むし歯の原因や予防法については「2017-3-3 歯みがきができていれば、むし歯にならないか?」で話をいたしました。今回は歯周病の原因と予防法について話です。
ところで
歯肉炎、歯周炎、歯周病、歯槽膿漏などの病名がありますが
(歯周疾患という言葉が使われることもあります。)
正確に違いがわかる方は少ないのではないでしょうか?
でも、なんとなく歯ではなく歯肉の病気であるのはご存知だと思います。
歯肉は歯ぐきのことです。歯周は文字通り歯の周りです。歯槽は上下顎骨の歯の根が埋まっている穴のことです。4つの病名とも歯の周りの組織の病気(炎症)の名前です。
歯周病(=歯周疾患)は大きく歯肉炎と歯周炎にわけられます。
歯肉炎、歯周炎、歯周病、歯槽膿漏は並列ではなく
歯周病
歯肉炎
歯周炎
というある意味階層構造になる訳です。
歯肉炎は歯肉の周りの細菌によって起こる歯肉の炎症のことです。症状としては歯肉が赤くなったり、腫れたり、血が出やすいなどがありますが、痛みがないことがほとんどです。また、レントゲン写真を撮っても骨が溶けていない状態です。小学生でもよく見られます。
歯肉炎―歯肉だけが炎症を起こす。骨が溶けていない。
歯周炎はやはり細菌によって起こる炎症によって歯周組織が破壊される病気です。歯周組織とは歯肉、歯根膜(歯の根と歯槽骨をつなぐ繊維)と歯槽骨(顎の骨)などの歯のまわりの組織を指します。つまり、顎の骨が溶けていくことが最大の特徴で、例外を除いて成人の病気です。
歯周炎―歯肉だけではなく歯周組織全体が破壊される。骨が溶ける。
ただ、実際には歯周病=歯周炎の意味で使われることが多いです。
成人を対象としての場合は特に断りがなければ歯周病=歯周炎と解釈していただいて良いと思います。歯槽膿漏は最近は使われない病名ですが歯周炎のこと言っています。
歯周病≒歯周炎(=歯槽膿漏)という感じでしょうか。
当院のブログ「歯科医がおしえる健康寿命の延ばし方」では成人の一般的な歯周炎を歯周病と表記しています。今回のブログの歯周病も同様です。
(もちろん、一般的でない歯周病もあります。歯周病について詳しく勉強したい方は日本歯周病学会の「歯周治療の指針2015」と参照して下さい。)
とても前置きが長くなりましたが、言葉の意味を正しく理解していただくと、新しい情報を選別するときに役立つと思います。
歯周病の原因はプラーク(歯垢)です。プラークは細菌の塊といってよいです。
日本歯周病学会のホームページには以下のように書かれています。
「プラークとは、歯に付着している白、または黄白色の粘着性の沈着物で、非常に多くの細菌とその産生物から構成されています。またプラークはバイオフィルムとも呼ばれていて強固に歯に付着しているだけでなく、薬品だけでは除去しにくい状態になっています。そのためにしっかりと歯ブラシ等で除去することが大切になります。」
歯周病は簡単に言えば、歯磨きが不十分でプラークが歯に残っていることによって起こる病気です。
むし歯は「2017-3-3 歯みがきができていれば、むし歯にならないか?」で書きましたように、歯磨きを丁寧にしていても防げない病気ですが、歯周病は毎日の歯磨きで十分防げる病気です。
歯周病菌という言葉を聞いたことがあると思います。当然ですが、歯周病の原因となる細菌です。
むし歯菌は前回のブログで書いたようにミュータンス菌です。
歯周病菌として挙げられているおもなものは以下の菌です。
Porphyromonas gingivalis ポルフィロモナス・ジンジバリス
Treponema denticola トレポネーマ・デンティコーラ
Tannerella forsythia タネレラ・フォーサイシア
Aggregaitibacter actinomycetemcomitance アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス
私たちでも覚えるのが大変な名前ばかりです。ただ、最初のPorphyromonas gingivalisはP・G菌といわれ、とても悪名高い歯周病菌です。この名前だけは覚えておいて損はないと思います。
むし歯菌は「おおよそ生後19ヶ月~31ヶ月の間に主たる保育者(多くの場合はお母さん)より唾液によって感染します」と前回のブログで書きました。今度は歯周病菌がいつ感染するのだろうかという疑問が出てきます。
小学生でもよく見られる歯肉炎も歯周病と同じ原因で、歯が磨けていないことによって起こります。
ただ、歯肉炎は歯周病菌がいなくても起こります。歯肉炎はむし歯や歯周病のように決まった細菌がいなくても起こる病気です。
では歯周病菌はいつ、どのようにお口の中に棲みつくのでしょうか?
むし歯菌のようにはっきりとしたことはわかっていませんが、一般的には思春期以降に唾液により感染するといわれています。(家族、パートナーなどから)ある専門家は乳歯から永久歯にはえかわる混合歯列期以降ではないかとも言っております。
ここで、一つポイントがあります。
先程挙げた歯周病菌は偏性嫌気性菌といって酸素を嫌う種類の細菌であるということです。
歯の表面は普通は酸素に常に接している環境になり、歯周病菌には住みにくいはずです。
上の図のように歯と歯肉の間には2mm程度の深さの歯肉溝という溝があります。
ところが歯肉炎になり歯肉が炎症を起こし腫れてくると、この溝が深くなり歯周ポケットといわれる溝になります。
歯周ポケットが深くなると酸素が届きにくくなる場所ができます。
すると唾液をとうして入ってきた歯周病菌が住みつく可能性が高くなります。
思春期以降に歯肉炎が継続していると
歯周病菌に感染をしてしまう可能性が高くなる
歯周病菌に感染すると、歯周病になる可能性が高くなる
将来、歯周病が重症化して歯を失うことになる
歯周病菌に感染しないようするには?
歯周病菌が好む場所を作らない
それには、歯周ポケットを作らないようにする
歯周ポケットができるきっかけは歯肉炎
歯肉炎は毎日の丁寧な歯磨きで防げる
(仮に歯肉炎になっても、歯磨きですぐに治ります。)
10代からの適切な歯磨きが歯周病を予防する最大のポイントです。
そうはいっても、もう成人になってしまい、10代の頃はちゃんと歯磨きをしていなかった人はどうすればよいのでしょうか?
それは次回のブログで!
文中で歯周病菌が感染する時期について「ある専門家は乳歯から永久歯にはえかわる混合歯列期以降ではないかとも言っております。」と書きました。乳歯が抜けて永久歯がはえてくる時を思い出してください。といっても見たことがないから思い出せないと言われるかもしれません。
どのような状態かというと、歯が完全にはえきる前は歯肉が歯の頭に半分くらいかぶさっています。かぶさっている歯肉は仮性ポケットといわれる溝を作ります。病気ではないのですが、一時的に酸素が届きにくい環境ができてしまいます。この時に歯周病菌がお口の中に入ってくると感染の危険が大きくなるわけです。混合歯列期以降に歯周病菌に感染するというのはこのような理由です。