健康寿命とは、WHOが提唱した新しい指標で、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことです。
例えばある人口の平均寿命が80歳とした場合、健康寿命が77年であれば、不健康寿命が3年と計算されます。
平均寿命=健康寿命+不健康寿命
例: 80歳 = 77年 + 3年
例で不健康な期間を3年としましたが、実際はどうでしょうか?
これは、厚生労働省から発表された平成22年のデータによるものですが、不健康寿命つまり日常生活に支障がある期間は、男性で9.13年、女性で12.68年ということです。とても長いと私は感じます。ここ十数年の移り変わりが下のグラフです。
なんとなく、一度開いてきた差が少し縮まりつつあるようにも見えますが、さてどうでしょうか。平成28年のデータは今年に発表されますので、注目しましょう。
ここで、一つ疑問があると思います。健康寿命は一体どうやって出すのかということです。平均寿命は死亡という、だれの目から見ても明らかな事実より計算できます。しかし、健康寿命は健康をどのようにとらえるかによって変わってくるはずです。
健康日本21(第2次)では、健康寿命を、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間と定義されています。
先ほどの数字は、厚生労働省が実施している、国民生活基礎調査の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という質問に対する回答(「ある」「ない」)をもとに、日常生活に制限のない期間の平均を計算しています。(実際には、「自分が健康であると自覚している期間」のデータも加えて計算をしています。)そして、3年に1度、公表されています。
詳しい計算方法を知りたい方「健康寿命の算定方法」をご覧ください。
そんな簡単な質問をもとに、計算をしているのかと思われる方もいうかもしれませんが、海外でも広く健康寿命を計算する時に使われている指標の一つです。また、自分が健康であると自覚している期間は主観的健康感と呼ばれる指標で、医師による診断結果と相関関係があるとされています。
不健康寿命の期間すべてが、要介護状態というわけではありませんが、短いに越したことはないと思います。
生涯にわたり、自分の足で歩き、自分の口から何でも食べられることが大切です。言いかえると、一生涯おいしい物をたくさん食べ、やりがいのある仕事や好きな趣味などに時間を費やしていきたいと誰しも考えるのではないでしょうか?ただ、そうはいかない現実があるということになります。
健康日本21(第2次)では、「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」を目標に掲げており、健康寿命を長く保つには、6つの要素があるとしています。
①栄養・食生活
②身体活動・運動
③休養
④飲酒
⑤喫煙
⑥歯・口腔の健康
①~⑤の重要な健康習慣に加えて、6番目に「歯・口腔の健康」とはっきりと示されています。お口の健康を維持することは、歯を失わないだけではなく、全身の健康に大きく影響することが明らかになってきています。この分野は当然ですが私たち歯科医師、歯科衛生士などが専門家ということになります。平成23年に私が講演した港区健康講座の内容を企画するにあたっても、健康寿命の延伸というテーマを念頭においてはおりました。その後、区内各所において同じような内容の講演を重ねるにつれて、このテーマの重要性がより明確に整理され、より多くの方々にお伝えしたいという気持ちで、webサイトの新設およびブログ開設にいたりました。
昨年に出版されたLIFE SHIFT(ライフ・シフト)という本があります。これはロンドン・ビジネススクールの教授が書いたものです。この本によると「2007年にアメリカやカナダ、イタリア、フランスで生まれた子どもの50%は、少なくとも104歳まで生きる見通しだ。 日本の子どもにいたっては、なんと107歳まで生きる確率が50%ある。」となっています。2007年に生まれた人が100歳を迎えるのは、今から約90年後になります。内閣府から出された平均寿命の推移と将来推計(約45年後まで)を見ると、かなり大げさな数字とも思えますが、昨今の平均寿命の延びが、これから100年間も継続するなら妥当な数字ともいえます。
人生が100年近く続くならば、働く期間は長くなり、貯蓄の重要性を高くなります。つまり、資産(お金)の管理が大切ということになります。しかしこの本では、それだけではなく目に見えない無形の資産の重要性に紙面の多くを割いています。
無形の資産とは
一つ目は生産性資産で、人が仕事で生産性を高めて成功し、所得を増やすのに役立つ要素。
二つ目は活力資産で、肉体的・精神的な健康と幸福。健康、友人関係、パートナーやその他家族との良好な関係が該当。
最後は変身資産で、100年ライフを生きる人たちは、その過程で大きな変化を経験し、多くの変身をとげるために必要な資産。
健康に関しては二番目の活力資産の一つとして挙げられています。しかしながら、生産性を高めて所得を増やす、あるいは人生の半ばで大きな変身をとげるには、健康であることが条件であると思います。長い人生の中では、入院を伴うような闘病期間も避けられないとは思いますが、トータルでなるべく長くの健康でいる期間の確保が基礎となるのではないでしょうか。
健康寿命を長く保つことを、日常生活の中で常に意識していくべきです。
本書にあるように、自分の親世代では考えられなかった、100年にも及ぶ人生が、私たちにとっての厄災になるのではなく、私たちへの贈り物と思えるようになるにはどうすればよいかを真剣に考えていかなければなりません。