされている方が多いはずです。

とくに小学生は自立した生活習慣を獲得しはじめる時期になります。はえて間がない永久歯はむし歯になりやすい特徴があります。昼食後の歯みがきをおろそかにしていい理由がみあたりません。

では具体的にどのような理由で給食後の歯みがきを実施すべきなのかを少し掘り下げて考えていきます。

 

なぜ歯みがきが必要なのでしょうか?

2019-3-10 いつ歯みがきをすればよいのか?

で以下のように書きました。

一番の大きな目的はお口の中の病気、歯を失う原因になる病気を防ぐためです。

もっと具体的に言えば、むし歯と歯周病の予防のためにです。

それ以外としては

口臭予防、審美的な目的なども考えられます。

 

何と言っても、むし歯と歯周病(小学生では歯肉炎)予防が重要です。保護者の方もむし歯予防などを気にされていると思います。

 

まずむし歯予防の点から検証していきます。

給食後の歯みがきがほとんど実施されていない港区ではむし歯が多いのでしょうか?

文部科学省学校歯科保健統計および東京都学校歯科保健統計より

12歳児(中学1年生)のむし歯数の変化を全国と東京都、港区にわけて表したのが上のグラフです。

 

2019-5-20 日本人のむし歯が多い?理由

で紹介をした12歳児DMFTという数字で比較しています。

12歳児DMFTは全世界的に用いられ、各国のむし歯の状況を比較するのによく使われます。

12歳児DMFT

12歳児の1人平均のむし歯の本数です。むし歯になっている歯だけではなく、むし歯で抜いた歯とむし歯で治療した歯のすべての合計の本数です。
DMFTの意味は以下の通りです。
D: decayed(蝕まれた)=未処置歯(むし歯になっている歯)
M: missing(失われた)=喪失歯(むし歯によって抜いた歯)
F: filled (詰められた)=処置歯(むし歯で治療した歯)
Tは歯です。
1人平均のむし歯の本数というより、むし歯の経験歯数と言った方が理解しやすいかもしれません。
なぜ12歳児かというと、中学1年生くらいはちょうど大人の歯がはえそろう年齢です。12歳を永久歯列のスタート、つまりもっとも永久歯のむし歯が少ないベースライン(基準となる年齢)ととらえているのです。

 

先ほどのグラフをサラッと眺めてみるだけで、全国的にむし歯が減っていることが実感できると思います。さらに港区は、もともと全国(東京都でも)と比較してむし歯がとても少ないことがわかります。現在の全国のむし歯数には、港区では約10年前にはそのレベルに達していました。最新の2018年の集計でも、全国が0.74本に対して港区では0.5本となっています。

 

全国的にむし歯が減っている理由は

2017-3-20 最も効果的なむし歯予防法

で紹介をしたように

フッ素配合歯みがき剤が歯みがき剤の販売シェア90%以上に普及したことが最大の理由と考えられています。

港区で全国と比較してむし歯が少ないのは、住民のお口の健康に対する意識が高いからではないかと推測していますが、正確なところはわかりません。

いずれにしても港区では給食後の歯みがきの有無にかかわらずむし歯の数は、全国市水準を大きく下回りながら減ってきています。私見ですが、今後港区内の小学校すべてで給食後の歯みがきを実施しても、さらにむし歯の数が大きく減っていくことはないと考えています。

 

次に歯肉炎について検証していきます。

歯肉炎に関しては12歳児DMFTのように世界的に統計がとられている指標はありません。

港区の学校保健統計より

 

この二つのグラフは港区立小・中学校児童・生徒の歯肉に炎症所見が認められる者の学年・男女別に比較したものです。

小学生では学年を追うごとに、歯肉に炎症所見が認められる者が増えていきます。そして中学生になると、その割合は爆発的に?増えています。小・中学生ともに男子の方が割合が高い傾向もあります。

平成19年度と29年度の比較では、小学生と中学生女子では減っているようですが、中学生の男子はあまり変化がないようです。

ちなみにこの歯肉に炎症所見が認められる者というのは、歯肉炎とGO(軽度の歯肉炎)の合計です。

歯肉炎予防にはなんらかの対策の必要性がありそうです。

 

しかし

2019-3-10 いつ歯みがきをすればよいのか?

で歯周病(歯肉炎も含む)を予防するには、1日1回でも丁寧にみがくことが大切であると紹介しました。

給食後の歯みがきをしなくても、歯肉の所見が無い児童が大半です。給食後の歯みがきがなければ、歯肉炎を防げないということはありません。

 

はっきり言ってしまえば

むし歯も歯肉炎も原因は家庭にあり、学校にはありません。給食後の歯みがきを実施しなければむし歯と歯肉炎を防げないという理由はありません。私が今まで、給食後の歯みがきを学校に対して強く推奨しなかったのはこのことからです。

 

では何のために、給食後の歯みがきが必要なのでしょうか?

冒頭にも書いたように小学生は自立的な健康習慣を獲得し始める時期です。

食後の歯みがき習慣を定着させていくには、給食後の歯みがきは有効なはずです。

小学校低学年までであれば、保護者による仕上げ磨きも十分可能だと思いますが、中学年以上になると難しくなることが多いと思います。

昼休みに友達が歯みがきをしている姿を見るだけでも、刺激を受けるはずです。直接的な病気予防の効果が少なくても、最も大事な家庭での歯みがきなどのセルフケア向上には役立ちます。

何よりも食後に歯をみがくという行為はあたり前で、ごく自然な行動です。学校の先生方の多くも給食後に歯をみがかれているのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、学校にむし歯や歯肉炎の原因はありません。原因は家庭にあります。だた、家庭でのセルフケアを手助けする意味で、給食後の歯みがきは必要です。