前回ブログに引き続いた内容です。
お口の健康を維持していくことは、自身の健康増進に役立つだけはなく、増大する医療費の適正化(削減するという意味)に貢献します。
前回はお口の健康を維持する重要な対策の一つが、歯科健診だという話で終わりました。
今回は歯科健診をどのくらいの頻度で受ければいいのか、どのような歯科健診が効果的なのか、受診するときの心の準備などを話題にします。
国民皆歯科健診へ
昨年の衆議院総選挙で、「生涯を通じた歯科健診の充実(国民皆歯科健診)」が、はじめて自由民主党選挙公約となりました。
この公約は、歯科健診を全国民が毎年一回受診できることを、制度として実現していくというものです。
歯科保健の立場からいうと、年1回の歯科健診受診は当然すべきと思います。しかし選挙公約となったことは、歴史的転換というのは大げさでしょうか。
歯の本数を維持し、お口の健康を保つことは、自身の健康増進に役立つだけはなく、増大する医療費の適正化(削減するという意味)に貢献します。歯科健診受診はその重要な対策の一つです。
ただ年1回の歯科健診受診だけで、十分でしょうか?
私は不十分だと思います。
歯科医療機関の通院の割合の高い市区町ほど健康寿命は長い
「歯科医療機関の通院の割合の高い市区町ほど健康寿命は長い」は、昨年3月に当医院からのお知らせに出しました、京都大学からの発表です。
厚生労働統計協会から発刊されている、月刊誌「厚生の指標」(2020年7月)に論文(「健康寿命および平均寿命に関連する高齢者の生活要因の特徴」)として掲載されました。
この研究は,全国の85市区町を対象に,要介護認定を受けていない高齢者への質問紙調査と自治体の公開データを用いて,高齢者の生活要因と健康寿命との関連を検証したものです。
趣味の会・スポーツの会・ボランティアの会の参加,外出の機会,歯科医療機関への通院の割合が高い市区町ほど健康寿命・平均寿命は長く,うつ傾向,喫煙の割合が高いほど健康寿命・平均寿命は短い傾向がみられたという結果です。
歯科医療機関への通院の割合というのは、治療などの一時的な通院ではなく、定期通院の有無の割合と書かれていました。
つまりかかりつけ歯科医を持ち、歯科健診や歯のクリーニングのために通院している人の割合だと解釈しています。
ここで重要なポイントです。
定期的に歯科健診を含む歯のクリーニングなどで、通院することが重要。いい方をかえると、かかりつけ歯科医を持つことです。定期的に通院する方の方が、歯の本数が多く、お口の健康を保っているのは間違いありません。
先ほど年1回の歯科健診受診では不十分と書きましたが、歯科健診はこの定期通院への大きなきっかけになります。歯科健診を全国民が毎年一回受診できることを、制度として実現していくことは、とても大きな意味があります。
歯科健診(定期通院)の頻度は?
歯科健診あるいはクリーニングなどの定期通院は、どのくらいの頻度が適切でしょうか?
お口の中の状態には、個人差があります。
実際には年に2~6回ていどの、歯科健診を兼ねた、歯のクリーニングが必要です。西辻歯科医院では、歯周病の進行度、むし歯や歯周病のリスクの大小などを勘案して、患者さんと相談して決めます。
一番多いパターンは、3ヶ月に1度、年4回です。
もちろん定期通院がすべての方に必要かというと、必要性がとても低い方も少数派ではありますが、います。しかし定期通院の必要性の低い方が、10年後もそのままかというと、実はわかりません。
年1回の歯科健診受診の意義は、ここにもあります。当たり前ですが、お口の健康も、無期限に永遠に続く訳ではありません。
お口の健康が健康寿命に影響する理由は、以下の二つのブログを参考にしてください。
2017-1-15 お口の健康がなぜ健康寿命に影響するか? part1
2017-2-2 お口の健康がなぜ健康寿命に影響するか?part2
効果的な歯科健診とは(港区お口の健診がモデルになる)
歯科健診ではむし歯などの病気を発見して、適切な処置をしていくことが大切なのはいうまでもありません。
でもそれだけで、良しとすべきではありません。
お口の健康を維持していくために最も重要なことは、日々の家庭でのセルフケアです。
もちろん定期的な歯のクリーニングも必要ですが、セルフケアがおろそかでは効果があがりません。
そこで私たち歯科医側としては、保健指導を重視する姿勢が大切になります。保健指導とは、お口の健康向上のために、生活習慣改善の提案をすることです。たとえば歯みがきの方法や歯間ブラシの使用、禁煙などです。つまり日常でのセルフケアに関することが中心になります。
歯科健診で仮にむし歯や歯周病がなかった人、あるいは適切な治療が済んだ人は、そこで終わりでは、歯を失わないことにつながりません。むし歯や歯周病のリスクが高い人は、いずれ新たなむし歯ができたり、歯周病が悪化する運命をたどります。
私たち歯科医師は、歯科健診や治療時に認められた、お口の中の状態やリスクについて、患者さん(受診者)に伝えます。
大切なことは、受診者の方に問題点に気づいていただき、必要があれば日々の生活習慣を見直していただくことです。これが最大のポイント!
一言で生活習慣を見直すといっても、簡単にはいかないのが普通です。やはり、繰り返しアプローチをしていくことにより、将来的に本人の利益につながる行動を起こす可能性が高くなります。
繰り返しアプローチできることも、継続した定期通院が重要になる理由の一つです。
平成20年から実施している、港区お口の健診は年2回受診できます。
2018-5-10 お口の健診はなぜ年2回受けられるのか?
港区お口の健診は「自己管理のための機会提供型・受診者支援型 」です。生活習慣の見直しを効果的に行っていただくために、私たちがフォローしていけるように年2回の健診受診が可能になっているのです。
ある意味港区お口の健診は、歯科健診のモデルになります。
歯科健診受診時の心の準備
歯科健診受診時の心の準備として、主体性を持つことをあげます。
お口の中の現状を理解し、必要に応じて行動変容(生活習慣の見直し)を起こす心構えが必要だと思います。
信頼をしていただいて、治療などをお任せといっていただけるのは、ありがたいことです。ただ自身の健康を維持していくのは、歯科医師や医師へのお任せでは、実現できません。
歯を失わず、お口の健康を維持していくために、受診者の主体性は欠かせません。
自分の健康は自分で築き上げるという姿勢が、どうしても必要です。
最近はご自分で勉強されて、歯の健康法にも詳しい方も多くいらっしゃいます。ただ中には、誤った方法を実践している場合もあります。
非の打ち所がないほど、完璧な方もいらっしゃるのも事実です。しかし大半の方は、なんらかの問題や気づいていないリスクを持っています。現状を適切に把握して、客観的なアドバイスを得られるのが歯科健診です。
お口の健康維持の根幹をになう家庭でのセルフケアと、そのサポートをする歯科医院でのプロフェッショナルケア。この二つのケアを好循環のサイクルとしていくためのキーが、歯科健診であり定期通院です。
自分の健康は自分で守る!
でも専門家の目も重要!