1月29日(水)NHK おはよう日本で
「40代から衰える⁉“食べる力”」と題し、口腔機能低下症について紹介されました。
口腔機能低下症とは?
口腔機能低下症とは文字通り、お口の機能が低下する状態をさします。
2019-10-19 オーラルフレイル 聞いたことありますか? で
「オーラルフレイルはお口の機能が弱った状態を指し、全身的なフレイルと関連があり、全身的フレイのリスク因子とされています。」と書きました。
ということは
口腔機能低下症=オーラルフレイル なのでしょうか?
同じではないのですが、ほぼ同じこと示していると思っていただいてかまいません。この二つの言葉の区別については、このブログの最後におまけとして記しましたので、ご興味のある方はご覧ください。
どのような機能が低下するのか?
40代から食べる力が衰えるとはどういうことなのでしょうか?
上が番組内で紹介されたグラフの元のグラフです。
2018年の「老年歯学」という学会誌に掲載されたものです。
上図の7項目のうち、3項目以上に当てはまる人を口腔機能低下症とし、年代別の割合をグラフとして示したわけです。3項目以上当てはまると、「かむ」「飲み込む」などの無意識に行っている動きが衰え、結果的に「食べる力」の衰えとなります。
40歳代でも3項目以上に当てはまる人が38%いたので、「40代から衰える⁉“食べる力”」という見出しとしたのでしょう。
ただ20代と30代でも、30%以上の該当者がいることがグラフからわかります。
実は子供にも口腔機能発達不全症という病名があります。
口腔機能発達不全症とは、明らかな原因の病気がなく「食べる機能」、「話す機能」、または「呼吸する機能」が十分に発達していない状態のことです。
お口の機能が十分に発達しないまま成人になると、ある基準で診断すると口腔機能低下症とされる若い人がいても不思議ではありません。
自分の経験からいっても、40歳代になるとなんとなく体力の衰えや些細な体の変調などが気になってくるものです。
まあ、「40代から衰える⁉“食べる力”」という見出しは妥当だと思います。
(グラフからは50歳代から明らかに増えているので、「50代から」の方が正しいように思いますが・・・)
機能低下があった場合の対策は?
40歳代で口腔機能低下症と診断された人でも、自分自身で日常生活が不自由に感じている人はほとんどいないのではないかと想像します。不自由を感じないなら、そのままでよいかというと、そういう訳にもいきません。
番組内では
「口腔機能低下症」になると食べる量が減り、堅い物を避けるため、食材も偏ります。その結果、栄養不足となり、全身の筋肉が減ります。食欲不振が進み、食べる力がさらに衰える悪循環が生まれます。
放置すれば、介護を必要とする状態が早く訪れ、最終的には寝たきりに。けっして侮れない病気なのです。(NHKホームページより)
とありました。軽症の口腔機能低下症では不自由を感じなくても、年齢とともに衰えが進んでくれば普通よりも早く要介護状態を目指すことになるのです。
対策として、番組では食生活の改善を挙げていました。
たんぱく質やかみ応えのあるものを食事のメニューに加える例が示されていました。たんぱく質は筋肉を維持するのに欠かせません。かみ応えのあるものをたくさん食べるのは、噛む機能を維持していくには、確実に効果はあります。
ここで注意していただきたいのは、極端に硬いものは避けた方がよいという点です。歯が割れたり、歯肉を痛める可能性があります。あくまでも野菜や肉などのかみ応えのある食品を積極的に食べてほしいのです。
どんな病気でも、軽ければ回復も比較的簡単です。ところが重症化してしまうと、回復がとても難しいこともあれば、不可能な場合さえでてきます。
やはり40歳代、50歳代から、お口の機能の衰えを認識して、予防していくことが大切です。
どのような検査をするのか?
口腔機能低下症を診断する7項目のうち、あてはまった人が多かった項目は、口腔不潔と口腔乾燥、舌口唇運動機能低下の3項目です。(上の表では項目名が長くなるので「運動」が省略されています。)
口腔不潔は細菌カウンタという専用の機器を使用して、舌の上の細菌数を調べています。口腔乾燥は舌の上の湿り気を口腔水分計で測ります。
もう一つの舌口唇運動機能も自動計測機を使っていますが、この機能はご家庭でも調べられるのです。
今回のブログではこの舌口唇運動機能に注目していきます。具体的にこれはどんな機能でしょうか?
簡単に言えば、舌や唇を器用に速く動かせるかどうかです。舌、唇を器用に動かせないと、わずかな食べこぼしや滑舌が悪くなることにつながります。
計測方法は「パ」、「タ」、「カ」をそれぞれ繰り返し発音できる回数を数えというものです。5秒間でそれぞれをなるべく速く繰り返し発音し、回数を数えます。そして1秒当たりの回数が6回未満の場合、舌口唇運動機能が低下していると判定します。
「パ」は唇の動き
「タ」は舌の前方の動き
「カ」は舌の後方の動き
具体的には
電卓(シャープ製またはキヤノン製)で 1 + = キーを押した後、 発音にあわせて= キーを押して数えます。5秒間の合計から1秒当たりの回数を出します。(一人で行うのは難しいので、ご家族の方にはかってもらいましょう。)
iPhoneをお使いの方は無料のアプリもあります。記録も残せますので、こちらがお勧めです。(一人でできます。)
App Storeで「くちけん」と検索すると、簡単に入手できます。
もう一つ、サンスターの「毎日パタカラ」も無料で提供されています。こちらのアプリは近々、androidでも提供されると聞いております。
実際に計測してみるとわかりますが、かなり真剣に気合を入れてやらないといけません。一音、一音確実に発音しようとするよりも、しっかりと発音することは大切ですが、とにかく速い発音を心がけることです。
仮に6回/秒未満でも、練習して6回/秒以上になればまったく問題はありません。一応6回が基準値となっていますが、4回を基準としている先生もいます。
実際の計測データが今のところ少なく、今後さらに基準が変更される可能性もあります。
ただ、練習をしても4回/秒未満の場合は要注意と考えられます。
2019-10-19 オーラルフレイル 聞いたことありますか?
に引き続きオーラルフレイル、口腔機能低下症という分野を話題にいたしました。
今後もこの介護予防に関する話題を紹介していきたいと思います。
おまけ
口腔機能低下症とオーラルフレイルの違いは?
2016年の日本老年歯科医学会見解では
口腔機能低下症とは
加齢だけではなく、病気や障害などいろいろな原因でお口の機能が全体的に低下している病気のことです。つまり高血圧症などと同じように、れっきとした病名。
オーラルフレイルとは
わずかなむせや食べこぼし、滑舌の低下といったお口の機能が低下した状態をさし、国民の啓発に用いる用語(キャッチフレーズ)。
となっていました。
上の図は「学会見解論文 2016 年度版」の老化による口腔機能低下を表したものです。この図では、オーラルフレイルは口腔機能低下症と重なりはあるが、口腔機能低下症の前の段階といったイメージでした。
2019年の日本歯科医師会が出した「オーラルフレイル対応マニュアル」では、オーラルフレイルはもう少し大きな概念でとらえるようになっています。(上図)
このマニュアルではオーラルフレイルは
「口に関する“ささいな衰え”が軽視 されないように、口腔機能低下、食べる機能の低下、さらには、心身の機能低下まで繋がる“負の連鎖”に警鐘を鳴らした概念」
と書かれています。
上の図の第三レベルが口腔機能低下症にあたる段階です。
以前の日本老年歯科医学会では第二レベルをオーラルフレイルととらえていました。最新の定義では全体的な概念を表す言葉になったようです。
このオーラルフレイルの定義の変更に伴い、前掲した日本老年歯科医学会の「図1 老化による口腔機能低下」は下図のように変更になりました。
口腔機能低下症の上の段にあった、オーラルフレイルの文言が削除されています。
ただ国民の啓発に用いる用語であることには変わりはありません。
はっきり言えば、一般の方にはどうでもよいことだと思います。
お口の健康を気にしなくなることやわずかなむせ、滑舌の低下などが将来の要介護状態への入口であることを知っていただくことが大切だと思います。