6月16日のある講演会でビックリするような情報を耳にしました。

講演会というのは、港区医師会と港区みなと保健所共催の働き世代のための健康公開講座「職域の喫煙対策のメリット」です。
この講演は産業医科大学名誉教授の大和浩先生が演者で、ご自身の7回の禁煙失敗のエピソードを交え、「喫煙率ゼロ」を目指す総合的な喫煙対策をかなりの熱量を込めて話をされました。
この中で新たなタバコ製品についての情報があり、私個人としてはかなりの衝撃を受けることに。
なぜなら将来、日本において口腔がんが増加するのではないかと憂いたからです。
新しいタバコ製品が販売されていた
新しいタバコ製品とは、「ノルディックスピリット」。今年の3月にJT(日本たばこ産業)から発売。

このたばこ製品はオーラルタバコと呼ばれ、ニコチンを含んだパウチを歯肉と唇や頬の間に挟むタイプのタバコです。お口の粘膜からニコチンが体内に吸収されます。(商品説明の中では、「かぎたばこ」と書かれていました。)
タバコ葉などを燃焼させるわけではないので、喫煙エリア以外の場所でも、人知れず使用できる。
キャッチコピーは
- 煙もニオイもない!
- いつでもどこでも使える!(場所を選ばない)
- ハンズフリー
ハンズフリーって。確かにそうかもしれないけど・・・
直感的に主に南アジアで使用されている「噛みタバコ」を連想したため、口腔がんの将来的な増加を憂いた訳です。
調べてみると成分は異なるため、口腔がんの原因と広く認識されている「噛みタバコ」と同様の影響があるというのはもしかしたら早計かもしれません。
ただ私はそれでも、口腔がんへの影響はあるのではないかと考えています。
現時点での考えをまとめてみました。
口腔がんががんの中で一番多い国がある
国立がん研究センターの統計からみていくと、2023年に日本国内でがんと診断された方のうち、口腔・咽頭がんの割合は約2.4%でした。口腔・咽頭がんの中で口腔がんの割合は約40%と言われています。
よって日本での口腔がんの患者数は、ザックリ言って全がん中の約1%。それほど多くはありません。カテゴリーとして希少がんに入ります。
(一番多いがんは大腸がんで約15%)
ところが他の国に目を向けていくと、まったく異なる風景が。
他の国とはインドなどの主に南アジアの国々。

インド、パキスタンやバングラデシュなどの南アジアでは、世界的にみて口腔がんが突出して多いことが有名です。
ビンロウ(檳榔)というヤシ科の植物の実(檳榔子)を使用した嚙みタバコの習慣的な使用が、原因であることが広く知られています。檳榔子はアレカナッツとも言います。
特にインドでは口腔がんが「全がんの約40%」と極めて高く、世界でも突出しています。パキスタン・バングラデシュはインドほどの公式割合は確認できませんが、南アジアの疫学的特徴から「全がんの10〜20%前後」と推定できるようです
他にも東南アジアや台湾などでも、嚙みタバコが習慣としてある国や地域では、同様の傾向があるようです。
いずれにしても嚙みタバコが習慣的に使用されている国々では、日本での大腸がんや肺がんレベルで遭遇するがんが、口腔がんです。
嚙みタバコとは?
そもそも嚙みタバコとは?
古来から南アジアを中心として、愛用されてきた嗜好品。歯肉と頬や唇の間にはさみながら、くり返し咀嚼し、有効成分をお口の粘膜から吸収し、軽い興奮・酩酊感を得ます。
成分が混じっただ液や嚙みたばこ自体は飲み込まず、吐き出します。
嚙みたばこのレシピは地域によって様々。
代表的なインドの「パーン(paan)」を紹介します。
スライスもしくは細かくしたアレカナッツ(檳榔子)に消石灰を混ぜ、カルダモン、シナモン、タバコなどをフレーバーとして加えキンマの葉(コショウ科の植物)にくるむ。

インドの街頭での嚙みたばこ売りの描写が以下です。
「インドの街頭には、ビンロウジを削ったものをキンマ(Piper betle)という植物のハート形の葉で包み、消石灰を少量加えた「パーン(paan)」を専門に売る「パーンワラー(paanwallah)」と呼ばれる物売りがいます。消石灰を加えるのは、混合物をアルカリ性にすると、薬物成分が出やすくなるからです。パーンワラーは、怪しげな壺や飲み物を乗せた盆を前において座り、客に愛想よく応対しながら、カルダモン、シナモン、ショウノウ、タバコなどの風味のパーンを勧めます」
世界の樹木をめぐる80の物語(柏書房) より
ではなぜ嚙みたばこが口腔がんの原因になるか?
- アレカナッツ(檳榔子) ― アレコリン、アレカイジンなど
- キンマの葉 ― チャビベトール(キンマの葉特有のフェノール成分)
- 消石灰
- タバコ(含まれる場合) ― ニコチンなど
上記の薬用成分が発がん物質となり、それらの総合的なあるいは相乗的な作用と考えられています。
また同じ場所の粘膜を刺激し続ける、慢性刺激も見逃せません。
一方で新しいタバコ製品のオーラルタバコは、タバコ製品なので、ニコチンが主成分です。
もちろんニコチンも発がん物質
キーワードは慢性刺激
成分が異なるのになぜ口腔がん増加を憂いるのか?
そのキーワードは「慢性刺激」。
日本における口腔がんの原因として主に考えられているのは喫煙及び飲酒。
もっともこれはすべてのがんに共通のリスク因子です。
口腔がん特有の原因、リスク因子として挙げられているのが「慢性刺激」。
例えば歯が欠けたり詰め物がとれてできた鋭縁。
歯の欠け以外にも、親知らずや内側などに転位した歯も時として、舌や頬、唇に対して慢性刺激になります。
オーラルタバコは、くり返しほぼ同じ場所の粘膜から発がん物質であるニコチンを吸収し、慢性刺激もある。
口腔がんのリスクとなっても、何の不思議もないと考えています。
製品パッケージをめくってみると、驚くことに以下の表記が。

「あなたが口腔がん等のがんになる危険性を高めます。」としっかり記載されていました。
なんとなんと、十分に理解した上で、販売していたのですね。
なぜ危険と承知している製品を、新たな製品として販売できるのでしょうか?
それはこの製品はタバコ製品だからです。
タバコ製品の製造や流通・販売は、たばこ事業法に基づき規制・監督されています。
たばこ事業法では
この法律は、たばこ専売制度の廃止に伴い、製造たばこに係る租税が財政収入において占める地位等にかんがみ、製造たばこの原料用としての国内産の葉たばこの生産及び買入れ並びに製造たばこの製造及び販売の事業等に関し所要の調整を行うことにより、我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もつて財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
たばこ事業法第一条 目的 より
簡単に言うと「たばこ産業を保護し、税収を確保する。」ためでしょうか。
今後は口腔がんの危険性を高める製品が継続的に出回ります。
ただ南アジアのような状況になるかというと、それは違うと考えます。
嚙みたばこと異なるのは、成分だけでなく使用頻度です。想像するに、紙巻きたばこや加熱式たばこが使用できない時に、代替的に使用するだけではないかと。
そうであれば使用頻度はそれほど多くなないのでは。
この製品がどの程度普及するかによりますが、口腔がんが有意に(統計的に意味のある差)増加することはない可能性もあります。
オーラルタバコ販売の目的は?
昨今の喫煙エリアが限定された現状で、禁煙に踏み切る方も増えているはずです。
このトレンドに少しでも歯止めをかけるべく投入されたのか、このオーラルタバコでは。
長時間にわたり喫煙できない環境でも、人知れずニコチンを補充できます。禁煙しなくても大丈夫かも・・・
喫煙者をこれ以上減らさないための、一手。

以前にも紹介した書籍です。
喫煙者が、ある喫煙者を10年以上に渡り取材し、タバコについての探求を試みた、ノンフィクション。
この本にはタバコについて明らかになった、いくつかの発見がつづられています。
喫煙者の方は、ご自分が吸い続ける意味を考えてください。
もしタバコをやめたいと考えたことがある人には、ぜひ禁煙を成功させてほしい。
新しいタバコ製品に惑わされることがなく。
おまけ
紹介した「ノルディックスピリット」。今年(2026年)3月に発売されましたが、実はそれ以前にいくつかの製品が販売されていました。
検索された製品は以下です。
VELO(ベロ) BAT (ブリティッシュ・アメリカン・タバコ)ジャパン
2020年2月 福岡市で日本初発売
ZYN(ジン) by IQOS フィリップモリスジャパン
2025年7月 エリア限定の先行発売
LUCY(ルーシー) Lucy Goods 社 輸入元インターコンチネンタル商事株式会社
2025年2月 全国販売
















