むし歯になりやすい歯は?

今回は小学生の質問からの話題です。
「奥歯と前歯、むし歯になりやすいのはどちらですか?」

どこがむし歯?

今年の歯科講和後の質問の一つ。
むし歯になりやすい歯を、重点的に歯みがきをしようと考えているのかも。もっともな質問です。

この質問に対する回答を考えていくと、唾液の重要性に話が及びます。

むし歯になりやすい歯は?

むし歯になりやすい歯は?奥歯と前歯、むし歯になりやすいのはどちらか?
この質問に対しては、以下のような回答を書きました。

「奥歯も前歯も、どちらもむし歯になりやすい。唯一むし歯になりにくいのは下の前歯。」

唯一むし歯になりにくい下の前歯

むし歯になりやすい、なりにくいには、いくつかの条件があります。唾液の流れ、歯みがきのしやすさ、飲食の習慣、歯がはえる時期など。

回答の中で、いくつかの条件に関しては、簡単に説明を加えました。

一番大きな条件は、唾液の流れだと思います。唾液の流れに関しては次の項で。

歯みがきのしやすさから考えると、奥歯の方がみがきにくい。この条件からは、奥歯の方がむし歯になりやすいといえるかもしれません。

甘い飲み物をひんぱんに飲む人は、上の前歯がむし歯になりやすい。飲み物を飲んだ時を想像してみると、上の前歯に飲み物が一番多く接触することがわかるはずです。

でも歯の裏側に全体的にも、接触するのではないか?その通りです。しかしこれに関しては次項で説明する唾液の流れが関係します。

はえて間がない歯はむし歯になりやすい。毎日、脱灰と再石灰化をくり返すことにより、歯は強い結晶になり、すこしずつむし歯になりにくくなっていきます。

永久歯の中で早い段階ではえる、第一大臼歯はむし歯になりやすい。そして一番早く失う可能性が高いのも第一大臼歯です。

こう書くと、「むし歯になりやすいのは上下の第一大臼歯です。」という回答も、ありえますね。

唾液の流れがカギ

むし歯になりやすい、なりにくいに関する、最も重要な条件は唾液の流れです。唾液は飲食で脱灰された歯の表面を、再石灰化により修復してくれます。

下の前歯がむし歯になりにくい理由が、この唾液の流れの恩恵

大唾液腺の位置

唾液は主に上の図の三つの唾液腺から、分泌されます。この三つの唾液腺を大唾液腺といい、それ以外に小唾液腺がお口の中にあります。小唾液線からの唾液量は少ないので、むし歯のなりにくさに主に関連するのは、三つの大唾液腺。

耳下腺が最も大きな唾液腺。左右耳の前の広範囲の皮膚の下にあります。耳前の皮膚を軽くマッサージすると、唾液が出てくるのがわかると思います。食事の時に分泌される唾液の約50%がこの耳下腺から

次に大きいのが顎下腺で顎の下の皮膚に近い部分に、一番小さい舌下腺は同じく顎の下で口の中の粘膜に近い部分にあります。ともに左右一対。上図の顎下腺と舌下腺のサイズ感は逆。実際は顎下腺の方が大きい。

大唾液腺開口部

大唾液腺からの唾液は上図の黄色の印から、分泌されます。

耳下腺は頬の内側の耳下腺乳頭(にゅうとう)から。ちょうど上の第一大臼歯外側あたりにあります。

顎下腺と舌下腺は、下の前歯の内側で舌のつけ根にある、舌下(ぜっか)小丘(しょうきゅう)といわれる高まりのあたりから。

食事の時とは逆に、安静時には顎下腺の唾液分泌が一番多く、顎下腺と舌下腺を合わせて、全体の約70%。

食事の時に分泌される唾液は、消化液の一つとして役立ちます。この時は耳下腺唾液が主役。

しかしむし歯のなりにくさに関しては、安静時唾液のインパクトが大。つまり顎下腺唾液と舌下腺唾液がメインです。

舌下小丘からの唾液の流れ

上図のように舌のつけ根にある舌下小丘から、顎下腺、舌下腺唾液が分泌されます。そして上下の歯の内側に唾液が流れていく。特に下の前歯が唾液の流れの恩恵を最も受けます

これが下の前歯がむし歯になりにくい理由。歯全体でみても、唾液の流れの恩恵を受けやすい歯の内側は、外側に比べるとかなりむし歯にはなりにくい。

唾液の流れがむし歯のなりやすさの最大の条件。さらに言うならば唾液の量が多い方が、むし歯リスクが低いといえます。

なぜ上顎第二大臼歯だけがむし歯になるか?

子どものむし歯は減っています。12歳児の一人当たりのむし歯本数は、35年前と比較すると約1/8に激減。約20年前に歯科校医就任当時と比べても、小学生のむし歯が少ないことは実感しています。

このような状況ですが、中学生以降である特徴的なむし歯になるパターンがあります。それは上の第二大臼歯だけがむし歯になるパターン。さらにピンポイントで第二大臼歯の遠心(後ろ側)だけがむし歯になるパターンです。

第二大臼歯遠心のみがむし歯

目立って多いわけではありませんが、特徴的であり、いくつかの理由が浮かび上がります。

第二大臼歯は小学生高学年から中学生にかけて、はえます。それまではむし歯が1本もなかったので、むし歯リスクが高い訳ではない。

考えられる理由は以下。

  1. 唾液の流れの影響
  2. 一番奥で磨きにくい(工夫をしないと、歯ブラシが届きにくい)
  3. 不規則な生活習慣になりがちな時期にはえるから(はえてすぐはむし歯になりやすい)
  4. 保護者の目が行き届かない(第一大臼歯は仕上げみがきをしている時期にはえる)

この中でキーとなるのは、やはり唾液の流れの影響。

耳下腺乳頭からの唾液の流れ

耳下腺乳頭は頬の内側で、第一大臼歯付近にあります。そして唾液の流れは前方に向いているのが特徴。

この特徴により、上の第二大臼歯は唾液の流れの恩恵を受けにくい。さらに2.~4.の理由が複雑に関連して、中学生以降に上顎第二大臼歯遠心のみがむし歯になるパターンが出来上がります。

また上の前歯がむし歯になりやすいのは、耳下腺乳頭からの唾液が届きにくいことも関係します。

高齢者になるとむし歯になりやすくなる?

高齢者になるとむし歯になりやすくなります!

2019-12-23 むし歯と歯周病の新しい関係
で取り上げた話題です。

令和4年度歯科疾患実態調査各年代のむし歯

今年公開された最新の歯科疾患実態調査の結果からも、高齢者のむし歯が増える傾向が確認できます。

以前のブログでは

「そもそもむし歯は歯の病気なので、歯がなければむし歯になることはありません。高齢者のむし歯が増加しているのは、残存歯数が増えてことが大きく影響していると考えられています。」と書きました。

歯を失わず、多くの歯が残るのは良いことですが、皮肉なことに高齢者のむし歯が増えるもとに。

そして高齢者のむし歯には大きな特徴があります。

歯周病進行によって、歯肉が下がり露出した歯根面にできるむし歯が多いこと。

この歯根面の表面には、硬いエナメル質はありません。エナメル質より柔らかく溶けやすい象牙質が直接表面にある状態です。根面う蝕や象牙質う蝕と呼ばれています。

下図の赤矢印の部分にできるむし歯です。

根面う蝕

この高齢者の特徴的なむし歯増加に拍車をかけるのが、唾液の減少。

むし歯に唯一なりにくいはずの、下の前歯もバタバタとむし歯になってしまう。数十年間むし歯にならなかった歯にもかかわらず。

高齢者が必ず唾液の減少をおこすとはかぎりません。しかし少なくなる傾向はある。

その大きな理由の一つは、持病のための服薬。歯科受診の際には必ず、服用しているお薬を確認します。たいていは複数のお薬を飲まれており、5種類以上飲まれている方も少なくありません。

もちろん必要があり飲まれているわけですが、薬によっては唾液を減少させる副作用がある。そして多くの薬剤が重なることによって、唾液減少が目立っていきます。

この話題は別のブログで、まとめていきたいと思っています。

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