口腔がんになりやすい人

口腔がんは増加しています。

口腔がんイメージ

がんは、早期発見・早期治療。と、よくいわれます。
この早期発見・早期治療を、2次予防といいます。そしてがんを含めた病気自体にならないようにすることを、1次予防と。

今回は口腔がんを予防するには、どうしたらよいかという話です。

口腔がんは増えている

口腔がんの患者数は増加しています。まずどのくらい増えているのか確認してみましょう。

国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」のデータからグラフを作ってみました。

口腔・咽頭がんと全がん患者数の比較

国立がん研究センターでは、がんに関するさまざまな統計を一般に公開しています。がん患者数(罹患(りかん))は、1975年から2015年までのデータがありました。

棒グラフは、全てのがん(以下全がん)の10万人あたりの患者数で、折れ線グラフは口腔・咽頭がんの10万人あたりの患者数です。

国立がん研究センターでは、口腔・咽頭がんとして統計処理されており、口腔がんはそのうち約40%です。
口腔・咽頭がんは全がん中の約2%ですので、口腔がんは全がん中の約1%となります。

グラフから明らかなように、口腔・咽頭がんも全がんも増えている。このようながんの増加は、日本人の平均寿命が延び、高齢化が進んだことによると説明されています。

そして全がんに比べて、口腔・咽頭がんは増加傾向が強いです。これには高齢化以外の要因もありそうです。
口腔がん患者数の男女比では、3:2で男性が多いとされています。(前述の口腔・咽頭がんの2015年統計では、2:1で男性が多い)年代別では60歳代が最も多く、40歳以降に増える傾向があります。

男性高齢者がキーワードになるのが、口腔がんです。

口腔がんは次の場所にできるがんと定義されています。(WHOなど)

  • 頬粘膜
  • 口唇(上下唇の内側)
  • 上顎歯肉
  • 下顎歯肉
  • 硬口蓋(上あごの真ん中の硬い部分)
  • 口腔底(舌の下のお口の底の部分)
口腔がんができる場所
日本頭頚部癌学会の2017年のデータより

上の図から、日本では口腔がんの半分以上は舌がんであることがわかります。ただ舌背部(舌を出した時に見える、舌の上の全面)にできることはなく、舌側縁(舌の側面)からやや下側の面にできます。

口腔がんを予防するには

まず1次予防から。
1次予防は口腔がんに限らず、全がんに共通します。

  • タバコを吸わない
  • 節度ある飲酒
  • バランスのとれた食事
  • 運動・身体活動
  • 適正体重の維持
  • 感染(一部のがんは細菌・ウイルス感染が原因)

口は飲食物を取り込み場所です。
タバコの煙、アルコール、熱い食品・飲料や刺激物などは、直接的にお口の粘膜に刺激を与え、口腔がんのリスクになります。

とくに喫煙は、国立がん研究センター予防研究グループのサイトでも、口腔・咽頭がんへのリスクは確実となっています。

ブログタイトルにある、口腔がんになりやすい人の筆頭は喫煙者です。

お口の中の特徴的な原因として、慢性の機械的刺激があります。慢性の機械的刺激とは、痛いほどではないが長期間にわたり、お口の中の粘膜に刺激が加わり続けることです。

具体的には次のような原因が挙げられます。

  • 頬粘膜に近接した智歯(親知らず)
  • 転位歯(歯並びから外れている歯)
  • 歯の鋭縁(歯の欠け、むし歯を放置した歯)
  • 義歯によるキズ

これらの原因が、頬粘膜や舌などへの慢性機械的刺激となり、口腔がんのリスクになります。機械的刺激になりそうな、智歯や転位歯は抜歯すること、必要な歯の治療を済ませることも、1次予防です。

慢性の機械的刺激を放置する人も、口腔がんになりやすい人です。

その他の原因もあるのか?

口腔がんリスクのキーワードは
男性・高齢者・喫煙者です。
ところが近年、別のキーワードが浮上してきました。
女性・若年者・非喫煙者です。

アメリカ歯科医師会(ADA)では、「口腔がんは高齢者だけの病気ではない、女性、若年者、非喫煙者も気をつけよう」と、2003年から提言していたようです。
では日本でも、同様の傾向があるのでしょうか?

口腔・咽頭がんと全がん患者数増加の比較(15~39歳女性)

このグラフも、国立がん研究センターのデータからです。

15~39歳女性の10万人あたりの患者数を、1975年の患者数を1として、口腔・咽頭がんと全がんの患者数の増え方を比べました。

全がんではこの40年で約2倍に増えましたが、口腔・咽頭がんは約4倍に増えています。日本でもアメリカと同様の傾向がありそうです。

ただ40歳以上男女計の10万人あたりの口腔・咽頭がん患者数も、1975年の患者数を1として、約4倍に増えていました。
口腔・咽頭がんに関しては、若い女性だけが増えているわけではないようです。

最初のグラフで、全がんに比べて口腔・咽頭がんの増加が著しいのは、若い女性の患者増加の影響かもしれません。

日本人喫煙率の変化(1975年→2015年)
日本人喫煙率の変化

口腔がんの一番のリスクとなる喫煙ですが、上図のように喫煙率はかなり減少しています。これだけ喫煙率が下がっているにもかかわらず、口腔がんは増加している。増加要因は高齢化だけでは、説明しにくいと思います。

若い女性の口腔がん増加の要因に対して、東京歯科大学口腔外科客員教授柴原孝彦先生の商業雑誌(デンタルダイヤモンド2019年3月号)でのコメントが、参考になります。

コメントでは、若い女性の口腔がん増加の要因に、慢性の機械的刺激をあげていました。それ以外には、子宮頸がんの原因とされている、ヒトパピローマウイルス(HPV)との関連。今までの発がんメカニズムでは語れない、something newな要因の存在にも言及されていました。

ホルモンの関係、女性の社会進出に伴う精神面ストレスなども考えられるようですが、不明な部分が多いようです。

1次予防は大事!2次予防も大事!

私たちにできる予防法は、禁煙をはじめとする生活習慣の改善です。当院のブログ紹介にある、健康寿命の延伸に関わる要素がそのままあてはまります。
①栄養・食生活 ②身体活動・運動 ③休養 ④飲酒 ⑤喫煙 ⑥歯・口腔の健康(健康日本21より)

前項ではふれませんでしたが、お口の中の清潔も大切です。歯周病が口腔・咽頭がん、食道がん、胃がん、膵臓がんのリスクが高めるとの報告もあります。

そして慢性の機械的刺激は、必ずなくしましょう。他の予防法と比べて、圧倒的に具体的でハードルが低い。治療をすればよいのです。

しかし不明な原因も、存在する可能性があります。1次予防だけで、100%口腔がんを防ぐことは叶いません。そこで2次予防、つまり早期発見・早期治療も重要であることが、ご理解いただけると思います。

智歯が原因の白板症
写真はご承諾をいただき掲載しております

上の写真は、右上智歯による慢性の機械的刺激が原因と思われた白板症(はくばんしょう)です。

白板症とは、お口の中の粘膜の角化が進むことによっておこる、白斑状の病変です。紅板症(こうばんしょう)とともに前癌(ぜんがん)病変(びょうへん)(口腔潜在的悪性疾患)に分類され、将来的に口腔がんになる可能性があります。白板症の日本でのがん化率は3.1~16.3%との報告があります。

この白板症の患者さんには、自覚症状はありませんでした。定期健診の時に、偶然に発見。原因と思われる智歯を抜歯して、半年後には白板症がなくなっていました。

この症例はがんではありませんが、がん化する可能性がある異常を発見できたのです。広い意味で、早期発見・早期治療です。

仮にがんになっていたとしても、初期であれば治る可能性は格段に高い。口腔がんにかぎったことではありませんが、進行するほど治癒率が下がります。

また口腔がんには、ほかのがんとは違い大きな特徴があります。
その特徴とは、目に見えるがんであることです。肺や胃などの内臓にできるがんは、直接目で見ることはできません。しかし歯肉や舌を見ることができます。ほとんどの口腔がんは、自分で見つけることもできます

2次予防、早期発見・早期治療のポイントは、定期健診と自己観察
(もし気になるところがある場合は、すぐに歯科医院を受診してください。)
もちろん1次予防も大事!

以下のブログも参考にしてください。
2020-4-27 舌がん ステージ4 Stage For~?
2018-4-20 口腔がんは増えているのか?

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