いまだに新型コロナウイルス感染症の勢いは衰えないようです。今しばらくは終息にいたりそうにありません。
今年の4月7日に緊急事態宣言が発出され、5月25日に解除されるまでは、当院も診療時間を短縮するなどの対応をとっていました。この約2ヶ月間は開業当初を除くと、最も来院患者数が少なく、閑散としていました。現在では平常時の90%程度の来院数に戻っています。
今回はこのコロナ禍における歯科受診について考えてみます。
歯科医師、歯科衛生士は危険な職種
今までにさまざまな職業での感染が報告されています。医療従事者もその例外ではなく、命を落とされた方もいらっしゃいます。
実は歯科衛生士が最も感染リスクが高い職種であるという報告がありました。もちろん歯科医師や歯科助手も歯科衛生士と同様に感染リスクが高い職種にあげられています。
西辻歯科医院では常時歯科衛生士がいるわけではないので、歯科医師であり歯科衛生士の業務も日常的に行っている私は、最も高い感染リスクの職業従事者ということになります。幸い今のところ感染はしていないようです。
The Front Line: Visualizing the Occupations with the Highest COVID-19 Risk(最前線:COVID-19リスクが最も高い職業の視覚化)というページを教えてもらいました。このページはカナダのビジュアルコンテンツ作成会社であるVisual Capitalistのサイト内にあります。(2023年7月14日リンク切れ)
職業情報ネットワークからのデータを活用して、COVID-19への曝露のリスクが最も高い職業を特定します。
との説明がありました。
上の表はこのサイトで掲載されていた職種とその感染リスクの主なものを、私が抜き出して表にしたものです。
各職種のスコアは職業データベースでカバーされている、以下にあげる3つの物理的な仕事の属性に関するデータの評価に基づいています。0~100の範囲でリスクスコアの算定を行い、100に近いほど感染リスクが高いことになります。
1.他の人との接触:Contact With Others
この仕事は、それを実行するために労働者が他の人と接触することをどのくらい必要とするか?
2.物理的近接性:Physical Proximity
この仕事では、労働者が他の人に物理的に近接してタスクを実行する必要があるか?
3.病気や感染症への暴露:Exposure to Disease and Infection
この仕事はどのくらいの頻度で危険な状態にさらされる必要があるか?
歯科衛生士(歯科医師も同様)は3つのすべての項目でスコアは100に近く、ハイリスクであるのが一目瞭然です。バス運転手は「1.他の人との接触:Contact With Others」が高いものの、他の二つのスコアは低く、ミドルリスクとなっています。
1.他の人との接触:Contact With Others
歯科医師、歯科衛生士は他の人と接触することにより成り立つ職種です。
2.物理的近接性:Physical Proximity
歯科医師、歯科衛生士は他の人とは数十cm以内に近接してのタスク実行になります。
3.病気や感染症への暴露:Exposure to Disease and Infection
歯科医師、歯科衛生士はお口の中からの飛沫に常にさらされ続けます。
このように具体的な要素を積み上げていくと、今更ながら危険な職種であることが理解できます。
ただ一つ大きなポイントがあります。
感染リスクが高い職種だからといって、感染者が多い訳ではないのです。
歯科医院は感染源ではない!
最も感染リスクが高い歯科医師と歯科衛生士は新型コロナウイルス感染症に多くが感染しているのでしょうか?
答えはNoです。
12月1日に日本歯科医学会令和2年度学術講演会「新型コロナウイルス感染症における歯科の対応」がweb上であり、受講いたしました。講師は日本歯科医学会理事でもある日本歯科大学口腔外科の小林隆太郎教授です。
この講演の中で小林教授は、歯科医師の歯科治療中の新型コロナウイルス感染症への感染報告はないと発言されていました。歯科医師の感染は報告されているが、診療以外の経路であるとのことでした。
ただ実際には報告されていない例もあるとは思います。(これは歯科医師、歯科衛生士に限ったことではありません。)正確にはわかりませんが、0ではないが極端に少ないのだと私は理解しています。
日本口腔衛生学会新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策検討作業部会が9都道府県で実施したアンケート結果のまとめが以下の通りです。(9都道府県とは埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県と陽性者の多い北海道、愛知県を加えた都道府県)
歯科医師のPCR検査陽性率は一般都道府県民の平均的なPCR検査陽性率と同程度であり、我が国における現状の歯科医療でのSARS-CoV-2感染リスクはとくに高いとは考えられません。
最も感染リスクが高い職種とされているのにもかかわらず、感染例が報告されていないもしくは極端に少ないのはなぜでしょうか。
歯科医院はもとよりさまざまな感染症リスクにさらされています。新型コロナウイルス感染症発生以前から、AIDSやウイルス性肝炎などの恐ろしい感染症のリスクにさらされてきました。
つまり歯科医院のという場所は、他の施設と比較して感染症対策はもともと充実しているのです。歯科医師をはじめスタッフは従前からマスク、グローブの着用だけでなく、頻繁な手洗い、消毒を日常的に行ってきました。
ただ今回の新型コロナウイルス感染症の感染予防対策としては、換気が大きく取り上げられてきました。
それは新型コロナウイルス感染症の感染様式として、接触感染だけではなく、飛沫感染やエアロゾル感染が挙げられているからです。
エアロゾルとは「感染力を保持した病原体を含む5㎛以下の液体」と定義されています。飛沫よりも長時間空中を漂い、遠くにも届きます。空気感染もおこるとの記事も目にしましたが、正確には近い距離でのエアロゾル感染が正しいようです。
そこで各歯科医院では従来の感染予防対策に加えて、換気などの感染予防対策を追加していきました。当院でも一人の患者さんの治療が終わるたびに、三方向の窓を開けての換気を実施するようになりました。
また診療室に入っていただく患者さんは1名のみと決めました。
ユニットの間にはパーテーションもあるのですが、他の患者さんから発生した飛沫やエアロゾルにマスクをしていない状態でさらされることを避けるためです。
また診療開始前にすべての方にうがいをお願いしているのは、治療中に発生する飛沫、エアロゾルによる感染リスクを下げるためです。
歯科医院での感染は三つの方向があります。
①歯科医院スタッフ→患者
②患者→歯科医院スタッフ
③患者⇔患者
従前からの感染予防対策に加えて、新型コロナウイルス感染症に対する感染予防対策を実施することによって、歯科治療に関連しての感染は十分に防げると考えています。
注意していただきたいのは待合室です。待合室でのマスクなしでの会話は感染リスクがあります。待合室でお待ちの際は、マスクの着用をお願いしています。
歯科受診は「必要不急」
院内での感染予防対策は待合室に掲示し、ホームページ上にアップしております。それでも歯科受診に不安を抱き、受診を控える方はどうしても一定数はいらっしゃいます。
必要な受診を控えるのは、よいことではないというのは、どなたも理解はされているはずです。それでも不安な気持ちが上回ってしまっているのでしょう。
コロナ禍においても歯科受診は「必要不急」ではないでしょうか?
痛みがなければ「不急」ではあるかもしれません。しかしながら歯周病などの慢性疾患を管理していくには「不要」ではなく、間違えなく「必要」です。必要な管理を怠ると取り返しのつかないダメージつながることも多々あります。
2020–7-16 歯周病が新型コロナウイルス感染症を重症化させる
で書きましたが、歯周病がコントロールされていないと、新型コロナウイルス感染症が重症化する恐れがあります。
新型コロナウイルス感染症の重症化予防のために
歯周病やむし歯などの歯科疾患の重症化予防のために
そして健康寿命を延ばすために
GoTo歯医者 です。