むし歯には、治るむし歯と治らないむし歯があります。
上の写真では、歯に大きな穴があいています。もちろんこれは治らないむし歯で、治療が必要です。反対に治るむし歯の、治療は不要です。
今回は治るむし歯と治らないむし歯の違いを、説明します。
治るむし歯と治らないむし歯
治るむし歯と治らないむし歯の違いは、穴があいているか、いないかです。
治るむし歯のことを、初期むし歯といいます。
一般的なむし歯のイメージは、黒くて穴があいているではないでしょうか。仮に穴があいていなくても、真っ白な歯の一部が黒くなっていると、むし歯になっていると思われるはずです。
このような一般的なイメージと異なり、治るむし歯は白色です。ホワイトスポットともいわれています。そして穴はあいていないのですが、細い器具で触るとわずかなざらつきを感じます。
上の写真は乳歯(子供の歯)です。上の前歯の歯肉との境目に、帯状に白い(一部うす茶色)部分があります。これが初期むし歯、つまり治るむし歯です。
一般的なむし歯のイメージとはギャップがあるので、むし歯とは気がつかないケースが多いです。
治るむし歯は白色といいましたが、奥歯のかみ合わせの溝の場合は、上の写真のように黒い色です。もちろん穴はあいていません。
目で確認しただけでは、治るむし歯と治らないむし歯の判断できない場合が多く、レントゲン撮影をして判断をします。
まとめると以下のようになります。
治るむし歯(初期むし歯)
・平らな面
白色で多少のざらつきはあるが、穴はあいていない。
(専門用語では、実質欠損がない、う窩を形成していないと表現される。)
・奥歯のかみ合わせ
溝が黒くなっていても、穴はあいていない。レントゲン撮影でむし歯が確認されない。
治らないむし歯
・平らな面
穴があいている。色はほぼ白色から黒色までさまざま。
・奥歯のかみ合わせ
穴があいている。レントゲン撮影でむし歯が確認できる。
ここで大きなポイントが一つあります。
治るむし歯といっても、必ず治る訳ではありません。さらに進行して治らないむし歯になる可能性はあります。可能性があるというよりは、五分五分かもしれません。
治らないむし歯も、治るむし歯を経過してから、治らないむし歯に成長していきます。
治るむし歯といわれても、安心は禁物。治るか治らないかは、その後の心がけ次第です。
むし歯ができるメカニズム
歯の表面では、歯の結晶であるミネラル分(カルシウム、リン酸など)が溶けだしたり、だ液中のミネラル分(カルシウム、リン酸など)が歯の結晶の一部にとりこまれたりが、繰り返されています。
プラーク中のむし歯菌(ミュータンス菌)が作った酸によって、歯からミネラル分が溶け出すことを、脱灰といいます。
そしてだ液中のミネラル分が歯の結晶に戻ることを、再石灰化といいます。
むし歯菌は、飲食した時の糖から酸を作ります。つまり食事や間食、甘い飲料を飲んだ時はむし歯が作った酸により、必ず脱灰がおこり、それ以外の時に、再石灰化がおこる。
脱灰は結晶を酸で破壊するだけなので、短時間で進行します。それに引きかえ再石灰化は、ミネラル分をしっかりと積み上げ、結晶を作るので脱灰よりは時間がかかります。
つまり間食が多く、脱灰する時間が長いとむし歯になるリスクが高くなるのです。
歯みがきの頻度や、歯みがきの上手い下手にも左右されますが、歯みがきをしていても脱灰が多くなるとむし歯になります!
脱灰>再石灰化 → むし歯(この公式を覆すことはできない。)
治るむし歯が見つかったあとも、脱灰の方が多い生活を続けていると、必ず治らないむし歯に進行します。
詳しは
2017-3-3 歯みがきができていれば、むし歯にならないか?
いきなり穴があくわけではない
脱灰が進行してむし歯になったとしても、いきなり歯に穴があくわけではありません。このいきなり穴があかないことが、最初に説明したように、治るむし歯と治らないむし歯を決定づけます。
歯の表面はむし歯菌が作った酸に抵抗できる、溶けにくい層です。表面の少しだけ内側に、酸が浸透していきミネラル分が溶け出します。これを専門用語で表層下脱灰と言います。
この表層下脱灰が起こることが、むし歯の初期の特徴です。
表面に溶けにくい層があるために、外観は健康な状態が保たれているにもかかわらず、少しだけ内側のミネラル分が溶け出す脱灰がみられのです。(前の章では、歯の表面と書きましたが、実際にはほんの少し内側になります。)
日常の飲食で、脱灰と再石灰化は常に繰り返されています。
ところが間食などが多い、歯みがきが不十分など、脱灰が多くなるような状態が続くと、治るむし歯(初期むし歯)へと進行していきます。
この段階でむし歯に気づいたり、生活習慣を改めることができれば、穴があく前に表層下脱灰された層は、再石灰化により修復されます。つまりむし歯が治るのです。
残念ながら、治るむし歯の段階で生活習慣が改善されない場合は、表層下脱灰の層が大きくなり、表面に穴があき治らないむし歯に進行してしまいます。
再石灰化しても歯は大きくならない
脱灰>再石灰化 → むし歯
ですが
脱灰=再石灰化 → むし歯にならない
では逆に
脱灰<再石灰化 → ?
の場合はどうなるでしょうか?
以前に小学校での歯科講和のあとに、小学生から次のような質問がありました。
「脱灰より再石灰化が多くなると歯が大きくなるのか?」
脱灰が多いと歯に穴があく訳ですから、再石灰化が多ければ、歯の表面にミネラル分が追加されて、歯が大きくなるのではという質問です。
もっともな質問ですが、答えはNOです。
あくまでも再石灰化されるのは、歯の内部に限ります。なぜ歯の表面には再石灰化がおこらないかというと、歯の表面には特殊な膜があるからです。
歯の表面はペリクルという、リンたんぱく質の膜があります。この膜はだ液中のタンパク質からできています。
このペリクルがあるために、歯の表面にはミネラル分が追加されません。
でもペリクルは、歯の表面を酸から守る役目も、合わせて受け持っています。再石灰化されて歯の形が変わってしまうのは困りますので、ペリクルは歯を保護する重要な膜といえます。
そして歯に穴があいた、治らないむし歯の表面にも、ペリクルのようなリンたんぱく質の膜ができます。一度歯に穴があいてしまうと、再石灰化で穴が修復されないのは、リンたんぱく質の膜があるためです。
穴があいた治らないむし歯は、治療が必要なことが、理解できるのではないでしょうか。
再石灰化を促進するには、フッ素がとても有効です。歯みがきの時には必ずフッ素入り歯みがき剤を使いましょう。