紫外線(UV)はどちらかというと、害の方がクローズアップされています。
紫外線には人間にとって、害もあるが、プラスの効果もある。
ECC(子どものむし歯)とビタミンDの関係を切り口とした、紫外線のリスクとベネフィット(恩恵)の話です。くり返しになりますがタイトルは、もしかしたらの話。
過度のUVカットは、子どものむし歯に?
「美肌目的で日光を避ける習慣を持つ母親は慢性的なビタミンDの欠乏により早期発症型小児う蝕のリスクを上げているかもしれない。」
これは3年前の当時鶴見大学歯学部教授花田信弘先生(現鶴見大学名誉教授)の講演スライドの文面です。
早期発症型小児う蝕とは何でしょうか?
6歳未満でむし歯になることと定義されています。ECC(Early Childhood Caries)ともいわれてます。
さらに3歳未満でむし歯になる場合を、S-ECC(Severe Early Childhood Caries)と。
4、5歳になると、ちらほらむし歯になる子どもがでてきますが、3歳未満でのむし歯は非常にまれです。歯みがき習慣や甘い飲料を飲む習慣以外の原因も、ありえる。
そこで一つの原因と考えられているのが、母親は慢性的なビタミンD不足。
ビタミンDはカルシウム吸収に欠かせない、重要な栄要素。カルシウムとリン酸の結晶からできている歯は、ビタミンD不足により、もろくむし歯になりやすくなる。
ビタミンDを含む食品をとることも大切ですが、実は体内で合成されます。ビタミンDを体内で合成するには、紫外線が必須。ここが大きなポイントです。
母親のビタミンD不足が乳歯や永久歯の一部(第一大臼歯及び中切歯)に影響を与えるのは、エビデンスとして確立されてきていると考えています。
乳歯は母親の体の中で、形成がはじまります。母親の栄養状態が乳歯に影響を与えるのは当然です。
しかし過度のUVカットが、早期発症型小児う蝕のリスクを上げているかは、現時点では明かではない。なので、もしかしたら。
ビタミンDとは
ビタミンDに関して、簡単に説明します。
ビタミンDはカルシウムとリン酸を、体内で一定に保つ働きを担っています。正常な骨の発育・維持に欠かせない栄要素。そして歯が正常につくられる過程でも欠かせません。(歯が完成してからは、歯へのビタミンDの影響はなくなります。)
また血液中のカルシウム濃度を調節することで、神経伝達や筋肉の収縮などを正常に行う働きもあります。さらに近年、免疫系への作用として、がん予防の効果も報告されている。
ビタミンDは、日光の条件(浴びる紫外線の量)を満たせば、体内で十分な量を合成できる。他のビタミンと比べると、例外的なビタミン。
では必要なビタミンD量はどれくらいでしょうか?
目安量として、18歳以上の男女とも8.5㎍/日となっていました。
アメリカ・カナダの食事摂取基準やドイツの基準は、15~20㎍/日です。日本はやけに少ないですね。
これは「日照により皮膚で産生されると考えられるビタミンDを差し引いた量を、目安量とすることにした。」とのこと。
なるほど。
日本は緯度や気象条件などから、十分な日照時間が確保できるということが大前提と受けとります。つまり過度のUVカットは、この大前提を覆すことになる?
どれくらい日光を浴びればよいのか?
ビタミンDは紫外線を浴びることによって体内で合成される。では必要なビタミンDを合成するにはどのくらいの時間、日光を浴びればればよいのでしょうか?
紫外線を浴び皮膚よりつくられるビタミンDの適切な量は、明確には記載されていません。
明確に記載されていない理由はコチラ
大前提として
必要なビタミンD量=食事から摂取するビタミンD量+皮膚で産生されるビタミンD量
です。
前項の日本人の食事摂取基準(2020年版)では、食事から摂取するビタミンD量のみが目安量として8.5㎍/日と明らかにされています。
ただ皮膚よりつくられる適切なビタミンD量と思われる、10㎍/日という数値が、なんとなく文面に紛れていました。上の式に当てはめると、必要ビタミンD量は、18.5㎍/日となります。
18.5㎍/日=8.5㎍/日(食事から)+10㎍/日(皮膚で産生)
10㎍/日とすると、アメリカなどの基準(15~20㎍/日)と整合性がとれそうです。
国立環境研究所地球環境研究センターのビタミンD生成・紅斑紫外線量情報というサイト内の解説には
「ビタミンDの必要摂取量を成人で一日に15μgとし、そのうち5μgを食物からの摂取で、残りの10μgを紫外線から体内で生成すると仮定して・・・」
という文章がのっています。
10㎍/日という数値は、多方面でコンセンサスが得られている数値と解釈します。
「日照がビタミン D の栄養状態に及ぼす影響に関して、最近、10 µg のビタミン D 産生に必要な日照量は、600 cm2(顔面及び両手の甲の面積に相当)の皮膚であれば、minimal erythemal dose(MED;皮膚に紅斑を起こす最小の紫外線量)の1/3 と算出された。」
日本人の食事摂取基準(2020 年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書 p181
この文面に、10㎍/日が記載されていました。
600 cm2(顔面及び両手の甲の面積に相当)は、普通の服装であれば、必ず皮膚が露出されるはずの場所及び面積ということなのでしょう。
このわずかな皮膚面積でも、十分なビタミンDが生成され、しかも赤味をともなうような日焼けをおこす紫外線量の1/3であるとは。意外と都合が良い結果ではないでしょうか?(砂浜で水着を着て、日光を浴びなくても大丈夫!)
国立環境研究所地球環境研究センタービタミンD生成・紅斑紫外線量情報サイト
で必要な日光を浴びる時間を調べることができます。
上の検索結果は
- 東京都と緯度がほぼ同じつくば局
- 9月17日の14時台(後半)
- 顔と手(皮膚露出面積600㎝2)のみの露出
の条件で、皮膚で産生される必要ビタミンD量である10㎍/日を生成するには
- 27分が必要
- 日焼けをしないようにするには71分未満
紫外線量が多い正午であったり、腕や脚も露出する場合は、さらに短時間になります。
年間を通しては、季節によりかなり差があります。先ほどと同じ条件(時間は正午)の場合。
- 8月上旬では9分
- 12月中旬では65分
という結果に。(札幌局ではもっと長時間で、那覇局ではもっと短時間です。)
体内のビタミンDは約10日程度保持されるといわれます。その期間で平均的に示された時間日光を浴びていればよいことになります。
私の場合は屋内で仕事をして、なおかつ通勤がありません。紫外線量が多い夏の時期であれば、何とかクリアできそうですが、少ない冬ではクリアは難しそう。
紫外線のリスクとベネフィット(恩恵)
もちろん紫外線のリスクはあります。
紫外線の害として、皮膚がんが思い浮かびます。ただ環境省のホームページにもあるように、皮膚がんに関しては、白色人種に比べて紫外線の影響が少ないとなっています。
少なくとも日本人に関しては、紫外線を浴びることによる皮膚がんのリスクは、あまり考える必要はないと私は認識しています。
それ以外にも夏の極端な日焼け(皮膚がむけるほどの)や白内障のリスク、そして何よりシミが多くなる。美肌も重要なターゲットであることは、否定できません。(私はあまり気にしませんが。)
一方で紫外線には、ベネフィット(恩恵)もある。
言うまでもなくビタミンDを作ってくれること。
ビタミンDは不足しがちな栄養素。
歯に影響を与えるのは、妊娠中及び小児期(小学校低学年あたりまで)です。しかし骨への影響は生涯にわたる。
成人、特に高齢者において、ビタミンD欠乏とはいえないビタミンD不足の状態であっても、それが長期にわたって続くと、骨粗鬆症性骨折のリスクが高まるとされています。
またむし歯ではなく、歯周病の進行にも影響を与えます。歯周病はあごの骨が吸収(溶ける)し、歯がぐらぐらになり、抜けていく病気。ビタミンDの多い少ないが、骨の吸収に影響が及ぼすことは不思議ではない。
紫外線の作用により、皮膚でかなりの量のビタミンDが産生されることから、屋外での活動が多い方などは、年間を通して必要量を満たせることも十分考えられます。(紫外線によるビタミンD産生は調節されているため、日照によるビタミンDの過剰はおこらないようです。)
反対にリモートワークなど外出する機会が極端に少ない場合は、ビタミンD不足におちいる可能性が高い。冬場の北海道などの緯度の高い地域も同様です。
その場合は食品からビタミンDを、積極的にとる必要があります。
ビタミンDは、きのこ類、魚介類、卵類、乳類に多く含まれています。
健康長寿ネット「ビタミンDの働きと1日の摂取量」
今回は子どものむし歯を、フリにしましたが、生涯にわたり健康な骨を維持していくために、適度な紫外線は不可欠。
夏を中心とした顔回りの適切なUVカットは、当然必要と思います。
しかし外出(日に当たる)の習慣は大事(生涯にわたり)。
そしてその時に、紫外線を完璧にブロックするのではなく、ほどほどのUVカットで!