今回は前回ブログ 2022-10-26 お菓子を食べてもむし歯にならない方法の、フォローをする内容です。むし歯予防のためには、歯みがきの時に十分な量のフッ素入り歯みがき剤を、使いましょうと書きました。
フッ素をとりすぎては危険ではないのか、という声が聞こえてきそうなので、この辺りの話題です。食品でも、薬でも適量というものがあり、むし歯予防に効果的なフッ素にも適量があります。
※本ブログのフッ素はフッ化物をさします。水質汚染の原因となっている、有機フッ素化合物(PFAS)とは、まったく別です。
フッ素のとりすぎに注意する理由
フッ素入り歯みがき剤のとりすぎによって、起こる可能性のある病気は歯のフッ素症(斑状歯)です。(現在の日本では、ほぼないと考えていますが。)
歯のフッ素症とは歯の表面のエナメル質が、白く濁って見える異常です。重症になると一部茶色がかったり、一部歯が欠損することも。
世界的には飲料水のフッ素濃度がとても高い地域でみられ、フッ素がむし歯予防になることが、発見されるきっかけになった病気です。
永久歯が顎の中で作られる、生後から8歳くらいまでの間に高濃度のフッ素を含む飲料水を継続的に飲んだ場合は、歯のフッ素症になる可能性があります。日本では飲料水には、フッ素はほとんど含まれていないので、飲料水が原因になることはありません。
日本において歯のフッ素症の原因になりえるのは、フッ素入り歯磨剤やフッ素洗口剤を不用意に、大量に、継続的に飲み込んでしまうことです。
大量のフッ素入り歯みがき剤をつけて歯みがきをすることだけでは、歯のフッ素症にはなりません。あくまでも飲み込んでしまったフッ素が原因。歯が完成する前だけに存在するエナメル芽細胞を経由しての影響です。
2022-8-22 チーズのむし歯予防効果 では
「歯(エナメル質と象牙質)には、細胞に栄養を届ける血管がない訳ですから、もちろん細胞もありません。」と書きました。
歯が完成する前には、エナメル芽細胞と象牙芽細胞が存在し、この細胞から歯が作られます。このエナメル芽細胞、象牙芽細胞は、歯が完成するとなくなりますが、存在するうちはエナメル質に飲み込んだフッ素の影響が及ぼされる。
適切なフッ素濃度の飲料水であれば、むし歯になりにくい歯に。過度なフッ素濃度の飲料水であれば、むし歯にはなりにくいが歯のフッ素症になってしまいます。
例えば永久歯の上の真ん中の歯(中切歯)では、石灰化が始まる生後4カ月~歯冠が完成する4、5歳くらいまでの間に影響を受けます。
フッ素入り歯みがき剤もフッ素洗口剤も吐き出すのが原則で、不用意な飲み込みには注意が必要。ただ影響がでる可能性があるのはあくまでも、大量に継続的に飲み込んだ場合です。(8歳くらいまで)
フッ素入り歯みがき剤の適切な使用量は示されているが・・・
フッ素入り歯みがき剤の年齢別応用法が示されています。これはWHOなどから6歳未満の子どもには、フッ素入り歯みがき剤の少量使用の勧告がされている背景があります。
ただこのようなフッ素入り歯みがき剤の少量使用勧告は、飲料水のフッ素濃度が高く、軽い歯のフッ素症が確認されている地域などで必要なことです。
日本では飲料水へのフッ素添加は行われていません。フッ素濃度はとても低い水準で、歯のフッ素症が増えているという報告を耳にすることもありません。
上の表で示されている目安はいささか消極的です。(まかり間違っても、絶対に大丈夫な量を設定しているため。)
かりに5mm程度の歯みがき剤の量を0.25gとします。4~5歳児が0.25gの歯みがき剤を使用した場合、30分程度でお口の中のフッ素濃度が使用前と同じになるという報告もあります。十分な効果とは言いがたい。
洗口ができる、つまり吐き出すことがしっかりできるのであれば、上の表を厳密に守る必要はありません。(日本では)
そして6歳以上であれば1000~1500ppmの歯みがき剤の使用も可。
危険な使用量と適切な使用量
ではどれくらい使用量が多くなると歯のフッ素症になる危険な使用量でしょうか?(8歳くらいまでが注意が必要な年齢。)
繰り返しになりますが、フッ素入り歯みがき剤の吐き出さずに飲み込んでしまうことが原因です。
かりにすべての歯みがき剤を飲み込むとして、どれくらいの量が上限なのか?
う蝕予防の実際フッ化物局所応用実施マニュアル(日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会編)P161「日本人におけるフッ化物摂取基準の試案」をもとに計算しました。
飲料水のフッ素濃度2ppm未満の場合、歯のフッ素症の発生が5%未満という疫学調査結果があります。試案ではこの調査結果から飲料水のフッ素濃度2ppmにあたるフッ素の量を上限としています。
フッ素濃度2ppmの場合、飲料水及び食事からとるフッ素の合計の概算が、0.1mg/kg/dayとなる。→詳しい摂取基準計算はこちら
つまり体重1㎏あたり1日につき0.1mg以上のフッ素量はNGという計算です。
例として3~5歳児(女子)を例に歯みがき剤の上限の量を推定してみます。
3~5歳児(女子)の平均体重を16.0㎏とする。
0.1×16=1.6
1日あたり1.6mgがフッ素上限量となります。
1000ppmフッ素入り歯みがき剤0.5gをつけて1日3回歯みがきをする。
吐き出さずに、すべて飲み込むとした場合の1日のフッ素摂取量は
0.5g×0.000001×1000=0.0005g=0.5mg
(1ppmは百万分の一)
1日3回全て飲み込みと
0.5mg×3=1.5mg
フッ素は微量ながら、食品中や飲料水にも含まれるため
1日の3~5歳児(女子)上限量1.6㎎を超える可能性が。
この計算から1回につき0.5g以上は使用しない方がよいという結果です。
乳歯列用歯ブラシ(一番小さい歯ブラシ)の毛束いっぱいに歯みがき剤をだすと、ちょうど0.5gでした。
フッ素入り歯みがき剤の年齢別応用法で示されている、3~5歳児のフッ素濃度500ppmで5mm以下という使用量が、いかに少ない量であるかがご理解いただけると思います。(まかり間違っても、絶対に大丈夫な量を設定しているから。)
提示したフッ素入り歯みがき剤の年齢別応用法での、使用量およびフッ素濃度を、現在の日本に当てはめるのは厳格すぎる。
今回の計算は、「日本人におけるフッ化物摂取基準の試案」を参考にしています。あくまでも試案ですが、十分に根拠はあると考えています。
では適切な使用量はどれくらいでしょうか?
年齢別のフッ素摂取基準には、目安量も記載されています。
3~5歳児(女子)を例にとると、1日あたり0.8mg。
ただこの目安量というのは、フッ素(正確にはフッ化物)をミネラルの一つ、つまり栄養素ととらえて、むし歯予防効果があるフッ素の摂取量です。飲料水と食品からとる目安の量。
フッ素入り歯みがき剤の使用量の目安となる量ではありません。くどいですが歯みがき剤は、歯みがき後には吐き出します。
私見にはなりますが、年齢にあった歯ブラシの毛束の少なくとも半分程度の量はOKと考えています。
しかし洗口ができない、吐き出すことがしっかりできないのであれば、フッ素入り歯みがき剤の年齢別応用法に従ってください。
この辺りは現時点では、私も消極的です。
フッ素は私たちの回り、私たちの中に存在する
フッ素は微量ですが、私たちの生活環境や飲食物中に存在します。とても微量なので、むし歯予防にはなりませんが。
フッ素は私たちの体にとって、骨や歯の硬組織の構成成分として重要なミネラル成分です。(厚生労働省から提示されている「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」では、ミネラルとはされていません。)
フッ素は体重1㎏あたり1~100㎎存在し、成人の体内には約2.5g存在します。カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄につぐあたりの量。私たちの体に、常に存在している元素です。極端に避けることは無意味です。
フッ素はミネラルであるカルシウムと親和性が高いため、99%は骨に存在し0.1%が歯に。
フッ素取りすぎの影響として、骨への悪影響もありまが、歯のフッ素症よりも高濃度のフッ素による影響なので、国内で普通の生活をしている限りは、心配する必要はありません。
フッ素入りの歯みがきジェルを、子どもがこっそりとなめていたという話を聞くことがあります。研磨剤などがはいっていないジェルの方が、よりおいしくいただけるのかも。もちろんNG。保護者の方には歯みがき剤・ジェルの管理をお願いします。
フッ素入り歯みがき剤(ジェルも含めて)は食品ではないので、しっかりとした量を使用して、しっかりと吐きだす。
でも洗口は1回で。
おまけ
フッ素がほとんど含まれていないといわれる、日本の水道水フッ素濃度はどれくらいでしょうか?
東京都水道局に問合せてみました。
東京都港区では、令和2年の測定結果では0.1ppmであると教えていただきました。地域により差があるとのこと。ただ概ね0.1ppm前後ではあるようです。
本文でも書きましたが、フッ素は微量ながら生活環境中に存在します。河川にもフッ素は含まれる。河川水から作られる飲料水に、フッ素がわずかながら含まれるのは当然。
ただむし歯予防効果があるフッ素濃度は1ppm以上です。日本では概ね1/10程度ですから、むし歯予防のためにフッ素入り歯みがき剤を適切に使用する必要があります。
ご興味のある方は、以下のサイトを覗いてみてください。
水道水質データベース (jwwa.or.jp)