お口の健康がなぜ健康寿命に影響するか?part1

前回「健康寿命って?」で、健康寿命を長く保つための6要素の一つとして「歯・口腔の健康」が挙げられていると書きました。

(6要素は ①栄養・食生活 ②身体活動・運動 ③休養 ④飲酒 ⑤喫煙 ⑥歯・口腔の健康)

今回はお口の健康を保つことが、健康寿命を保つことにつながる理由についての話です。

年齢を重ねていくと、残念ながら歯の本数は少なくなっていきます。下の図を見て下さい。

あなたの歯の数

この青・赤・黒の5本の線は、それぞれの年齢の歯の本数(現在歯数)を現した、パーセンタイル曲線といいます。例えば赤い50パーセンタイルの線の55歳にあたるところに赤い点が打ってあります。歯の本数は26本くらいでしょうか。

これは、55歳の人のうち、歯の本数が多い人順から50%目の人(全体の人数が100人とした場合、100人中の50番目の人)の歯の本数という意味です。黒い90パーセンタイル線の黒い点は、75歳の人のうち、多い順から90%目の人の歯の本数は6本くらいということです。

赤の50パーセンタイル線は平均値を現しているわけではないのですが、ほぼ平均値と考えていただいて構いません。

つまり、50歳あたりをすぎると歯の本数がどんどん減っていくことがわかるグラフです。

では、歯を失っていくとどうなるでしょうか?

なんとなく、食事がしにくくなると思われる方が多いと思います。

実際には「かみにくい食品群を避け、その代わりに穀類などのかみやすい食品を食べる割合が多くなり、たんぱく質・ミネラル類・ビタミン類・食物繊維の割合が少なくなり、栄養のバランスが崩れる」ことが調査の結果でわかっています。

この調査結果は、厚生労働省が行っている国民健康・栄養調査のデータから、国立保健医療科学院の安藤雄一先生らが出した報告書(歯の保有状況と食品群・栄養素との関連)によるものです。

歯の少ない人たちの摂取が少なくなる食品

豆・野菜・果実・きのこ・魚介・肉・乳製品・油脂類

歯の少ない人たちの摂取が多くなる食品

穀類

穀類―「米類(米、加工品)」、「大麦」、「小麦類(小麦粉、パン、菓子パン、生めん・ゆでめん、乾めん・マカロニ、即席めん)」「その他の穀類」 厚生労働省資料より

歯の少ない人たちの摂取が少なくなる栄養素

たんぱく質、ミネラル類(カリウム・マグネシウム・リン・鉄・亜鉛など)、ビタミン類(ビタミンK・B1・C、葉酸、パントテン酸など)、食物繊維

歯の少ない人たちの摂取が多くなる栄養素

炭水化物

炭水化物-ここで挙げられている炭水化物は糖質と考えていいと思います。厚生労働省では食物繊維は「炭水化物の一部ではあるものの、エネルギー源としてではなく、それ以外の生理的機能による生活習慣病との関連が注目されている」として、炭水化物と食物繊維をわけています。(一般的には 炭水化物=糖質+食物繊維 です)

歯の少ない人摂取栄養素

食品別や栄養素別で見ると、以上のような結果になっています。

(そのほかの食品群・栄養素は差があまりなかったということです。)

生活習慣病予防のために積極的に食べたほうが良いといわれている食品群・栄養素が少なくなっていますね。また、炭水化物(糖質)だけが増えていますので、血糖値がとても心配になります。そして、取りすぎた炭水化物(糖質)は体に脂肪として蓄えられます。

健康というよりは、どちらかといえばメタボで、生活習慣病のリスクが高くなる食生活になってしまうようです。歯を失い栄養バランスが崩れることが、健康寿命に影響する原因の一つであると考えます

もちろん、歯を失ってもブリッジ(固定性の義歯)や入れ歯やインプラントを入れれば、歯がある時と同じように食事をすることは可能ではあります。しかしながら、実際は同じように食事ができないことが多々あります。そのため、先の報告書のような結果でたのでしょう。

食事がしにくくなるのは、以下のような理由によると考えます。

①入れ歯では自分の歯と同じように噛むことが難しい場合が多い。

②数本程度の少ない欠損(歯を失うこと)では歯を入れずに、そのまま放置してしまう。

→かみ合わせが悪くなり、その後、歯を入れても完全に回復できない場合がある。

③入れた歯(特に入れ歯)が噛みづらくなっても、そのまま我慢してしまう。

→土台の歯が悪くなったり、歯ぐきがやせてさらに条件が悪くなる。

→新しい歯を入れても元のようによく噛めない。

④ある程度、歯を失っている人は残っている歯も悪いことが多く、自分の歯でも噛みにくい。

実際には①~④の理由が複雑にからみあっているケースが多く見られます。

少しずつ歯を失うことによって、「おいしく食事をする」という、とても大切な機能を徐々に無くしていくことになります。

では、なぜ歯を失うのでしょうか?

抜歯の原因(平成17年8020推進財団調査より)

このグラフは平成17年に8020推進財団が出した「永久歯の抜歯原因調査報告書」によるものです。

歯が自然に抜けてしまうことはほとんどなく、たいていは歯科医院で、抜歯処置を受けることにより歯を失います。抜歯処置にいたった原因は次のようになっています。

歯周病42%

むし歯32%

その他13%

破折11%

矯正処置のため1%

無回答等1%

この中で、その他13%の大半は親知らずを抜歯したものでした。つまり不要な歯の抜歯がほとんどだったということです。(上のグラフはその他、矯正処置のためと無回答等をまとめてその他としてあります)

ということは、必要な歯を抜かなければいけなくなった原因の90%ちかくが歯周病とむし歯ということになります。

歯周病とむし歯を予防し、失う歯を最小限にとどめることができれば、生涯にわたりバランスのとれた食事をとることは難しいことではありません。そして生活習慣病を予防することができれば、健康寿命を長く保つことにつながります

次回はもう一つの大きな理由についての話です。

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