コップが先か?ストローが先か?

生後5か月から1歳すぎは離乳期です。母乳やミルクから大人と同じ固形物を段階的に食べられるように慣れていく重要な時期です。またこの期間は哺乳瓶やおっぱいから卒業をしていく時期でもあります。

ストロー飲み

この離乳期には飲料も、ミルクだけでなく麦茶や果汁なども加わっていきます。哺乳瓶からいきなりコップで飲むのはハードルが高いので、ストロー飲みを練習してからコップ飲みにステップアップしていくのが、普通であると思っていました。

哺乳瓶→ストロー飲み→コップ飲み

先日当院のお知らせで紹介いたしました
しあわせ歯ならびのつくり方ではこの常識?を覆す見解が示されていました。

ストローが先か?コップが先か?

20年以上前になりますが、私の二人の子供には、哺乳瓶飲みからまずストロータイプのマグを使い、その後コップタイプに移行していった記憶があります。

しあわせ歯ならびのつくり方

「しあわせ歯ならびのつくり方」では、ストローマグは使ってはいけない赤ちゃんグッズの筆頭と書かれていました。ストローマグというのは、ストローと上ぶたがついた乳幼児向けのマグカップで、持ち手が二つついています。1歳未満の乳児でも使いやすく工夫されています。

飲みものをこぼさずに飲みやすいストローマグはとても重宝ですが、哺乳瓶からのステップアップに使うのはNG。
ストロー飲みの開始時期は2歳くらいからが正しいとのことです。つまりコップ飲みが十分にできるようになってからはじめてストローを使うのが正解です。

ストローではなく、コップが先!

なぜコップが先でなければいけないのか?

著者の浅川幸子先生は都内で開業している矯正科医です。
先生の紹介文には「地域において不正咬合を未然に防ぐため、食事のとり方や姿勢、呼吸法の指導などを定期的に行っている。」とあります。

つまりストローではなく、コップが先なのは不正咬合(歯ならびやかみ合わせが悪い状態)を防ぐためです。

冒頭にも書きましたが、離乳期はミルクを吸って飲む(吸啜(きゅうてつ))という口の使い方から、固形物をかむ(咀嚼(そしゃく))という口の使い方に移行していく時期です。これと同時に飲み込む(嚥下(えんげ))時の口の動きもアップデートします。

ミルクを飲みこむ「乳児型嚥下」から、大人と同じ様に食べ物を飲み込む「成熟型嚥下」ができるようになる重要な時期なのです。

ポイントとなるのは舌の位置の変化です

ピジョン マグマグHP 「おっぱい、ミルクとの飲み方の違い」より 2020年9月10日アクセス

上段の母乳を飲む場合が「乳児型嚥下」です。
乳児型嚥下は母乳やミルクを舌を前後に動かしながら飲み込みます。舌は歯がはえてくる歯ぐきよりも前に出して、乳首を舌の上にのせています。
舌の位置は上あごから離れた下の方にあります。

下段の飲み物を飲む場合が「成熟型嚥下」です。
③の唇を閉じて、舌が上あごについていることがポイントです。

成熟型嚥下

成熟型嚥下は上の図のように、食べ物を咀嚼した後に舌を上あごにつけて飲み込みます。

ミルクを飲み込む時は、舌を歯ぐきよりも前に出して飲み込みますが、離乳期以降は徐々に舌を後ろに下げると同時に、上あごにしっかりつけて飲み込めるようにならないといけません。

舌が成熟型嚥下の上あごにつかず、下に下がったままで前に出た状態が継続することによって、不正咬合につながるのです。本の帯の紹介にあるように、遺伝ではなく環境による不正咬合です。

ストロー飲みでの嚥下

ストロー飲みは上の図のようになります。おっぱいを飲む時と同じ様に、舌が上あごにつかず、やや前に出る状態になります。成熟型嚥下が定着する前に、乳児型嚥下に近いストロー飲みを経験することは、成熟型嚥下の定着の妨げになりかねないのです。

遺伝ではない不正咬合を予防するためには、ストローマグの使用は控えるのが正しいようです。

舌の位置が下から上へ変化しなければなりません。
(これが飲み込む時の口の動きのアップデートです。)

マグ製造メーカーの見解

実際にストローマグを製造しているメーカーはどのように考えているのだろうと思い、私の子供もお世話になったピジョンのホームページを覗いてみました。

ピジョン マグマグHP 「自分で飲むための4つのステップ」より 2020年9月10日アクセス

ストローマグもコップタイプのマグも同じ7・8カ月頃~となっていました。
哺乳瓶→ストロー飲み→コップ飲みの順番は、記憶違いだったのか、それとも考え方が変化してきたのだろうか疑問に思いました。

ピジョン医療従事者向けサイトの問合せフォームで質問をしました。

①哺乳瓶からストローやコップに移行していくべき時期について、過去から現在にいたるまで、ある程度変遷があったのでしょうか?

回答では
ストロータイプとコップタイプの並び順が入れ替わったことはあるが、開始時期などに変遷はないとのことでした。

以前からストロー飲みからコップ飲みにステップアップという推奨はしていなかったようです。

ただコップタイプのマグの説明文に
「赤ちゃんにとって一番覚えるのが難しいコップ飲み」とありました。
ストロー飲みからと明確には推奨していないが、暗に推奨していると感じました。

もう一つ質問をしました。

②もしストロー飲みは2歳くらいから開始すべきという見解を聞き及んでおりましたら、貴社としての見解があれば教えていただきたいです。

回答では
聞いていないとのことでした。

育児の悩み事に答えるサイトなどを見ると以下のような説明がありました。

いきなりコップで飲む練習を始めるよりも、飲むコツをつかんでからコップの練習にうつるのが一般的です。スパウトやストローを使って、段階的に進めましょう。 (小学館はぐくむ)

現時点でも
哺乳瓶→ストロー飲み→コップ飲みの順番がまだ広く支持されているようです。もちろんコップ飲みから始めるべきと紹介しているサイトもあります。

ストローマグは使わない方がいい!

私たち人間は旧石器時代が終わる約1万年前までに、ほぼ現代人と同じ程度に進化したといわれています。

ストローが日常的に使われるようなって100年も経っていないはずです。ストローを使わなくても大人と同じ様に飲み込む「成熟型嚥下」はできるようになります。

コップ飲みが出来るようになる前にストロー飲みをすると、不正咬合になる可能性が高くなるという事実がある以上、ストローマグは使用すべきでないと思います。

コップ飲みの前にストロー飲みはしないほうがよい

哺乳瓶を吸う吸啜と同じような舌の使い方をする、ストロー飲みがコップ飲みよりやさしいのはあたり前です。また外出先などではこぼしにくいストローマグは、非常に便利なグッズだと思います。広く使用されているのもうなずけます。

それでも残念ながら、離乳期はストローではなくコップ飲みの練習を始めるべき時期です

「すすり飲みしやすく、コップの両端からだらだら飲みものがこぼれてしまうことも防げるので、安心してコップ飲みの練習ができます。」とうたわれているコップタイプのマグもあります。外に出かける時などはこのタイプのマグを使われるといいのではないでしょうか。

一般的には消費者に広く支持を受けている製品は良質な製品です。ストローマグも広く支持を受けている製品ですが、健康に悪影響を及ぼす可能性がある製品でした。ニーズがあり支持されているものが、必ずしも正しいとは限らない一つの例です。

かつてストローマグを使用していた二人の子供は、幸いにも不正咬合もなく育ってくれました。

難しいことですが、さまざまな情報の取捨選択する重要さをあらためて感じました。


続編をアップしました。
2021-1-18 ストローが先か?コップが先か?の続き

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