前回ブログでは、オーラルフレイル予防には全身筋力の維持が課題と。そして全身筋力維持へのキーワードは、「速筋線維を使う」だということで終わりました。
今回はこの「速筋線維を使う」ということについて、考えていきます。
ウォーキングよりも片足立ち?
科学的エビデンスにもとづく 100歳まで健康に生きるための25のメソッド
を読んでいて、次のエビデンスが目にとまりました。
片足立ちの場合、骨格筋が生み出している力は、体重の2.75倍(体重70kgの場合、192kgが大腿骨にかかる)。片足立ち1分間の負荷は、ウォーキングを約53分行ったものとほぼ同じ。
科学的エビデンスにもとづく 100歳まで健康に生きるための25のメソッド
片足立ち2分間(片足1分ずつ)の負荷=約1時間のウォーキングの負荷
そうなんだ・・・
「リスクのある高齢者に対して、毎日1分ずつ片足立ちをすることにより、転倒予防に有効であった。そして片足立ち1分の負荷は、ウォーキング約53分の負荷に匹敵する。」と書かれている論文からの引用でした。
実際に1分間、どちらの足でもけっこうですので、片足立ちをしてみてください。
太ももやふくらはぎの筋肉に、軽い疲労感を感じるはずです。全身的な疲労感ではなく、部分的な筋肉の疲労感です。この感覚が「速筋線維を使う」。
一方で普通に歩いた場合はどうでしょう?
歩く距離やコースにもよりますが、ふつうは部分的な筋肉の疲労感はないはずです。つまり速筋線維を使っていない。ということです。
「速筋線維を使う」とは
本題の「速筋線維を使う」です。
前項で片足立ちと歩行での、筋肉の疲労感の有無で説明しましたが、もう少し詳しく見ていきましょう。
筋肉は大きくわけると速筋線維と遅筋線維にわけられる。
筋肉の分類は、実は複雑だそうです。一般的な分類では速筋線維はさらに二つにわけられますが、今回のブログでは速筋線維と遅筋線維の二種類で話を進めていきます。
上の表のように特徴はまとめてみました。
速筋線維は反応スピードが速く、大きな力が発揮できるが、疲労しやすく長時間使うことはできません。そして日常生活では使われることは、とても少ない。
遅筋線維は大きな力を発揮しないが、長時間使うことができる。姿勢の維持や細かい作業、普段の生活での行動全般で使われます。
筋肉を使うには、脳からの指令で脊髄の神経細胞から伸びた神経線維を通じで刺激が伝わります。この刺激によって筋肉は収縮し、私たちは体を動かすことができる。
発揮できる最大の力(以下最大筋力)の30%程度の力を使うときは、遅筋線維だけが使われます。速筋線維はお休み。つまり使われない。
最大筋力の50%以上の力を発揮しようとすると、はじめて速筋線維が使われる。
遅筋線維が使われないのではなく、遅筋線維ではまかないきれない力を発揮するために、速筋線維も使われます。
このように弱い力では遅筋線維から使われはじめ、強い力が必要になるにつれて、速筋線維が動員されます。これをサイズの原理というそうです。
両足立ちや歩く時は最大筋力の50%未満なので、速筋線維は使われない。
片足立ちは体重の2.75倍かかるので、最大筋力の50%以上。速筋線維を使う。高齢者の転倒予防になったのは、これが理由だと思います。
非日常的な動作や行動をとった場合に、最大筋力の50%以上の力を発揮する。その力を発揮するときだけ、速筋線維が使われる。ということです。
「速筋線維を使う」には
いわゆる筋トレは、まさに「速筋線維を使う」です。
マシントレーニングなどでは、10回程度反復できる重さで、トレーニングをするよう指導されます。
この10回前後反復できる負荷が、最大筋力の約75%。
速筋線維が使われ、速筋線維が増え、筋肉が太くなり、筋力がつく。
スポーツクラブなどに行かなくても、自宅でスクワットなどのトレーニングをすることが理想的ではあります。
日常生活で考えてみましょう。
普通に歩くだけでは、残念ながら速筋線維は使われません。
毎日1万歩歩いているのに、筋力が維持できないということはあり得ることです。アップダウンのある道であればよいのですが、平坦な道をゆっくりと歩くだけでは速筋線維は使われない。
ところがすこし息が弾む程度のスピードで歩くと、速筋線維が使われはじめます。足の筋肉に軽い疲労感を感じられる程度の負荷がかかるような速さで歩くことは〇です。坂道や階段がコースにあるとGood。
重い物を運んだり、動かしたりする時も、速筋線維が使われます。
家に階段がある場合、昇り降りするのに速筋線維が使われます。しかし1F程度の昇り降りを、1日に数回の行うくらいでは、トレーニングとしてのボリュームは足りないように思います。
やはり意識的にトレーニングとして実施することが必要。
そう考えると、1日2分間(片足1分ずつ)の片足立ちは、自宅でできて、時間もかからない。この片足立ちだけで十分とは思いませんが、メニューの一つに入れるはいいかも。要支援、軽度の要介護高齢者の転倒予防にはかなり効果がありそうです。
「速筋線維を使う」しかない!
筋力を維持するには「速筋線維を使う」しかない!
一口に筋力といっても、上半身や体幹、下半身の筋力があります。上半身の筋力は下半身に比べると衰えにくいのが一般的。筋力維持は下半身の筋力維持と考えればよいです。(高齢期自立のカギは、下半身筋力)
ウォーキングがダメなわけではありません。あくまでも「速筋線維を使う」ことが意識できる負荷で歩くことです。ポイントは歩数を目標にしないこと。
速く歩くと歩幅が伸び、歩数は減る。負荷がかかるので長時間は歩けないので、やはり歩数が減る。
私の1日の平均歩数です。約6,500歩。通勤がない割には歩いているのでは。
外出するときは早歩きを心がけ、階段昇降は1日平均14F。筋力維持や健康維持を考えると、十分な歩数と思っています。(趣味のスキーを考えると、別途筋トレが必要ですが)
速筋線維を維持するには速筋線維を使うしかない。
速筋線維を使わないと、加齢により神経支配の変化により、遅筋線維に変化することがわかっています。使わなければ負のスパイラルで速筋線維が減り、筋力が落ちます。
以下が一つの目安。
- 運動強度
「ややきつい」と感じる運動強度 - 運動時間
小間切れでも構わないので、1日数十分程度 - 運動頻度
週2回(週1回でも効果がないわけではない)
長期間継続することが大事。ご自身にとって続けやすい運動、時間、頻度で無理なく行っていただくのが最善です。
筋力が維持できれば、要介護状態になることを限りなく先送りできる。(いずれは訪れるが、その期間を短くすることが期待できる。)
つまり人生を楽しむ時間が増える。
おまけ
5月12日に厚生労働省が、2020年市区町村別平均寿命を発表。市区町村別平均寿命1位は男女とも、川崎市麻生区という結果に。5月23日朝日新聞朝刊の記事にもなっていました。
「秘訣は坂道?」という見出しとともに、「どこに行っても坂道ばかり。足腰が鍛えられて健康な人が多いのかも。」との意見も。寿命に関係する要因は、バラエティにとみます。簡単に結論付けるのは、ちょっと無理がある。
しかし坂道を上り下りする行動は、まさに「速筋線維を使う」です。坂道が多いことは、寿命だけでなく健康寿命を延ばす要因になっても、不思議ではありません。
毎日家に帰るときに登り坂がきついと、お嘆きのあなた。嘆いてはいけません。実はラッキーなのです。