行動変容が必要なのはコロナ禍だけではない

新型コロナウイルス感染症まん延が、いまだに続いています。

新しい生活様式イメージ

この新たな感染症拡大防止のために、国や各自治体から「新しい生活様式」なるものが提示されました。この「新しい生活様式」の中に、行動変容という聞きなれないワードが頻繁に登場します。今回はこの行動変容について、自らを例にあげて説明します。

コロナ禍での行動変容

国内で新型コロナウイルス感染症拡大が顕著になってから、厚生労働省のホームページには、<「新しい生活様式」の実践例>が公表されました。新聞、TVなどのメディアを通じて、何度も目にされていることと思います。

<「新しい生活様式」の実践例>のページには、以下のような文面があります。

感染の状況が厳しい地域では、新規感染者数が一定水準まで低減するまでは、医療崩壊を防ぎ、市民の生命を守るため、引き続き、基本的には、「徹底した行動変容の要請」が必要となる。

厚生労働省<「新しい生活様式」の実践例><専門家会議の提言> 

今回の主題の行動変容は、ここに登場します。行動変容とは、文字通りに、行動を変えていくことです。

新型コロナウイルスによる感染症拡大を防ぐには、国民の一人ひとりが今までとは異なる行動をしていく以外に道はないのでしょう。(十分効果のあるワクチンがくまなく行きわたれば別ですが)

もう聞き飽きたと思います。

  • 身体的距離の確保
  • マスクの着用
  • 手洗い
  • 移動制限  など

うんざりです。しかし。

私もワクチン接種2回を完了しておりますが、残念ながら、今しばらくこの行動変容を継続せざるおえない状況にあるようです。

生活習慣病予防には行動変容が必要

昨年からの新型コロナウイルス感染症拡大以降に、行動変容が必要になった訳ではもちろんありません。

生活習慣病予防に、行動変容は欠かせません。生活習慣が原因となる病気を、生活習慣病と呼びます。がんや糖尿病、脳血管障害、心臓病など、感染症以外のほとんどの一般的な病気は生活習慣病です。

生活習慣病予防には生活習慣の改善が必要。この生活習慣の改善が、まさに行動変容そのものです。

生活習慣病予防の行動変容
生活習慣病予防のための行動変容 例
  • 禁煙をする
  • 健康のために運動をする
  • 休肝日をもうける
  • スナック菓子を食べ過ぎない  など

生活習慣の改善あるいは行動変容というのはたやすいですが、実行するのはたやすくないですね。

禁煙に何度も失敗をした。あるいは実行に移せない。運動が習慣にならない。どうしても飲みすぎる。スナック菓子などの間食がやめられない。

自分あるいは身近な人を思い浮かべれば、行動変容がうまくいかない例が、尽きないのではないでしょうか。

私自身を例にあげます。

私はもともと、タバコは吸いません。お酒は弱いので飲み過ぎることはありません。食事は自慢できるほどではありませんが、そこそこバランスは取れていると思っています。運動習慣はあります。早寝です(少し早起き)。歯みがきも1日3回しています。

健康習慣に関しては、あくまでも自分では、問題ないと。

ところが。

片付けが下手です。とにかく机の上が汚い。

自宅の机も、診療所の院長室の机も、書類や本や文具などが堆積(たいせき)しています。どちらの机もノートパソコンを置くスペースしかありません。自分の机が二つもあるにもかかわらず、書類への記入はリビングの机か受付の机・・・

4,5年前にきれいに片づけたことがあります。見事に行動変容を達成したかに見えました。残念ながら、1,2年すると元の木阿弥です(以前よりは多少ましですが)。

なぜでしょうか?

行動変容とは

今回のコロナ禍のような緊急事態下での、行動変容は例外です。

自分の意志だけではなく、政府あるいは社会からの圧力にも影響されての行動変容です。生活習慣の改善を実行することが、本来の行動変容と考えます。

望ましい生活習慣を手に入れるための行動変容を成功させるには、行動変容ステージという考え方を理解すると効果的です。

行動変容ステージモデル(プロチャスカ)
図1 行動変容ステージ( J.Prochaska)

上の図1は、心理学者のJ.Prochaska(プロチャスカ)らが考案した、行動変容ステージモデルをイメージ化してものです。(原著では無関心期は前熟考期に、関心期は熟考期となっていまが、一般的に表記が多い「無関心期」と「関心期」としました。)

ポイントは二つあります。

5つのステージがある

行動変容ステージは、「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の5つのステージがある。それぞれのステージに合わせた働きかけが重要。適切な働きかけにより次のステージに進みやすくなる。(「完了期」を含めると6つのステージ)

詳しくは 行動変容ステージモデル | e-ヘルスネット(厚生労働省)

②ステージの進み方はスパイラル(螺旋(らせん)

行動変容ステージは必ずしも、①の矢印通りに段階的に進むのではなく、つまずいたり、後戻りしたりしながら進んでいく。つまりスパイラル(螺旋を斜めから見たような動き)しながら、ステージをステップアップしていく。

この行動変容ステージモデルが世にでたのは、20年以上前です。現在では、「完了期」のない、5つのステージで用いられているようです。

J.Prochaska(プロチャスカ)らが定義した「完了期」というものは、ないことが、今の一致した見解なのでしょう。 現在の行動変容ステージモデルは、下の図2のようになります。

行動変容ステージモデル
図2  行動変容ステージ(現在)

私もいったんは間違いなく、「維持期」に到達しました。しかし机が、再び書類などが散乱した状態になったのは、「維持期」から「関心期」に逆戻りしてしまったからです。

さまざまな原因で、行動変容の維持ができなかったのです。

禁煙にいったん成功した方が、再び喫煙してしまう場合もこれにあたります。よくあること?かもしれません。

望ましい生活習慣を目指して、行動変容を試み、一度で成功できるのは20%程度に過ぎないと言われています。

「維持期」から、「関心期」、場合によっては「無関心期」に逆戻りすることは、普通です。

行動変容ステージモデル(逆戻り)

でも再チャレンジしましょう。

再び「準備期」、「実行期」、「維持期」と進んでゆけばよいのです。そして望ましい行動が習慣化された状態、「維持期」の生涯に渡る継続を目指すのです。

一度は行動変容に成功できたことが、強みになります。

2度目や3度目はもっとうまくいく、可能性が高いはずです。

私も現在、再チャレンジしています。

行動変容を成功させるには

コロナ禍は平時ではありません。一時的な行動変容が、必要なのだと理解しています。

生活習慣の改善は、一時的では意味がありません。

行動変容ステージの「維持期」を継続することが肝要です。

行動変容を成功させるためには、しっかしりとした準備がポイントになります。望ましい生活習慣に関する情報を、十分に集めましょう。

望ましい生活習慣に関する書籍

やはり書籍を、読むことをお薦めします。

インターネットでの情報収集も重要です。もちろん私もしています。

しかし望ましい生活習慣に関する、しっかりとした知識を得るのは、書籍が一番です。

私が片付け下手に関する、行動変容を成功させたのは、世界的なベストセラーである人生がときめく片づけの魔法を読んだからです。

この本のエッセンスは、今回の再チャレンジにも十分に活かせます。

確固たる知識や情報を手に入れることは、心構えにもつながります

再チャレンジする場合は、行動変容ステージが後戻りしてしまった原因を探ることが重要です。その原因に対する対策を十分に準備することにより、成功の可能性がグッと高くなります。

今回の私の再チャレンジでの、課題として挙げているのは、以下の二点です。

  1. 継続的な整理のための計画を、あらかじめ立てておく
  2. 書類、本などのデータ化

今現在、コロナ禍という、異常な状況下ではあります。しかしこの異常な状況下が、私の場合、行動変容を起こすきっかけになりました。家にいる時間が長くなったからかもしれません。

望ましくない生活習慣を抱え、行動を起こそうとしている方は、多いのではないでしょうか。

参考になれば幸いです。


おまけ1

港区成人歯科健診の『お口の健診』は、平成20年より開始され、年2回受診できる歯科健診として定着しています。

2018-5-10 お口の健診はなぜ年2回受けられるのか? では

「生活習慣の見直しを効果的に行っていただくために、私たちがフォローしていけるように年2回の健診受診が可能になっているのです。」

と書きました。

言い方を変えると

「お口の健康に関する、行動変容を評価するために、年2回の健診受診が可能となっている。」

となります。

3年前のブログでは、行動変容という言葉を使わずに説明をいたしました。実は『お口の健診』は、行動変容を促すことが主な目的の健診です。

今年で14年目を迎えた『お口の健診』ですが、区民の方のさまざまな行動変容が確認されています。

健診結果の集計・評価を担当している日本大学歯学部尾﨑哲則教授によると、以下のような項目で、区民の健康習慣に改善がみられているとのこと。

  • 夜寝る前の歯磨きをする
  • 歯間清掃具(歯間ブラシ・フロス)を使用する
  • 鏡を使って歯や歯茎を注意して見ることがある(自己観察)
  • ゆっくりよく噛む
  • タバコを吸わない
  • 定期健診を受けている
  • 舌の汚れをおとす  など

これからも健診や日々の診療を通じて、お口の健康習慣がより良い方向に進むように、行動変容を促していきます。

おまけ2

本文で紹介した行動変容ステージ図は、2005年に翻訳されたチェンジング・フォー・グッド―ステージ変容理論で上手に行動を変えるからのイメージ図です。

原著では無関心期は前熟考期に、関心期は熟考期と訳していました。

PrecontemplationとContemplationなので、前熟考期と熟考期が正確な訳です。しかし行動変容ステージモデルを紹介している文章は、すべて無関心期と関心期になっていたので、それに従いました。

この書籍は一般向けのではありますが、簡単にスラスラ読めるようなタイプの本ではありません。しかし喫煙や飲酒、運動、食生活に関しては実例を挙げて解説しているので、とても参考になると思います。

残念ながら絶版になっているので、現在はかなり高額で取引されています。

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