当院からのお知らせ「学校保健委員会でミニ授業」(10月13日)で掲載した、私が歯科校医をしている小学校の学校保健委員会で話をした内容まとめました。
対象となったのは6年生で、中学生以降にどういう行動が健康につながるか、話を展開しました。

私が小学生だった昭和40年代(1970年頃)はむし歯洪水の時代といわれ、だれでもむし歯があるのがあたり前のような時代でした。40年以上たった現在ではとてもむし歯が少なくなっているのが実感できます。とくに子供のむし歯は少なくなっています。
このむし歯の移り変わりを、学校保健統計調査歯科疾患実態調査の二つの統計調査から調べてみました。

学校保健統計調査は毎年の学校健診の結果を文部科学省がまとめて発表します。
中学1年生のむし歯数の変化を示したのが下のグラフです。
以前にブロブでも何回か紹介をした12歳児DMFT(むし歯の経験歯数)です。

12歳児DMFT

12歳児の1人平均のむし歯の本数です。むし歯になっている歯だけではなく、むし歯で抜いた歯とむし歯で治療した歯のすべての合計の本数です。

DMFTの意味は以下の通りです。
D: decayed(蝕まれた)=未処置歯(むし歯になっている歯)
M: missing(失われた)=喪失歯(むし歯によって抜いた歯)
F: filled (詰められた)=処置歯(むし歯で治療した歯)
Tは歯です。
1人平均のむし歯の本数というより、むし歯の経験歯数と言った方が理解しやすいかもしれません。
なぜ12歳児かというと、中学1年生くらいはちょうど大人の歯がはえそろう年齢です。12歳を永久歯列のスタート、つまりもっとも永久歯のむし歯が少ないベースライン(基準となる年齢)ととらえているのです。

1984年では中学1年生の永久歯のむし歯(むし歯の経験歯)の本数は4.75本でした。約35年後の昨年の最新の統計では0.74本と1/6以下にまで少なくなっています。
(1970年代の文部科学省の統計はありませんが、厚生労働省の統計では12歳時DMFTは5本以上でした。)

 

もう一つの歯科疾患実態調査は厚生労働省が5年に1度行なう調査です。(以前は6年に1度でした)
この調査から処置歯・未処置歯のある人の割合を見てみました。この処置歯・未処置歯のある人というのは、むし歯で処置をした歯がある人とむし歯がある人を合わせたものです。12歳児DMFTと同じでむし歯になった経験のある人ということです。

1981年の歯科疾患実態調査において、10~14歳の永久歯にむし歯(むし歯の経験歯)のある人の割合は94.3%と、ほとんどの子供にむし歯がありました。2016年の最新の統計では19.7%と格段に少なくなっています。

学校歯科保健統計調査と歯科疾患実態調査の両方から、子供のむし歯は少なくなっているのはご理解いただけるはずです。
このようにむし歯が減少している一番の要因は、以前のブログで紹介したように、フッ素入り歯みがき剤が普及した事と考えられています。
2017-3-19 最も効果的なむし歯予防法

 

では大人のむし歯も減っているのでしょうか。
大人は文部科学省の学校保健統計調査には含まれませんので、歯科疾患実態調査で見ていきます。

歯科疾患実態調査において、45~54歳の永久歯にむし歯(むし歯の経験歯)のある人の割合は、減少するどころか増加の一途をたどっています。2016年の最新の統計では99.5%と、ほとんどの人にむし歯経験歯がありました。
ただこの調査をした時の45~54歳の人は、12歳児DMFTが4本以上のとてもむし歯が多かった時代に育った人たちです。この人たちが10~14歳の時はむし歯(むし歯の経験歯)のある人の割合は90%以上でした。むし歯経験歯はその歯が抜けないかぎりはへることはないので、むし歯経験歯が多いのは当然です。

このグラフからだけでは、この年代の人たちのむし歯が減っているかどうかは、実は判断できないのです。(子供の頃はむし歯が多かったのは間違えありませんが)

未処置歯(むし歯になっている歯)だけで見ていくと、上のグラフのように2016年の調査では約30%まで減ってきています。つまり大人のむし歯も少なくなっているといえます。
フッ素入り歯みがき剤を使っているのは子供だけでなく、大人も使っているので、これは当然の結果です。
なぜ45~54歳の永久歯にむし歯のある人の割合を、大人のむし歯の割合の代表として示したのかというと、この年代がむし歯のある割合が一番多いからです。55歳以上になると、むし歯の歯が抜けてなくなったり、歯が1本も残っていない人が増えてくるので、結果としてむし歯のある人の割合は少しずつ少なくなります。

 

子供も大人もむし歯が少なくなっているわけですから、一見何も問題がないようにも解釈できます。
今回は小学校6年生に対しての、健康教育を目的とした授業ですので、子供から大人になる過程での問題に着目して話を展開していきました。

たしかに10~14歳の永久歯にむし歯(むし歯の経験歯)なある人の割合は、調査をするたびに減少しています。しかし上のグラフからわかるように、年齢が上がるにつれてパーセンテージが上昇していくのが見て取れます。
子供だけではなく、大人もむし歯はへってきていますが、中学生以降にむし歯が増えていく傾向も続いていということを問題として提起しました。
はえたての永久歯は脱灰がおこりやすく、むし歯になりやすいです。にもかかわらずはえてしばらくしてから、むし歯が多くなるのはなぜでしょう?

中学生以降は部活動や受験勉強のための塾通い、友人と遊びにでかけるなどが多くなり、小学生の時にくらべると不規則な生活になりやすいと思います。

食生活や歯みがき習慣など関して、小学生のころは親の意思を反映させることはさほど難しくなかったはずです。ところが中学生以降は、反抗期と重なることもあり、困難になってくる時期です。
また子供のころの他律的健康づくりから、自律的健康づくりに少しずつ移行していく年代でもあります。

他律的健康づくり―保護者などに管理された健康づくり
自律的健康づくり―みずからが考え、行動していく健康づくり

つまり中学生からの約10年は、主に保護者に管理される世代から、自分の考えにもとづいて行動をする世代へと成長しながら成人となっていく重要な期間です。

この多感ないわゆる思春期に、勉強やスポーツに励んでいくことは、充実した学生生活を送れるだけではなく将来にもつながります。その将来にはやりがいのある職業に従事しながら趣味などを楽しみ、実のある人生を送っていくことも期待されます。
それらのすべての基本となるのが健康な体です。
自分の体を健康に保つにはどうすればよいかを考え、みずからの意思で行動していく素地をぜひ育んでもらいたいと考えています。

むし歯予防に関しては、以下のブログの内容を簡単に話しました。
2017-3-3 歯みがきができていれば、むし歯にならないか?
2017-3-19 最も効果的なむし歯予防法

 

むし歯にさえならなければ、よいというものではありません。歯周病も予防してほしいです。
もちろん健康な体を維持していくには、食生活や運動、休養に気を配らなければなりません。成人してからも飲酒は適量を心がけ、喫煙は絶対に避けてもらいたいです。
このような話もしながら、下のスライドと言葉で締めくくりました。

「30~40年後にむし歯(むし歯の経験歯)のある人の割合がどれくらい少なくなるかは皆さん次第です。」

学校保健委員会での話はここで終わったのですが、実はむし歯が近年増加傾向にある年代があります。
次回はこの年代のむし歯について取り上げます。