前回に引き続き、保育園で行った歯科講和からの話しです。
年2回の歯科健診にあたり、歯やお口の健康に関する質問を受けています。保護者の方々の質問の約8割が歯磨きに関することです。
「歯磨きはいつ頃から始めればよいでしょうか?」
「歯磨きをしようとすると嫌がります。どうすればよいでしょうか?」
ほぼこの2つの質問に集約されるといっても過言ではありません。
今回のブログでこの2つの質問に答えていきます。
なお、歯磨きをはじめる頃の幼児では、自分で歯磨きをするのは不可能ですので、今回のブログでは「歯磨き」は保護者の方がする歯磨き(仕上げ磨きを含む)を指します。
(上の写真のようにある程度自分で磨けるようになっても小学校中学年くらいまでは仕上げ磨きは必要です。)
「歯磨きはいつ頃から始めればよいでしょうか?」の質問からです
一番、簡単な答えは
「奥歯がはえる1歳半くらいから」です。
上の図にあるように
下の前歯は生後半年くらい経つとはえてきます。1歳くらいになると上下4本ずつ前歯がはえそろいます。この時期にむし歯ができることはありませんので、歯磨きはあまり必要ではありません。
1歳半前後で奥歯(第一乳臼歯)がはえてきます。
この頃は離乳期も終わり、さまざまな食材を食べるようになっている時期です。また、次の回で話をしますが、むし歯菌(ミュータンス菌)が感染しはじめる時期でもあります。
なので、奥歯がはえてきたら歯磨きをはじめましょう。
ここで、とても大きな問題があります。
今日から歯磨きをはじめようと思っても、子供は歯磨きを嫌がります。例外は少ないはずです。
ここで2番目の質問
「歯磨きをしようとすると嫌がります。どうすればよいでしょうか?」
となるのです。
なぜ嫌がるのでしょうか?
やはり、未知の行為に対する恐怖心や不安感があるからだと思います。
いくら大好きなお父さんやお母さんでも、いきなり棒のようなものを口につっこまれ、ガシガシと口の中をこすられたら不快にも感じるのでしょう。
何のために歯磨きをするのでしょうか?
病気の予防のため
つまり、むし歯と歯周病を予防するためです。
歯磨きは一生の習慣です。
歯磨きがきらいな子になってはこまります。
上の写真のようにして歯磨きをすることが必要と思われるでしょうか?
私はぜひ避けていただきたいと思います。
どうすれば歯磨きを嫌がらずにするようになるでしょうか?
キーワードは「愛」だと思います。
もちろん、お子様に愛が無いから歯磨きができないとは申しません。
もし、歯磨きが「ご両親の愛を感じる行為」であれば嫌がらないのではないでしょうか。というよりは、嫌がるはずがありません。
子供のお口の健康を思うあまり
歯ブラシを握りしめ、時には鬼の形相?で歯磨きをしようとすると
とても「ご両親の愛を感じる行為」にはなりません。
ではどうすればよいでしょうか?
未知の行為に対する恐怖心や不安感をなくすにはどうしたらよいかということになります。
普段から歯磨きをしているところを見せることも大切です。
わざわざ見せなくても、日常的に食後の歯磨きをご両親がしていれば、子供はいやおうなしに歯磨きをしている姿を目にするはずです。興味を持つ可能性もあります。
もし興味を持つようならば、用意をしていた子供用歯ブラシを手に持たせ、自分で口に入れさせたらどうでしょうか。(口に入れたまま、走りださないように注意しましょう。)
歯ブラシは口の中に入れて動かすものだとわかれば、恐怖心や不安感はなくなります。
あとは愛情をもって抱きしめるような気持で仕上げ磨きをしてあげればよいのです。
すぐにはうまくいきませんが、何回もトライしていると自然とできるようになるものです。もちろん、嫌がるのを無理にやろうとするのはNGです。
先ほどの図です。
歯がはえはじめてから、奥歯がはえて歯磨きが必要になるまで、約1年間あります。
1歳過ぎたら、少しずつ歯磨きをはじめる準備をしていっても良いかもしれません。
①ご両親が歯磨きをしているところを見せる。
②興味を持ったら歯ブラシを持たせてまねをさせる。
この二つが歯磨きをはじめる前のポイントになります。
「歯磨きはいつ頃から始めればよいでしょうか?」のもう一つの答えは
「1歳過ぎたら歯磨きの準備をはじめ、奥歯がはえる1歳半くらいから歯磨きができるようにする」です。
次に実際に歯磨きをはじめて慣れるまでの注意点です。
①子供の機嫌の良いとき、眠くないときにする
②ご両親の気持ちが落ち着いているときにする
③優しく、軽い力で
④歯磨き剤はつけない
⑤簡単に、短時間で
最初は食後とか時間帯は関係なくやってもよいかもしれません。お互いに機嫌の悪くない時にやることが重要です。
きれいに磨こうとすると、どうしても力が入るものです。力の入れすぎは痛みの原因になりますので、注意が必要です。優しく磨くことを心がけましょう。
(上唇の内側のちょうど真ん中に上唇小帯というスジがあり、上の前歯を磨く時に傷つけてしまうことがあります。慣れないうちは指で上唇小帯をガードしながら磨くのも一つのテクニックです。)
歯磨き剤は最初はつけないでやりましょう。味をきらう場合があります。
もちろんなれたら、フッ素入りの歯磨き剤をつけて朝食後と就寝前の1日2回の歯磨きを習慣になるようにしましょう。
磨く時の姿勢はこのような寝かせ磨きが一般的です。
明るくお口の中が見やすいですし、両手が使えます。歯ブラシを持たない手で唇や頬をよけると、とても磨きやすいです。
私はあぐらをかいて、その上に子供を左手で横に抱きかかえて仕上げ磨きをしていました。片手しか使えませんが、子供がおとなしく口をあけてくれさえすれば全く問題ありません。子供たちは「赤ちゃん抱っこ」と言って、喜んで仕上げ磨きをしてもらいに来ました。長女は小5まで、次女は小4まで「赤ちゃん抱っこ」の姿勢で仕上げ磨きをしていました。
の最後に紹介をさせていただいた 人はこうして「食べる」を学ぶ からの一文を
今一度、紹介させていただきます
子供によりよく食べてもらいたいのであれば、指示するのをやめよう。自分自身がよい食をめざすこと。
子供に食べさせるときのわたしたちの行動は、たいてい目先のことしか考えていない。ほんとうは次の五年間について考えねばならないときに、次の五分間について思いわずらっている。野菜を残さず食べなさいと子供に圧力をかけるのは、野菜を ―ついでにいえば、あなたのことも― 嫌いになりなさいと教えているようなものである。ほんの一口食べるように説得すれば ―そして次の日も、また次の日も、その次の日も同じようにしていけば― 野菜の好きな子に育つ可能性が高くなる。(336ページ)
この一文の「食べる」を「歯磨き」に変えてみました。
子供に歯磨きをしたいのであれば、指示するのをやめよう。自分自身が歯磨きをすること。
子供に歯磨きをするときのわたしたちの行動は、たいてい目先のことしか考えていない。ほんとうは次の五年間について考えねばならないときに、次の五分間について思いわずらっている。歯磨きをさせなさいと子供に圧力をかけるのは、歯磨きを ―ついでにいえば、あなたのことも― 嫌いになりなさいと教えているようなものである。歯ブラシをちょっとだけ口に入れるように説得すれば ―そして次の日も、また次の日も、その次の日も同じようにしていけば― 仕上げ歯磨きの好きな子に育つ可能性が高くなる。