オーラルフレイルの話題です。
よくむせるようになった。活舌が少し悪くなったような気がする。飲み込みづらくなった。固いものが嚙みにくい。口が乾く(喉ではなく)。・・・
加齢とともに、こんな症状が気になりだす。
それほど不自由ではないが、気になるといえば気になる。この段階がお口回りの機能のわずかな衰え、オーラルフレイル。要介護状態への入口です。
今回は飲み込みにくいを中心に話を進めます。
飲み込みにくいを調べるにはRSST
飲み込む機能つまり嚥下機能を調べるには、反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test ; RSST)がよく行われています。
港区成人歯科健診「お口の健診」でも75歳以上で検査項目に入っています。全国的にもお口の機能を評価するためのとてもポピュラーな検査項目。
反復唾液嚥下テスト(RSST)とは
座った状態で、30秒間で唾液を飲み込む(空嚥下)回数を調べる検査。検査者が喉の軟骨に指を当て、飲み込むたびに軟骨が上下する回数を数えます。
3回未満が要注意。
昨年度(令和4年度)の港区成人歯科健診「お口の健診」で、西辻歯科医院で検査を受けた方(75歳以上)の9.8%が要注意という結果に。
40歳以上を対象とした検査結果をみると、40代 2.8%、50代 2.9%、60代 4.7%、70代6.7%、80代10.5%、90代22.6%と年代の増加と共にその割合が多くなっていました。
要注意の判定はオーラルフレイルの疑いありです。
対策を講じるべき時が訪れたと、自覚するのが正解だと思います。40代でも少ないながら、要注意判定者がいることに驚きを感じるかもしれません。でも現実。
詳しくは 2020-2-27 40代から食べる力が衰える?(口腔機能低下症)
朝の健康情報番組でも
5月7日(日)朝の健康情報番組は、オーラルフレイルに関連した内容でした。タイトルは「寿命を左右する“のどの衰え”」。
番組冒頭では「のどは40〜50代にかけてだんだん衰え始めるそうです。のどが衰えると、誤嚥性肺炎を起こしやすくなるので注意が必要。」
コメンテーターは歯科医師ではなく、耳鼻咽喉科の医師。オーラルフレイルというワードは出てきませんでしたが、この番組で紹介された”のどの衰え”はオーラルフレイルと捉えて間違いはありません。
番組内での”のどの衰え”の検査は、RSSTではなく水飲みチェック法でした。
水100mLを普通に飲んでタイムを計測。飲み終えるのに10秒以上かかる場合や途中でむせてしまった場合は要注意。ちなみに私もやってみましたが、4.2秒。セーフ。
“のどの衰え”への対処法として、「メンデルソン法」や吹き戻し、ペットボトルを使用したエクササイズが紹介されていました。
この番組で私が一番注目したのは、声帯と握力の関係。
声がかすれてくる原因は、声帯を開け閉めしている内喉頭筋という筋肉が衰え。この声帯の筋肉の衰えと関連が深いのが握力であると紹介されました。
握力は簡単な機器ですぐに測定できるので、体力測定などのメニューによく入っています。
コメンテーターの耳鼻咽喉科医師も、“のどの衰え”は筋力と神経系の機能の低下と、話されていました。全身筋力の指標の一つとして測定される、握力と関係があるのは、さもありなん。
ということは、握力を鍛えればよいのでしょうか?・・・
飲み込みづらいことに一番関係するは、足の筋力
飲み込みづらいことは、足の筋力と関係する。
反復唾液嚥下テスト(RSST)と身体運動機能の関係を調べた研究結果を紹介します。
「サルコペニアおよびダイナペニアを認める高齢化地域在住高齢者の反復唾液嚥下テストに関連する身体運動機能の特徴」
等尺性膝伸展筋力はRSSTの回数を決める大きな要素であった。サルコペニアおよびダイナペニアとは
等尺性膝伸展筋力とは、立ち上がり動作や階段昇降などに使われる太もも筋力を測定するものです。
上の写真はスポーツクラブなどでよく見かける、レッグエクステンションマシン。座った状態で直角に曲げた膝をまっすぐに伸ばします(この動作を膝伸展と)。太ももの外側の筋肉(大腿四頭筋)のトレーニングマシンです。
等尺性膝伸展筋力の測定は、専用に機器に座り、膝を曲げた状態からまっすぐに伸ばそうとする力を測ります。等尺性なので膝を伸ばさず、伸ばそうとする動作だけ。片脚ごとに行い平均をとる。
太ももの外側の筋肉(大腿四頭筋)は日常生活での立ち上がりだけでなく、何よりも歩くことに深くかかわる筋肉です。
膝を伸ばす筋力がある人の方が、RSSTでは回数が多い、つまり良い結果がでた。反復唾液嚥下テスト(RSST)の結果に、足の筋力が重要な物差しになることが明らかに。
では足の筋力を鍛えればよいのでしょうか?
全身筋力維持が課題
「声帯と握力」と「RSSTと膝伸展筋力」の二つ関係を紹介しました。
よくむせるようになった。活舌が少し悪くなったような気がする。飲み込みづらくなった。固いものが嚙みにくい。口が乾く。
このようなオーラルフレイルへの対応は?
番組で紹介された口回りの筋肉を鍛える。喉回りの筋肉を鍛える。もちろんこれらは、理にかなってはいます。
しかしそれだけでは十分でしょうか?ヒントとなるのが紹介した二つの関係です。全身の筋力が維持されていると、オーラルフレイルになりにくい。
周りの高齢者の方を思い浮かべてください。
- 活動的な生活をおくっている人
- 歩くスピードが速い人
- 現役でバリバリ働いている人
- 日頃から運動が習慣になっている人
このような方々が、概して動作が機敏です。普段の動作が機敏に行える方が、飲み込みなどに問題があるとは、ちょっと考えにくいです。(いないとはいいませんが、少ないはずです。)
歯の治療時を考えてみると、高齢になるほど、治療中にむせて治療を中断することが多くなります。
ところが比較的動作が機敏な人と、そうでない人を比較すると、動作が機敏な人の方が、むせなどによる治療の中断は明らかに少ないです。
可能な限り活動的な生活をおくり、全身筋力の維持に努める。オーラルフレイルに陥ることが防がれ、ひいては介護予防につながります。
オーラルフレイルや全身のフレイルは要介護状態への入り口。
一番のポイントはオーラルフレイル、フレイルは可逆的。つまり健康な状態に復活することができる段階ということです。
一方で要介護状態は不可逆的?
健康な状態に絶対に戻れないとは言いませんが、復活するのが非常に難しい段階。
元に戻れる可能性が高い段階で気づき、対策を講じることが必要。
ところで筋力を維持するには具体的にどうすればいいのか?過去のブログでは、以下のように書きました。
インターバル速歩では、速筋線維を使わざるおえないスピード(強度)で歩くので、筋力アップにも効果があるのです。
ポイントはいかにして速筋線維を使うか。
この「速筋線維を使う」については、次回ブログで。