今回は2022-12-3 フッ素のとりすぎはよくない の内容を更新します。
2023年1月1日に「4学会*合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」(以下 「推奨される利用方法」)が公開されました。もう少し早く公開されていれば、この「推奨される利用方法」をふまえてブログを書いていたはず。
フッ素入り歯みがき剤の適切な使用量を、今一度まとめなおします。そして歯みがき剤使用開始時期なども新たに加えました。
*4学会―日本口腔衛生学会 、日本小児歯科学会、日本歯科保存学会、日本老年歯科医学会
フッ素入り歯みがき剤使用開始時期
フッ素入り歯みがき剤をいつから使いはじめたらよいか?
歯がはえたらです。(「推奨される利用方法」にも記載されています。)
ということは、生後6、7ヶ月後・・・
可能でしょうか?不可能とはいいません。
では、歯みがきは奥歯がはえる、1歳半くらいからできるようになればよいと書きました。
歯みがきをはじめようとしても、最初は子どもが嫌がり、歯みがきができない現実に直面するから。
すると現実的には、フッ素入り歯みがき剤使用開始時期は、歯みがきができるようになってからになるはず。
特別なリスクがない普通のお子さんであれば、それで十分です。むし歯菌が感染するのは、1歳半過ぎたあたりといわれています。
では生後6、7ヶ月後からフッ素入り歯みがき剤を使う意味がないのではないかと、思われるかもしれません。
しかし意味はあります。
マチュレーションという言葉があります。直訳すると成熟。
つまり歯の表面のエナメル質が、フッ素を取りこみ、溶けにくい歯に成熟します。
歯がはえたら、フッ素入り歯みがき剤を使った方がよいのは正しい。しかし実際は、歯みがきができるようになって可能な限り早く。です。
「4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」とは
今回の「推奨される利用方法」には、フッ素入り歯みがき剤の年齢別のアップデートされた適切なフッ素濃度、使用量、使用方法が示されています。
2022-12-3 フッ素のとりすぎはよくない では、当時の日本口腔衛生学会などから示されているフッ素入り歯みがき剤の年齢別応用法が消極的すぎる、という持論を展開。
具体的には、使用するフッ素濃度及び使用量が消極的ではないかという点。
今回の「推奨される利用方法」では、使用するフッ素濃度は改訂され、使用量に関しては一部は従来の量が受け継がれています。 フッ素濃度等に関しては、私が指摘するまでもなく、多くの方面から要望が出ていた点なので、「やっと」というのが正直な感想。
1500ppmフッ素入り歯みがき剤についていえば、2017年3月発売当時に出された厚生労働省からの通知と、整合性が取れることになりました。(6歳以上が使用可)
今回の「推奨される利用方法」と以前のガイドラインとを、年齢別に比較すると以下のように。
フッ素濃度が500ppmから1000ppmになったことが大きな変更点。
この年代も、フッ素濃度が500ppmから1000ppmになったことが大きな変更点。使用量は同じといえば同じ。微妙に多くなったかも?
6~14歳は使用量とフッ素濃度ともにアップ。15歳以上は変わりなし。6歳以上が1500ppmというのは当然。
使用量は歯のフッ素症を確実に予防するとなると、吐き出すことが難しい3歳未満ではごく少量が推奨されるのは、適切なことと思います。(ヨーロッパなどのガイドラインも同様)
私見にはなりますが、年齢にあった歯ブラシの毛束の少なくとも半分程度の量はOKと考えています。
2022-12-3 フッ素のとりすぎはよくない
以前のブログではこのようにまとめましたが、「推奨される利用方法」が4学会合同で提示された以上は、これに従うべきと考えます。
しかし日本では、水道水へのフッ素添加は行われていません。水道水のフッ素濃度がある程度高い場合は、フッ素入り歯みがき剤の使用量は厳密に守る必要がある。でも日本は違う。
使用量に関しては「推奨される利用方法」に沿うのが原則ながら、「極端に神経質になる必要はない」ということが一番言いたいことです。
アイルランドの例から見る、フッ素利用のお国事情
今回のブログを書くにあたってweb検索をしていた中で、西真紀子先生の興味深い記事を見つけましたので、紹介します。
アイルランドでは1965年より水道水へのフッ素添加が行われています。(もちろんむし歯予防のため)
当初は1ppmでしたが、2007年からは0.7ppmに引き下げることに。
理由はフッ素入り歯みがき剤が普及し、軽度の歯のフッ素症がみられるようになったからのようです。
このような状況をアイルランド国民はどうとらえているのでしょうか?
「白い斑点程度なので、気にする人はいないようです。」と書かれていました。
確かに歯のフッ素症は健康被害ではなく、歯の審美障害と捉えるのが、正確と考えます。軽度であれば、気が付かないのが普通なのでしょう。
フッ素濃度を管理する浄水場での、日々のフッ素濃度は日々かなりの幅で変動しているようです。「四角い部屋を丸く掃く」アイルランドの国民性が現れている気がしましたとの記載も。わが国とは違いますね。
一方で日本の上水道のフッ素濃度は、0.1ppm程度。むし歯予防効果はない。 フッ素入り歯みがき剤をしっかりとした量を使いましょう。
歯がある限りフッ素入り歯みがき剤は必要
歯がはえてからなるべく早く使用すべきフッ素入り歯みがき剤は、いつまで使用すればよいのでしょうか?
答えは「歯がある限り」。
歯の表面のエナメル質は、日々の脱灰と再石灰化を繰り返し、またフッ素入り歯みがき剤からのフッ素を取りこみ成熟していきます。つまりむし歯菌の出す酸に、溶けにくくなる。子どもより成人の方が、むし歯になりにくい。
しかし間食や甘い飲料をとる頻度が多いと、むし歯になる可能性が高まります。間食等の頻度を少なくするだけでなく、フッ素入り歯みがき剤の使用がむし歯予防の鍵となるのは言うまでもありません。
そして唯一むし歯が増加している年代への対策も課題です。
高齢者のむし歯は増えています。特に要介護状態に近づくと厄介な問題に。
歯周病進行により歯肉が下がる。溶けやすい歯根面(表面は象牙質)が露出。一気に多くの歯がむし歯になり、比較的短期間で進行してしまう。高齢者のむし歯の特徴です。
実は日常の臨床で、ご高齢の方のむし歯のコントロールに苦慮しています。
定期健診の時にフッ素塗布を行いますが、十分とはいえない。
そこでクローズアップされるのは、5000ppm程度の高濃度フッ素入り歯みがき剤。
「推奨される利用方法」では以下のような記載があります。
「日本では現在販売されていないが、5000 ppmの高濃度フッ化物配合歯磨剤の有用性が知られており、ハイリスク者への利用が推奨されるようになっている 。」
4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法
多発する高齢者の歯根面のむし歯をコントロールするために、高濃度のフッ素入り歯みがき剤の販売が、わが国でも実現することを期待しています。