歯周病が新型コロナウイルス感染症を重症化させる

20206-15 新型コロナウイルス感染症 歯科にできること
で歯周病がコントロールさせていれば、新型コロナウイルス感染症の重症化が防げる可能性があると書きました。情報が整理されてきたので、再度紹介いたします。

新型コロナウイルス感染症重症化の三つのキーワード

お口の中を清潔にしていても感染を防げませんが、重症化を防ぐことが出来ます。重症化さえしなければ命が危険にさらされるわけではないので、この新型コロナウイルス感染症に対する恐怖を和らげることが出来ます。

お口の中の健康と歯周病、歯周病菌などがどのようなメカニズムで新型コロナウイルス感染症の重症化にかかわっているのでしょうか?

前回のブログ同様に、鶴見大学歯学部探索歯学講座教授花田信弘先生の見解をまとめました。

歯周病菌に代表されるお口の中の細菌が、新型コロナウイルス感染症を重症化させる経路として以下の三つのキーワードが挙げられます。

(きん)血症(けつしょう)

②エンドトキシン血症

誤嚥(ごえん)(せい)肺炎(はいえん)

特に上の二つが重要になります。

Our World in Dataというwebサイトが、ドイツの「kurzgesagt-In a Nutsshell」というYouTubeチャンネルと協力して、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミックについてのビデオを製作し、3月19日にYouTubeに公開しました。

コロナウイルスとは何か & あなたは何をすべきか

ウイルス学者と免疫学者が内容の正しさを確認していると、お墨付きもあります。(7月5日の花田教授の講演会で紹介されました。)

ビデオでは口や鼻、目を通してウイルスの感染が起こるところから、肺などの細胞でウイルス増殖の様子が、アニメーションでわかり易く説明されています。

ウイルス性肺炎
コロナウイルスとは何か & あなたは何をすべきか   kurzgesagt-In a Nutsshell

感染後にウイルス性肺炎を起こしている様子を表しています。
このウイルス性肺炎とこの肺炎に伴う免疫の過剰反応により肺胞の表面の細胞が大きなダメージを受けます。

ダメージを受ける肺上皮細胞
コロナウイルスとは何か & あなたは何をすべきか  kurzgesagt-In a Nutsshell

ウイルス性肺炎と自身の免疫による過剰反応で肺がダメージを受けた様子です。
一部の方はこのダメージを受けた肺細胞に、新たに細菌(バクテリア)が感染することにより重症化します。

細菌性肺炎
コロナウイルスとは何か & あなたは何をすべきか  kurzgesagt-In a Nutsshell

コロナウイルスによって弱った肺だけでなく体全体に細菌が増殖しはじめます。そして最悪の場合、死に至ります。

最初にウイルス性肺炎がおこり、引き続き細菌性肺炎に移行する。そして細菌性肺炎に前後して起こる免疫の過剰反応(サイトカインストーム)というのが、新型コロナウイルス感染症の重症化のシナリオです。

このビデオは3月に制作されたものですが、大まかな重症化のシナリオとビデオ後半に示された、パンデミックの対処法は現在でも正しいと思われます。しかし数カ月たち、細菌性肺炎の原因と免疫の過剰反応(サイトカインストーム)の原因が徐々に明らかになってきたのです。

その原因が冒頭にお示しした三つのキーワードです。

①菌血症 → 細菌性肺炎

②エンドトキシン血症 → 免疫の過剰反応(サイトカインストーム)

③誤嚥性肺炎 → 細菌性肺炎

お口の中の細菌(歯周病菌)が原因

ビデオでは細菌性肺炎は無害な細菌によって引き起こされると説明されていました。ありえないことではありませんが、それよりももっと身近(自分の体の中)に大量にそして強力な細菌がいます。それは歯周病菌に代表されるお口の中の細菌です。

歯原性菌血症

前のブログでも紹介した図です。
歯周病があると歯肉の内側に小さなキズが無数に出来ています。この小さなキズは歯肉の出血をおこすだけではなく、歯周病菌などのお口の中の細菌が歯肉の血管の中に侵入する入口にもなるのです

血管に入った細菌は、血流にのって全身に行きわたることになります。このような状態を()原性(げんせい)(きん)血症(けつしょう)といいます。

平時はこの歯原性菌血症が糖尿病や認知症、関節リウマチ、循環器疾患など生活習慣病の原因です。そして今回のような有事(COVID-19パンデミック)には細菌性肺炎の原因にもなってしまうのです。

また高齢者にとっては三番目の誤嚥性肺炎も見逃せません。

平時においてもこの誤嚥性肺炎は高齢者死因の上位に入っています。飲み込みの機能が衰えていると誤嚥をしやすくなり、まさに直接的な細菌性肺炎の原因になってしまいます。ウイルス性肺炎に誤嚥性肺炎が加わると致命的になりかねません。

誤嚥性肺炎予防には歯周病のコントロールだけでなく、舌磨きも重要になります。

二番目のエンドトキシン血症が免疫の暴走といわれるサイトカインストームの原因になります。これが免疫の過剰反応です。
エンドトキシン、内毒素、リポ多糖、LPS(LipoPolySaccharide(リポポリサッカライド)
これらはすべて同じもので、歯周病菌などのグラム陰性菌がもつ毒素です。

サイトカインとは主に免疫を担当する細胞から出されるたんぱく質の一種です。ウイルスや細菌が体の何に入ってくると、炎症を起こすサイトカインが分泌され、炎症をおこすことによりウイルス、細菌と闘います。

このサイトカインが過剰に次々と分泌され、あたかも暴走するかのように正常な細胞までも攻撃し痛めつけてしまう状態をサイトカインストームといいます。

歯周病がある程度進行していると、歯周病菌とともにエンドトキシンも血液中に多く存在しているでしょう。つまりエンドトキシン血症をおこしていることになります。コロナウイルスの感染によってサイトカインストームに発展してしまうことがあるのです。

新型コロナウイルス感染症重症化イメージ

この図は私なりに重症化のメカニズムをまとめたものです。(正しくない部分もあるかもしれません。)

ビデオではウイルス性肺炎と免疫の過剰反応(サイトカインストーム)によって肺がダメージを受け、そのあとに細菌が感染して、細菌性肺炎を起こすと紹介されていました。ウイルス性肺炎と細菌性肺炎が同時に起こる場合もあるようです。また細菌性肺炎が起こってから最終的にサイトカインストームに発展し、死に至ることもあるでしょう。

実際には一つのパターンだけではなく、さまざまなケースがあるはずです。(あくまでも私のイメージですのであしからず。)

腸内細菌は原因にならないのか?

このようにお口の中の細菌が原因だというと、腸内細菌の方が数も多いのでそちらが原因になるのではという疑問も出てきます。腸内細菌にもグラム陰性菌がいますからエンドトキシン血症の原因になることも考えられます。

門脈系
一般社団法人日本血液製剤協会 門脈血栓症より

腸内細菌は血液中にはいる場合は、門脈系と言われる静脈に入ります。そして必ず肝臓に行きます。(一部はリンパに入ります)肝臓に入った腸内細菌はそこで大半は殺菌されるはずです。

細菌自体は破壊されても、毒素であるエンドトキシンが多少は全身を回る可能性はあります。ただ肝臓というフィルターを通してから、心臓を経由して肺に到達するので、影響が大きいとは思えません。

それに引きかえ、お口の中の細菌は心臓を通って直接肺に届きます。どう考えても腸内細菌より、口腔内細菌の影響が大きいと言わざるをえません。

歯周病のコントロールが重要

歯周病をコントロールすることにより、新型コロナウイルス感染症の重症化を防げる可能性が高いと思います。

歯周病をコントロールするには
・毎日のセルフケア
 ‣丁寧な歯磨き
 ‣歯間ブラシやフロスの使用
  ‣舌磨き
・3ヶ月に1度のプロフェッショナルケア

新型コロナウイルス感染症に(かか)ってからでは遅いのです。
罹る前に歯周病をコントロールして、舌をきれいにしましょう。
そして万が一コロナウイルスに感染しても、重症化しないように予防しましょう。


おまけ

今回のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミック以前にも、過去には同じようなインフルエンザによるパンデミックがありました。

約100年前のスペイン風邪  死亡者数 約4,000万人(諸説あるようです)

約60年前のアジア風邪          死亡者数 約200万人

スペイン風邪に比べて、アジア風邪の死亡者数は1/10以下でした。この差はインフルエンザウイルスの毒性の違いや罹った人の数が違いによると考えられます。もう一つの大きな違いは、アジア風邪の時には抗生物質があったことです

アジア風邪の患者の約70%に細菌性肺炎があったという記録もあるようです。ウイルス感染症においても、抗生物質は昔から欠かせなかったことを今更ながら知りました。

現在の新型コロナウイルス感染症においても、入院初期から抗生物質の投与はされているようです。

細菌性肺炎の予防がやはり大事です。

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