1月30日の港区立介護予防センター「ラクっちゃ」にての講演内容を、ピックアップして紹介します。
“歯科医がおしえる健康寿命の延ばし方~口からはじめる介護予防~”
口のささいな衰えを見逃さず、ご自身の介護予防に目を向けていただく目論見。
当日はweb参加を含めると56名の方に、ご聴講いただきました。
実際の講演はラクっちゃHPにて、約1年間視聴できます。配信日程が決まりましたら、お知らせいたします。
口のささいな衰え(オーラルフレイル)とは
オーラルフレイルはとは?
【Oral】(口・口腔)+【Frailty】(虚弱)の造語で、日本語。
お口の機能低下による悪循環に警鐘をならす概念、と定義されています。詳しい定義。
その前にフレイルというワードもあります。(オーラルフレイルに対して、全身的、身体的フレイルと呼ばれる場合も)
【Frailty】(虚弱)から作られた日本語です。加齢により全身的な衰えが見られる状態といったイメージ。
フレイルの三つの特徴
①中間の時期
健康から要介護状態への中間地点。
②可逆性
これがとても大きなポイント。元につまり健康な状態に戻ることが可能であること。もちろん加齢による自然な衰えは避けられません。100%元通りではなくても、自立した生活が継続できる心身を取り戻せる。
③多面的
フレイルというと、まず身体的な衰えをイメージするはず。うつや認知機能低下などの心理的・認知的フレイルもあります。そして見逃せないのが社会的フレイル。定年退職や独居などによる、社会的なつながりが希薄になることにより、浮かび上がってきます。
これらの多面的フレイルが複雑に影響し合い、負のスパイラルとなり、要介護状態に突き進む可能性が大きくなる。
一方でオーラルフレイルは、「警鐘をならす概念」といわれても、何となくピンと来ないのは私だけでしょうか?学術的な定義は脇に置いておいて、次のように理解いただければ十分だと思います。
オーラルフレイルとは?
- 口の“ささいな衰え”から始まる
- 意識することにより、回復させることが可能
- 放置することにより、フレイル(全身的な)ひいては要介護状態に進む危険性がある
具体的な口のささいな衰え(オーラルフレイル)とは
口の“ささいな衰え”とは具体的にどのようなものか?
次のイラストがオーラルフレイルの初期に見られる症状です。
口の“ささいな衰え”と聞くと、お口の機能(口腔機能)の衰えを思い浮かべるのではないでしょうか。
オーラルフレイルは老化に伴う、様々な口腔の状態の変化により、表面化してきます。
この口腔の状態とは何か?三つ挙げられています。
- 歯数
- 口腔衛生
- 口腔機能
歯の数が少なくなることは、大いに憂うべき事態です。
上のイラストにも「自分の歯が少ない」と。
歯が少ないと、「柔らかいものばかり食べる」「少ししか食べられない」に。
柔らかいものしか食べなければ、「あごの力が弱い」へ。
歯みがきなどの口腔衛生状態が十分でないと、むし歯や歯周病の悪化に直接的につながります。噛みづらくなるだけではなく、さらなる「自分の歯が少ない」へ。
お口の「ニオイが気になる」に影響。
そして加齢による心身の衰えが加わり、お口の様々な機能が低下していきます。
「むせる・食べこぼす」「活舌が悪い」「舌がまわらない」に。さらには「飲み込みにくい」なんて症状も。
このような口の“ささいな衰え”を見過ごしてはなりません。
ご自身の介護予防に目を向ける、チャンス!
オーラルフレイルを放置しては危険(柏スタディの結果から)
「柏スタディ」という、東京大学高齢社会総合研究機構と千葉県柏市の協働研究について紹介いたしました。この「柏スタディ」から、オーラルフレイルを放置することの危険性が、明らかに。
地域在住高齢者の身体的フレイルと死亡の危険因子としてのオーラルフレイル
Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly
65歳以上の高齢者約二千人を対象に、追跡調査を実施。上図のように、6 つのお口の指標のどれにも該当しなかった者を口腔健常群。 3 つ以上該当した者をオーラルフレイル群として比較。
すると。
オーラルフレイル群では口腔健常群に比べて、 2 年間の身体的フレイル、サルコペニアの発生はそれぞれ、2.41 倍、2.13 倍と。さらに 45 カ月間の要介護認定、死亡の発生はそれぞれ 2.35 倍、2.09 倍との結果が。
年齢などの死亡リスクに影響しそうなその他の要素を、調整しての結果とされています。
どういうことかというと。例えば年齢が高い方が、死亡リスクなどが高くなるのは当たり前。
もしオーラルフレイル群の方が、口腔健常群より調査開始の時点で平均年齢が高ければ、死亡リスクが高くなるはずということ。
調整しての結果というのは、オーラルフレイルがあるかないか以外の、死亡リスクなどに影響しそうな要素も十分勘案し、それらの影響を取り除いての結果、ということです。
この結果から言えること。
全身のフレイルや、身体能力の低下に先立って、オーラルフレイルが見られる。さらには要介護状態、最終的に死亡へと進行していく過程で、オーラルフレイルが影響している可能性が大きい。
テレビ番組でも度々取り上げられています。
口の“ささいな衰え”を、侮るなかれ。
しかし身体的フレイルあるいは要介護状態でも、何でもバリバリ食べ、お口が達者な方もいらっしゃいます。つまりフレイルや要介護状態でも、オーラルフレイルがあまりない場合もある。
この点は注意しておく必要があります。必ずしもオーラルフレイルが先とは、限らない。
加齢による衰えも、多様性です。
オーラルフレイル対策は
講演では次の二つをオーラルフレイル対策の結論としてあげました。
- お口の健康に関心をもち、何でも食べられる状態をキープ
- 可能な限り活動的な生活をおくり、全身筋力の維持に努める
普通に考えると「むせる・食べこぼす」「活舌が悪い」「舌がまわらない」などの、オーラルフレイル対策として、健口体操(お口回りを動かす体操)が頭に浮かびます。
唇や舌、頬、咀嚼筋だけでなく、肩や首回りの体操。発声練習や唾液腺マッサージなどが、実際に推奨されています。
講演の中でも、港区で実施している「みんなの食と健口講座」でのメニューを紹介しています。
対策は健口体操だけで十分でしょうか?
オーラルフレイルは加齢による筋力と神経系の機能低下により、表面化してきます。一口に筋力といっても、どこの筋力でしょうか?お口回りの筋力だけでしょうか?
講演では握力や脚の筋力との関連があると話しました。言い換えると全身の筋力低下が影響する可能性が高い。
詳しくは 2023-5-30 飲み込みにくくなった
もちろん健口体操は意味がないわけではありません。しかしお口回りをケアするだけでは、不十分な可能性大。
さらに言うならば、日常生活の中でオーラルフレイル対策が完結できれば、最高です。
ここで講演中に何回もスライドで登場した「フレイル予防の三つの柱」の出番。
これは全身的なフレイル予防を念頭に作られたものですが、そのままオーラルフレイル対策と考えて差支えないと考えます。
1 口腔・栄養
バランスのとれた栄養を取るには、何でも食べられることが肝心。定期的な歯科健診はかなり重要なウェートを占めます。
”お口の健康に関心をもち、何でも食べられる状態をキープ”
2 身体活動
全身筋力維持には欠かせません。身体活動を生活の一部にしていく工夫が必要。
3 社会参加
仕事であっても、余暇活動であっても、「外に出て関わる人と会話をすること」はフレイル予防・オーラルフレイル対策になります。
“可能な限り活動的な生活をおくり、全身筋力の維持に努める“
定期的な歯科健診や身体活動、社会参加などを、日常生活のルーティーンにうまく組み込むことができればgood!