今回もNHKの情報番組を題材にします。

ガッテン! 5月8日放送のオープニング

5月8日(水)放送の  ガッテン! 「虫歯のリスクが激減!?発見!新★歯みがき法」

この番組の内容から話を進めていきます。

 

今回の番組の要点は

・日本人(大人)のほとんどはむし歯になっているが、スウェーデン人(大人)ではとても少ない。

・調べてみたら、日本とスウェーデンでは歯みがき法に大きな違いがあった。

・でもこの方法は、日本人にはなかなか馴染みにくい。

・フッ素とプロフェッショナルケアをうまく活用して、むし歯予防を実現していこう。

だいたいこのような感じだと思います。

専門家として出演されたのは

東京歯科大学名誉教授の眞木吉信先生です。眞木先生は大学の6級上の先輩で、学生時代は口腔衛生学の教えを受けました。長らく日本口腔衛生学会でも活躍され、日本におけるフッ素研究の第一人者のおひとりです。

今回の題目でコメントするに値する人選と納得します。

 

日本人のむし歯が多い問題の前に

スウェーデンで行われていて、日本人には馴染めない歯みがき法についてです。

イエテボリテクニック(イエテボリ大学で誕生した?)と紹介されていました。

方法はいたって簡単で

フッ素入りの歯みがき剤を十分な量をつけて普通にみがき

その後は口の中にあるだ液と歯みがき剤を吐き出して終わり。

歯みがき後の飲食を控える。

最大のポイントは歯みがき後に口をゆすがないということです。

この歯みがき後に口をゆすがないということが、むし歯予防の最大のポイントになると同時に、日本人に馴染みづらいという最大の理由です。

 

私自身もまったく洗口せずに歯みがきを終えるのは抵抗があります。

 

歯みがき後に洗口しない方法と日本人特有?の抵抗感との折衷案が

2017-3-20 最も効果的なむし歯予防法

で紹介した少量洗口です。

 

たしかに全く洗口をしない方が、お口の中に残るフッ素の濃度は高いです。しかしながら少量洗口でも再石灰化に十分なフッ素濃度が残ることが確認されているので、無理にイエテボリテクニックを実行しなくてもいいと考えています。

もちろん、十分な量の歯みがき剤をつけることと、少ない量で1回だけ短時間ゆすぐことを実行することが必要です。

少量洗口後でも歯みがき剤の味が残り気になりますが、比較的短時間(1分以内?)で気にならなくなります。

 

ガッテン! 5月8日放送で紹介されたグラフ

上の図は番組内で紹介されたグラフです。

青色のスウェーデンに比べて、オレンジ色の日本のむし歯が圧倒的に多いのが一目瞭然のグラフです。

日本の数字は、平成28年歯科疾患実態調査によるものなので、日本全体の最新の現状を示しています。スウェーデンの数字はヨンショーピング市での調査とあるので、スウェーデン全体を反映したものではないかもしれません。

このグラフの「虫歯のある人の割合」というのは、むし歯がある人と過去にむし歯の治療をしたことがある人の合計です。このため日本では各年代とも100%に近い数字になっています。年齢が上がるにつれて割合が下がっているのは、むし歯の歯が抜けてしまったり、歯が1本もない人が増えるからです。

スウェーデンでは歯を失う人が少ないので、年代とともにむし歯の割合が増えています。ある意味、自然な感じです。

このグラフだけで両国の比較をすると、圧倒的に日本はむし歯が多く、歯が悪いという結論になってしまいます。

 

では番組では紹介されていない、12歳児DMFTという数字で日本とスウェーデンのむし歯を比較してみたいと思います。この数字は全世界的に用いられ、各国のむし歯の状況を比較するのによく使われます。

(国内でも、都道府県別や市区町村別のむし歯の多さを12歳児DMFTで比較しています。)

 

どのような数字かというと、12歳児の1人平均のむし歯の本数です。むし歯になっている歯だけではなく、むし歯で抜いた歯とむし歯で治療した歯のすべての合計の本数です。

DMFTの意味は以下の通りです。

D: decayed(蝕まれた)=未処置歯(むし歯になっている歯)

M: missing(失われた)=喪失歯(むし歯によって抜いた歯)

F: filled (詰められた)=処置歯(むし歯で治療した歯)

Tは歯です。

1人平均のむし歯の本数というより、むし歯の経験歯数と言った方が理解しやすいかもしれません。

なぜ12歳児かというと、中学1年生くらいはちょうど大人の歯がはえそろう年齢です。12歳を永久歯列のスタート、つまりもっとも永久歯のむし歯が少ないベースライン(基準となる年齢)ととらえているのです。

 

日本とスウェーデンの12歳児DMFT(むし歯経験歯数)の移り変わりのグラフです。

文部科学省 学校保健統計調査より

マルメ大学Oral Health Databaseより

スウェーデンでは2011年で0.8本でした。最近の統計を探すことができませんでしたが、10年以上に渡りほぼ1本以下で、横ばいの数字が続いているので、現在も同じくらいの本数ではないかと思います。

日本は2018年の最新の統計では、なんど0.74本でした。

つまり、現在の12歳児では日本とスウェーデンのむし歯の本数はほぼ同じと言って差し支えありません

 

ところが約20年前の1998年で比較してみるとどうでしょうか。

スウェーデンの1本に対して、日本は3.1本と約3倍もむし歯が多かったという結果です。

1998年の中学1年生(12歳児)は、今では30歳代になったところです。

過去の12歳児DMFTを比べてみると番組で紹介されたように、スウェーデン人に比べて日本人はむし歯が多いという結果はやむを得ないでしょう。

 

むし歯のとても少ないスウェーデンでも、1985年の12歳児DMFTは3.1本と多く、1977年にいたっては6.3本という結果が残っています。

でも日本よりも約20年早くむし歯を減らすことに成功しているのです。その理由は、フッ素入り歯みがき剤の普及が大きいと思います。

以前のブログで紹介したグラフです。

約30年前はフッ素入り歯みがき剤はほとんど売られておらず、むし歯がとても多かったのですが、現在は販売されているほとんどの歯みがき剤にはフッ素が入っており、むし歯が30年前の約1/5に減った。

と説明しました。

日本においてフッ素入りの歯みがき剤のシェアが90%以上になったのは2010年とつい最近です。

一方、スウェーデンでは1990年の時点で95%でした。(FDI 国際歯科連盟の調査)

歯みがき後の洗口の仕方もさることながら、このフッ素入りの歯みがき剤の普及の違いはとても大きいはずです。

 

ブログタイトルにある、日本人のむし歯が多い理由は

フッ素入りの歯みがき剤の普及が遅かったからではないか。

という結論になります。

(もちろん理由は一つではありませんが、最大の理由はということです。)

 

フッ素入りの歯みがき剤のフッ素濃度に関しても、日本とスウェーデンでは違いがあります。

日本は2017年の3月までは1000ppmが上限でした。

(現在では1500ppmが上限です。)

それにひきかえスウェーデンでは、1500ppmのフッ素濃度の歯みがき剤も以前から販売されているので、むし歯の数に差が出る原因の一つになっているかもしれません。

(スウェーデンでは2000ppm以上の歯みがき剤やフッ素の錠剤なども販売されています。)

 

最も効果的なむし歯予防法は

「再石灰化を促進するために、フッ素配合歯みがき剤を使用して歯みがきをし、少ない水で最小限の回数で洗口(少量洗口)する。」

2017-3-20 最も効果的なむし歯予防法 より)

 

歯みがき後に洗口をしてもOKです!

でも、少ない水で1回だけ!

 


おまけ

正式なイエテボリテクニックでは、実は洗口をすることになっています。

ただ10mlというごく少量の水なので、感覚として歯みがき後に洗口しない状態に近いです。

番組に出演された眞木先生はこのことは百も承知のはずですが、むし歯予防啓発のために、このようなテレビ番組的なイエテボリテクニックの紹介に同意されたと推測します。

 

スウェーデンのイエテボリ大学のビルクヘッド教授が「イエテボリ・テクニック」をフッ素入りの歯みがき剤の効果的な使用方法として紹介しました。

以下がその手順です。

①歯ブラシに2cmの歯磨剤をつける(成人の場合)。

②歯磨剤を歯面全体に広げる。

③2分間歯みがきをする(特に歯みがき方法にはこだわらない)。

④歯磨剤による泡立ちを保つ。

⑤歯磨剤を吐き出さずに10mlの水を含む。

⑥30秒間そのまま洗口する。

⑦吐き出した後はうがいをしない。

⑧その後は2時間は飲食をしない。

(日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会編集の「う蝕予防の実際 フッ化物局所応用実施マニュアル」より  ちなみに眞木先生はこの本の編集委員です)