口腔がん検診は受けない方がよいのか?

港区では平成29年度(2017年度)から、40歳以上を対象とした口腔がん検診が行われています。もちろん西辻歯科医院でも、口腔がん検診を実施しています。

国立がん研究センター中央病院
PIXTA

日本人の死因のトップは、がんです。国はがん検診受診を強く推奨しています。

しかし国が推奨しているがん検診は、5つのがん検診のみで、口腔がん検診は国が推奨するがん検診には入っていません。今回はこの辺りを話題にします。

国が推奨しているがん検診

まずがん検診の目的から確認していきましょう。

がん検診の目的
がんを早期に発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させること。

多くのがんを見つけることではなく、あくまでも死亡者を減らすことを目的としています。

がん検診を実施することにより、そのがんによる死亡が確実に減少するという、科学的根拠が必要です。

また検診で用いられる検査が安全であること、検査の精度がある程度高いことも求められています。

これらのことを踏まえて、国が推奨しているがん検診は、以下の5つです。

国が推奨するがん検診 がん検診情報提供研究班
がん検診情報提供研究班 「がん検診の賢い受け方〜がん検診のメリット・デメリットを知っていますか?」より 2022年9月11日アクセス

がん検診情報提供研究班のサイトでは、動画「がん検診の賢い受け方〜がん検診のメリット・デメリットを知っていますか?」で詳しく解説しています。

がん検診を受けても受けなくても死亡リスクが変わらないがん検診は、必要がないというスタンスです。がん検診のメリット・デメリットは次の通りです。

がん検診のメリット

検診を受けることにより、早期発見・早期治療につなげ、死亡リスクが下がる。

がん検診のデメリット

①検査による偶発症(偶然におこる不都合な症状)がおこることがある。
 専門医療機関で精密検査(がんの疑いの場合)を受けたときに、まれにおこる。

②がん検診の結果が誤りの場合がある。
 がんではないが、がん検診で「がんの疑い」と判定-偽陽性
 がん検診で「異常なし」だが、その後にがんであることが判明する場合-偽陰性

③過剰診断
 リスクのないがんを発見する。
 前立腺がん、甲状腺がんなどにあてはまる。

国が推奨する5つのがん検診も、がん検診のデメリット①と②は当てはまります。しかしそれを上回るメリットのエビデンスが、確立されているので、推奨されているのだと思います。(詳しくはサイトの動画をご覧ください。)

口腔がんは少ない

口腔がん検診が推奨されていないということは、検診による死亡者数減少の科学的根拠がないということになります。

現時点で有効であるという科学的根拠はないかもしれませんが、無意味であるという明確な根拠もあるわけではありません。

科学的根拠がない大きな理由は、口腔がんの患者数が少ないということにつきます。

国立がん研究センターのがん情報サービスから患者数(罹患)を調べてみました。(2015年が最新のデータ)

2015年5がん及び口腔・咽頭がん患者数

国立がん研究センターでは、口腔・咽頭がんとして統計処理されており、口腔がんはそのうち約40%といわれています。年間の患者数からみても、胃がんなどのメジャーながんと比較すると、二桁少ない数です。

公的資金でがん検診を行う限りは、コスパ(費用対効果)が重要なのは当然です。

ただ患者数が少ないからといって、一概に切り捨てていいとも限りません。

そもそも口腔がんとしての統計自体がありません。これでは科学的根拠を示せるはずはありません。

当たり前ですが、悪性腫瘍(大半はがん)は医科の病気です。ただその中の約1%だけが、歯科で扱う口腔がんです。基本的には医科の枠組みの中で、がん検診やがん統計が実施されてきました。がん検診の有効性を評価できるような、全国的な口腔がん検診は今まで実施されていません。

口腔がん検診で死亡率を減少させることは、現時点で確認されていませんが、それと同時に有効性のない検診とも示されていません。

口腔がん検診は必要

私は二つの理由で、口腔がん検診は必要性が高いと考えます。

一つ目の理由は、口腔がんは増えているからです。

国立がん研究センターのがん情報サービスから、がんによる死亡者数のデータを調べてグラフにしました。(1958年から2020年までのデータ)

がんによる死亡者数は増加の一途をたどっています。このようながんによる死亡者数の増加は、日本人の平均寿命が延び、高齢化が進んだことによると説明されています。

口腔・咽頭がんと全がんの死亡者数の推移

青の棒グラフが全がん死亡者数の推移です。最初の統計年である1958年に比べて、最新の統計年である2020年では、3.2倍に増えています。いっぽうでオレンジ折れ線グラフの口腔・咽頭がんでは、その倍以上の8.4倍に増加しています。

このように口腔がんが増加している要因は、はっきりはわかっていません。

2021-5-14 口腔がんになりやすい人 では口腔がんの専門家のコメントを掲載しておりますので、こちらをご覧ください。

二つ目は仮に命を取りとめたとしても、術後にQOLが著しく低下するからです。

口の中にがんができると、食事や会話などの日常生活に大きな苦痛を伴う影響が出ます。

口腔がん全体の約60%を占める舌がんを例にとります。初期の段階であれば、処置後も舌の形はほとんど変わりありません。後遺症を呼べるような症状もほぼなく過ごすことができます。

ところがある程度の大きさに進行してしまうと、舌の半分もしくは全部を切除しなければなりません。

命を取りとめられても、その後の寿命も十分保証される回復をみせたとしても、日常生活に絶望的な障害を残すことになりかねません。

リハビリにより会話は、かろうじて可能な段階にはなるかもししれません。しかし食事の楽しみは失います。

上顎にできたがんを手術した場合、顔面に大きな穴があくこともあります。とても人前に出ることができない状態です。

死亡者数だけでは、計れない部分もあります。

全国的に口腔がん検診を実施し、検診データを蓄積し有益ながん検診かどうか、まずしっかりと検証してほしいと思います。また口の中にできるがんであるという、特殊性も併せて考えていく必要があります。

港区口腔がん検診

2017年度(平成29年度)から始まったのが、港区口腔がん検診(港区検診事業の一つ)です。

実は2009年度から港区芝歯科医師会と港区麻布赤坂歯科医師会の合同で、歯科医師会の独自事業として、口腔がん検診が実施されていました。(麻布赤坂歯科医師会単独では2008年度から)

両歯科医師会で口腔がん検診周知のためのポスターやパンフレットを作成して、口腔がん検診の普及につとめてきました。

歯科医師会口腔がん検診パンフレット
(公社)港区芝歯科医師会・(公社)麻布赤坂歯科医師会により作成 一部(公社)日本口腔外科学会東京都支部協力

2015年までの歯科医師会口腔がん検診事業をまとめた「港区口腔がん検診事業の概要〜準備段階から平成 26 年度までのまとめ〜」を港区に提示し、口腔がん検診に対する理解を得ることにより、2017年度から港区検診事業としてスタートするにいたりました。

歯科医師会の独自事業は、口腔外科出身の先生方が中心になって立ち上げられました。その背景にあるのは、やはり進行した口腔がん処置後に、QOLが著しく低下する実体験です

口腔外科出身の先生方は、進行口腔がん処置後の悲惨な状況を、患者さんへの診察を通して身に染みています。 早期発見かいなかにより、その後の人生が180°近く変わる現状に何度も接しているのです。

がん検診により、がんによる死亡を減少させることが最も重要である点に異論はありません。

しかし口の中にできるがんという特殊性を考えると、死亡者数のみで検診の有効性を判断することへの違和感は残ります。

もう一点あります。口腔がんに限らず、予防が大事です
本当はこれが最も大切ではないかと、私は強く感じます。

病気(がん)を早期に発見するより、そもそも病気(がん)にならない方がよっぽど幸せです。

港区口腔がん検診では

早期発見・早期治療につながる効果的な検診を実施するだけではなく、予防につながる情報提供を同時に行っています。

口腔がん予防の啓発のためにも
超高齢化社会を突き進む現状で、人生の最終段階でのQOLを可能な限り保つためにも

口腔がん検診を推進していきます。

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