今回は港区民の方限定の話題です。(でも港区民以外の方にも読んでほしいです。)
令和3年度より、港区『お口の健診』に新しい検査項目が増えました。本来は昨年度から実施する予定だったのですが、コロナ禍の影響で準備が整わず、仕切り直しての新しい検査項目の登場です。
港区『お口の健診』とは
『お口の健診』は港区が実施している成人歯科健診です。
20歳以上のすべての区民を対象に、平成20年度に開始され、今年度で14年目に。むし歯や歯周病の有無を発見するだけではなく、お口の健康を維持するための行動変容を評価する目的で、年2回受けられる健診です。
港区では平成24年度に、8020運動50%越えを達成しています。この目標達成は全国初であるだけではなく、国の目標よりも10年早い快挙です。
このことから『お口の健診』は、歯を残すための活動だけではなく、お口の機能の重要性を知ってもらうことへ、シフトしていくことになりました。お口の機能に着目することは、介護予防につながり、健康寿命延伸という国の大きな目標に合致します。
そこで今年度から、「食べられる・話せる」という、お口の機能の維持のために、お口の機能を評価する検査項目が増えたのです。
新しい検査項目は、お口の機能のささいなおとろえオーラルフレイルの検査です。オーラルフレイルに早めに気づくことは、介護予防につながります。
『お口の健診』新しい検査項目
『お口の健診』新しい検査項目は二つあります。
新しい検査項目1「何回飲み込めますか?」
嚥下機能(飲み込みの機能)の検査で、75歳以上の方にのみ実施します。
正式な検査名はRSST:repetitive saliva swallowing test (反復唾液嚥下テスト)。
30秒間で唾液を飲み込む回数から、嚥下機能を評価します。
3回未満の場合は要注意。
要注意の場合は、誤嚥のリスクが高くなる。
ご高齢の方で、大きめの錠剤やカプセルの薬が飲みにくいという方もいます。飲み込みの問題で、外食を避けがちになることも。やはり嚥下機能のおとろえは、要介護へのリスクを高めます。
新しい検査項目2「パパパ・・・何回言えますか?」
舌・口唇機能の検査で、全年齢が対象になります。発音や食べたり飲み込む時に必要な舌・口唇の動きを評価します。
正式な検査名はオーラルディアドコキネシス。
「パ」「タ」「カ」(お口の健診では「パ」のみ)を連続して発音。5秒間の発音回数を専用機器で計測。1秒あたりの回数で判定します。
4回/秒未満の場合は要注意。
6回未満を要注意とする基準もあります。明らかに機能低下がみられる人をスクリーニングするため、港区では4回を基準としました。
要注意の場合は、話すスピードが遅い、聞き返されることが多い、食べ物が口に残る、食べるのが遅くなる、うがいがしにくいなどの症状がある可能性があります。舌・口唇機能のおとろえは、嚥下機能のおとろえと同様に、要介護へのリスクを高めます。
NHK朝の情報番組でも紹介されています
2020年11月9日のNHK「あさイチ」で、『お口の健診』の舌・口唇機能の検査が紹介されていました。
「知らないと怖い“オーラルフレイル”」
口回りの機能がおとろえる「口腔機能低下症」。認知症、脳梗塞、誤嚥性肺炎などにつながりやすく死亡リスクが2倍になることが分かってきた。検査方法や改善方法を伝える。
「口腔機能低下症」とは、お口の機能を診断基準に基づいて診断する病名です。お口の機能のおとろえが見られはじめた状態です。
詳しくは
2020-2-27 40代から食べる力が衰える?(口腔機能低下症) のおまけを参考にしてください。
タレントの青木さやかさんが、東京歯科大学水道橋病院で、老年歯科補綴学講座上田貴之教授の診察を受ける様子が放送されました。ちなみに老年歯科補綴学講座は三十数年前に私が所属していた講座。(当時は歯科補綴学第Ⅰ講座という名称でした。)
結果は
「パ」5秒間で44回、8.8回/秒。
この結果が出た直後、上田教授をはじめ周りのスタッフがざわつきました。
どうも病院新記録樹立のようです。
上田教授の診療科を受診する方は、比較的高齢の方が多いはずです。青木さやかさんは当時、47歳ですから、受診者の中ではかなり若いことは間違いない。それにしても8.8回/秒は、驚きの記録です。ちなみに私は7.2回/秒がベスト(何回も練習しての結果です。)
今年度の『お口の健診』がはじまり約1ヶ月経過します。
当院での健診でも、女性でお二人が8.0回/秒以上を記録しました。
お二人とも8.4回/秒。(50歳代と70歳代前半の方でした。)
「口では女性に勝てない!」
どこかで聞いたことがあるフレーズです。
このフレーズの背景を、垣間見る気がします。
要注意の場合はどうすれば?
『お口の健診』の嚥下機能検査と舌・口唇機能検査のどちらかでも、要注意の結果が出た受診者には「みんなの食と健口(けんこう)講座」の受講を勧めることになっています。
みんなの食と健口(けんこう)講座
噛む力や飲み込む力などの口腔機能向上と口腔衛生、栄養状態の改善をはかり、簡単な体操も行います。
日常生活ではどのようなことを心がければよいでしょうか?
それは『お口の健診』の問診項目にヒントがあります。
2-4 ゆっくりよく噛んで食事をしていますか
2-5 よく外出をしますか
(『お口の健診』では、65歳以上の方は、21の問診項目に答えていただきます。)
話す、噛んで飲み込む、これらはすべて筋肉によります。
ゆっくりよく噛むことは、しっかりと筋肉を使います。消化を助けるという面だけでなく、なんでも噛める機能の維持につながるはずです。
重要なポイントは
2-5 よく外出をしますか ではないでしょうか。
詳しくは 2019-10-19 オーラルフレイル 聞いたことありますか?をお読みいただきたいのですが、「外出」がキーワードです。
運動のための外出は、もちろん重要です。
運動以外にも、知人との会食や趣味、ボランティア活動、地域での活動など、外出にはさまざまなバリエーションがあるのではないでしょうか。
どの目的であっても、これらの外出では会食や多くの人との会話がつきものです。自然とお口まわり(唇や舌)の筋肉をまんべんなく使います。
社会的な孤立(他人との接触が極端に少ない)は、健康寿命を縮める要因の一つです。
外に出て、関わる人と会話をする。
ぜひお口の機能を維持し、お口の健康と体の健康を保ちましょう。
しかし現在は、コロナ禍で外出がままならない現実があります。
極端に感染を恐れるあまり、外出をまったくしないことは、逆に健康を害することにつながります。
過度の自粛により、高齢者の心身の低下がみられることを、コロナフレイルというそうです。
幸いにも高齢者の方々のワクチン接種は、だいぶ進んでいるようです。
ワクチン接種が元の生活にもどれる免罪符ではありません。
が、感染リスクはかなり少なくなるはずです。
適切な感染防止対策を講じて、可能な限り「外出」を!
おまけ1(アプリ紹介)
舌・口唇機能の検査が、ご自分で試すことができるスマートフォン用無料アプリがあります。
もちろん「パ」「タ」「カ」すべて検査できます。ご自宅で練習してみてはいかがでしょうか。
・くちけん(iPhoneのみ)
栃木県の桐生市歯科医師会が開発したアプリ。
シンプルで使いやすい。
・毎日パタカラ(iPhone、android)
サンスターが提供しているアプリ。
大企業が開発しただけあり、本格的。
おまけ2
なぜ舌・口唇機能の検査を、20歳以上の全年齢で実施するのでしょうか?
一般的には介護保険の適用を受けるのは、65歳以上です。介護予防につながるオーラルフレイルの検査は、高齢者のみに行えばよいという考え方も道理です。
2020-2-27 40代から食べる力が衰える?(口腔機能低下症)でも紹介したように
若い年代から、お口の機能のおとろえが見られます。しかし実際には、何歳くらいからおとろえはじめるかは、現時点で明確にはわかっていません。
そこで舌・口唇機能の検査を全年齢で実施することになりました。
お口の機能は乳幼児期に発達し、老年期に低下する。
ところが上図のように、乳幼児期に成長不十分で、十分に発達していない場合があります。これを口腔機能発達不全症といいます。
口腔機能発達不全症では、若い年代でもお口の機能の低下がみられ、正常な人より早く老化によるおとろえの問題がおきる。
このような理由で、若い世代でもお口の機能のおとろが、みられる可能性があるのだと思います。