胃がんにむし歯が関連している?

今年の2月に「ピロリ菌の除菌治療の失敗は虫歯と関連」との発表。

ピロリ菌は胃がんの原因として広く知られています。ピロリ菌除菌失敗は胃がん発病に直接的につながりかねません。

ピロリ菌

正直に言って、私は初耳。今回は胃がんの現状とピロリ菌除菌について考えていきます。

なぜむし歯がピロリ菌除菌失敗に関連しているか?

ピロリ菌(Helicobacter phlori)は約40年前(1982年)に、胃に住み着く菌として発見されました。強酸性である胃の中に細菌が存在すること知り、衝撃を受けた記憶があります。

ピロリ菌は、胃炎、消化性潰瘍、胃がんなどを引き起こします。そして胃がんの90%以上はピロリ菌が原因とされている。

ピロリ菌感染がある場合は、胃がん予防のために、除菌治療が不可欠と言えます。

朝日大学歯学部の研究によると、未治療のむし歯がピロリ菌の除菌治療に影響を与える可能性があることが示されました。

むし歯がピロリ菌除菌失敗に関連している理由としては以下の通りです。

  • むし歯からピロリ菌が検出されている
  • むし歯(そもそも歯では)では血液循環が悪く、抗菌薬が浸透しにくい
  • むし歯の細菌が「バイオフィルム」という膜を形成することで、ピロリ菌も抗菌薬から保護される
う窩のピロリ菌

一口にむし歯といっても、初期のむし歯ではなく、神経に達するような深いむし歯がある場合ではないかと、私は考えています。論文ではむし歯の深さについての記載はなく、本数のみでした。(もしかしたら、むし歯の深さは関係ないのかも)

筋書きは、胃のピロリ菌を除菌しても、お口の中のピロリ菌が再び胃に住み着くことになる。結果として、ピロリ菌除菌は失敗に終わる。

しつこいようですが、現時点ではあくまでも可能性があるという段階です。

胃がんは減っている!

日本において死亡原因のトップはがん。

胃がんは2022年のすべてのがんの中で、死亡数は三番目です。

がん死亡数2022

約60年前と比べると、平均寿命が格段に延びたため、がんによる死亡者は大幅に増加しています。

1958年からの主ながんの死亡数の推移が以下のグラフ。

がん死亡数の推移グラフ修正
国立がん研究センターがん情報サービスデータより作成

1958年のがんによる死亡数は約8万8千人で、その約半数(46.4%)が胃がん。当時はすべてのがんの中で、胃がんがダントツトップでした。

約60年後の2021年のがんによる死亡数は約38万人。高齢化の影響等で、4倍以上に膨れ上がっている。それに引きかえ胃がんによる死亡数は、1970年あたりまでは増えましたが、その後は横ばいに。最近ではむしろ減少に転じています。

胃がんだけは、60年前とほぼ同じ死亡数で、2021年は全がん中の10.9%と、割合は激減。

このことから「胃がんは減っている!」という認識で間違いない。

胃がんの原因ピロリ菌除菌するには

「胃がんは減っている!」とはいえ、2021年の日本の胃がん患者数は12万人で、全がんの中で3番目に多い。まだまだ過去の病気になったわけではありません。ピロリ菌除菌は胃がん予防の最大のポイントです。

日本ヘリコバクター学会の【H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版】を覗いてみました。

ピロリ菌感染の時期は、国内でも海外でも乳幼児期が多いとされています。つまり家庭内で感染することが大半。上下水道の整備などの衛生環境の改善により、1970年代以降はピロリ菌感染者は大幅に低下しています。このことが他のがんに比べて、胃がんが少なくなっている一つの大きな要因。

一方で胃がんのリスクは、50歳以上で高くなる。胃がん検診が推奨されているのもこの年代です。しかしピロリ菌感染早期での除菌ほど、胃がん予防効果大きいとされています。さらに次世代への感染対策としても、若い世代での除菌が有効

先のガイドライン中のピロリ菌に関連した胃がん予防の模式図が以下です。

胃がん予防のイメージ
H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版 P60「H.pyloriに関連した胃癌予防の模式図」

胃がんリスクが高くなる前の年代での、ピロリ菌感染検査と除菌が特に有効。(もちろん50歳代以降のピロリ菌除菌も有効です。)

家族、近親者に胃がんやピロリ菌感染者がいる方は、早い時期にピロリ菌感染の有無を調べる必要があります。陽性であれば、もちろん除菌を。

具体的なピロリ菌除菌治療は、胃酸分泌抑制薬+2種類の抗菌薬の7日間服用。抗菌薬以外に胃酸分泌抑制薬が必要な理由があります。

胃酸分泌を抑え、ピロリ菌の増殖を促すことによって、逆に菌に対する抗菌薬の効きをよくするためです。

以下がガイドライン2016改訂版の載っている除菌療法です。

ピロリ菌除菌治療ガイドライン
H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版 P46「本邦のH.pylori除菌の標準療法」

1)に記載されている数種類の薬剤はすべて胃酸分泌抑制薬。どれか1剤です。ただ近年では、ボノブラザン(VPZ)薬剤名タケキャブ錠が推奨されているようです。

2)AMPCはペニシリン系抗菌薬アモキシシリン。薬剤名サワシリン錠など。

3)CAMはマクロライド系抗菌薬クラリスロマイシン。薬剤名クラリシッド錠など。

3)MNZはメトロニダゾール。薬剤名フラジール錠など。

ガイドラインに則った除菌療法は、90%をゆうに超える成功率があります。研究結果によってばらつきはありますが、数%の除菌失敗ケースが存在するのは事実。

クラリスロマイシン耐性菌の存在も取りざたされています。しかしその他の要因も考えられるため、今回のような研究が実施されたのでしょう。

お口の中にもピロリ菌はいる

上下水道などの衛生環境の改善とピロリ菌除菌治療の普及により、胃がんはその他のがんと比較すると、激減しています。(まだまだ患者数は多いですが)

ピロリ菌はお口の中を素通りして、胃の中にだけいるイメージが。しかしお口の中にもピロリ菌いるようです。(健康なお口の中では、検出できないくらい微量かもしれません。)

そして胃はお口から近い消化器。お口の中の細菌の影響を受けるのは、至極当然かもしれません。

今回の「ピロリ菌の除菌治療の失敗は虫歯と関連」との発表は、現時点では確実なことではなく、可能性があるレベル。言い方を変えるとエビデンスレベルは低い

ここで注意が必要です。

エビデンスレベルが低いから、正しくないわけではない。
のです。

今後データが蓄積されれば、エビデンスレベルは上がり、確実になることは十分ある。
データが積み上げられ、エビデンスレベルが高くなるには、どうしても年数がかかります。

このことは様々な研究結果すべてにあてはまること。

今回のように新しい研究結果を目にした時、皆さんはどのような反応をするでしょうか?

もちろんケースバイケースだと思います。

賛成様子見反対
  1. なるほどと肯定する
  2. しばらく様子見(保留)
  3. そんなバカなと否定する

どれが正しいかは、一概には言えません。情報源の質にも左右されます。自身ではと考えると、基本的には②様子(保留)見が多いかも。(普通そうかもしれません。)
今回は?

ピロリ菌の除菌をすることによって、胃がんのリスクを大幅に下げることができます。
そしてむし歯治療は、胃がんと関係なく必要。

もしピロリ菌除菌治療を受けられ方は、念のため歯科健診及びむし歯治療を事前に済ませることを、強くお勧めします。

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