山田宏 「さて、コロナウイルス・・・・総理はこの間に歯科診療を受けられましたか。」
内閣総理大臣(菅義偉君) 「受けております。」
これは3月19日(金)の参議院予算委員会で、山田宏参議院議員(自由民主党)が、口腔ケアと新型コロナウイルス感染症の関係について質問をした時の冒頭のやりとりです。
最後には菅義偉内閣総理大臣も
「このコロナ禍においても国民の皆さんが必要な受診や歯科健診等を行うよう、国としても今働きかけをしているところであります。」
と答弁していました。
今回は参議院予算委員会での、「歯科と新型コロナウイルス感染症」に関する質疑と答弁を紹介いたします。
山田宏議員→田村憲久国務大臣
冒頭の菅総理大臣の答弁に続いて、田村厚生労働大臣に対して質問をしています。
山田宏議員
「なぜかというと、口腔ケアと、・・・
歯科の診療というものは、口開けて飛沫も飛ぶし、感染リスクは高いと普通危惧されております。
しかし、吉村大阪府知事は、・・・何で大阪のこの歯科医院からはクラスターが発生しないのか、発生してもおかしくないのにと、こう書いてあるわけです。・・・
全国的に見ると歯科診療所でのクラスター発生というのはどういう状況になっていますでしょうか。」
歯科診療においては、当然ですが患者さんはマスクなしです。治療の際に唾液や血液が含まれる飛沫が飛び散るのは、日常茶飯事。
2020-12-21 歯科医院はコロナの感染源ではない!
でも書きましたが、歯科医師、歯科衛生士は新型コロナウイルス感染症に感染しやすい危険な職種です。歯科医院は感染リスクが高い場所と考えられるが、実際はどうなのかという質問です。
田村憲久国務大臣
「同一の場所で二名以上の感染が起こった場合ということで、これ報道の資料等々を一応集めて集計しておりますが、・・・
歯科の治療で感染が拡大したという事例、私は認識いたしておりません。・・・
治療を介してうつったというような、そういう情報はまだ我々としては確認いたしておりません。」
山田宏議員
「病院では残念ながら幾つかのクラスターの報告がございました。・・・
吉村大阪知事は、(歯科でクラスター発生がないのは)何でだろうと、何かあるんじゃないかという、秘密が何かあるんじゃないかと、こう言っているわけですけど、何があるんでしょう。」
歯科医院を通じての感染の拡がりはないのは確認できたが、理由は?
田村憲久国務大臣
「一つは、元から歯科医の皆様方、感染症に対して非常に注意深く対応いただいております。・・・
やはりこのコロナ等々が感染が拡大してから換気もしっかりやっていただいているということがあるんだと思います。感染症に対して非常に対応が注意深くやっていただいておるという結果が一つこのような形になっているんだというふうに認識いたしております。」
感染リスクが高い施設だからといって、感染者が多い訳ではないのです。
私は歯科診療所での新型コロナウイルス感染症の感染例は、0ではないが極端に少ないのだと理解しています。
歯科医院はもとよりさまざまな感染症リスク(AIDS、ウイルス性肝炎など)にさらされています。つまり歯科医院のという場所は、他の施設と比較して感染症対策はもともと充実しているのです。
そして今回の新型コロナウイルス感染症の感染予防対策としては、換気が大きく取り上げてきました。飛沫対策および換気対策を、従来からの感染予防対策に加えて、西辻歯科医院でも実施しています。
山田宏議員→西村康稔国務大臣
矛先をかえます。西村経済再生担当大臣に質問です。
山田宏議員
「非常にリスクが高いんじゃないかという強い意識が、感染予防に対して相当一生懸命やっていった結果だと私も思います。・・・それで、西村大臣、昨年、西村大臣は、5月25日、衆議院議院運営委員会で・・・こうした健康的な生活がいわゆる新しい生活様式の基礎に、様式の前提として、手洗い、うがい、マスクとともに歯磨きも非常に重要であると御答弁されています。その心は何でしょうか。」
過去の西村大臣の発言の真意を聞いているようですが。
西村康稔国務大臣
「お答え申し上げます。まず、私も、日々クラスターの報告受けておりますが、歯科の治療で何か感染が広がったという報告は今まで受けたことがございません。・・・
昨年答弁させていただいたんですけれども、私たちも基本的な感染防止策は徹底していく。マスク、手洗い、それから三密回避、それに加えて、そのとき申し上げたのがうがいであったり歯磨きということで、まさに歯科の関係者の皆様方が専門的な立場から口腔管理に御尽力をいただいて、そのことが、例えば8020運動など、歯が健康であれば健康で長生きできると、・・・
まさに健康管理の基本だと、歯の健康がですね、そういうふうに認識をいたしております。・・・
歯科の様々な歯科治療、医療を始めとして、健康管理に御尽力されていることに必要な支援をしっかりと引き続き行ってまいりたいというふうに考えております。」
「歯磨きも非常に重要」
「してその心は?」
という問いに対しては、正直なんだかよくわからない答えです。
本来の歯みがきの重要性は、新型コロナウイルス感染症の重症化予防です。また洗口(お口の中のうがい)は、飛沫中のウイルス量を少なくするので、感染拡大の予防になります。
昨年の5月の時点での発言ですので、どのあたりまで把握していたかはわかりませんが、正しい過去の発言であったのは間違いありません。
院内の感染防止に尽力している医療機関に対して支援を継続していくというのが、西村大臣の答弁の主旨のようです。
西村大臣の答弁で聞きたかったのは、「してその心は?」ではない。医療機関に対する支援の継続なのでしょう。予算委員会ですから。
山田宏議員→菅義偉内閣総理大臣
最後に今一度、総理に質問です。
山田宏議員
「冒頭申し上げましたように、口腔ケアと、それから感染予防、重症化予防等には関係があるんじゃないか。口腔ケアをすると、感染予防、重症化予防につながるというような国内外の学術論文が出始めています・・・
・・・むしろ歯科は、口腔内のケアというものは、健診を控えるんじゃなくてむしろ奨励した方が感染予防や重症化予防に私は直結していくんじゃないかと、こう思っておりまして、そういった意味で、是非これ、歯科健診のむしろ奨励を政府の方でしてもらいたいと、こう思っているんですけれども、総理の御所見をお伺いします。」
山田議員は歯科医療や歯科保健に精通しています。もちろん歯科医師ではありません。杉並区長を務めていた時に、区立小学校での保健活動を通じて、歯科保健の大切さ気づき勉強をしてこられています。
現在は東京都歯科医師連盟顧問の肩書もあります。このような肩書だと、歯科医師会の回し者ではないかと思われるかもしれませんが、歯科医療・保健に関する意見を、政治の場で発言してくれる貴重な存在です。
このコロナ禍においても、国民の健康増進を目指す正当な発言であり質問です。
菅義偉内閣総理大臣
「私自身としては、口腔の健康の保持増進を図ることは、健康で質の高い生活を行う上で極めて重要な役割を果たしているというふうに認識しています。このコロナ禍においても国民の皆さんが必要な受診や歯科健診等を行うよう、国としても今働きかけをしているところであります。引き続き対応していきたい、このように思います。」
まさにその通り。
コロナと歯科、コロナとがん
今回のような質疑の背景には、コロナ禍における過度の自粛がこうじて、医療機関への受診を避ける傾向への危惧があります。受診を控えることにより、新型コロナウイルス感染症重症化リスクである基礎疾患が、さらに悪化してしまう皮肉な結果も招いています。
歯科への通院も例外ではありません。定期的な健診や歯のクリーニングを自粛してしますケースが出てきています。お口の健康を損なうことは、当院のブログで再三書かせていただきましたが、健康寿命を縮める危険に。さらには新型コロナウイルス感染症の重症化リスクもアップ。(2020–7-16 歯周病が新型コロナウイルス感染症を重症化させる)
私のような一歯科医師の思いを代弁してくれたのが、今回の参議院予算委員会での山田議員の発言です。
歯科以上に深刻なのは、がんではないでしょうか。日本人の死因のトップはがんです。
この書籍は、新型コロナウイルス感染症だけに関心を集中させてしまうことにより、その他のリスクが見えにくくなっていることへの警鐘です。コロナを優先させ過ぎて、がんをはじめその他の病気が発見できない年になるのではないかと、著者は懸念しています。
また10年前の福島第一原発事故による放射線被爆への恐怖が、今回のコロナ禍に重なる部分があると指摘しています。
ただこの書籍は、感染拡大第三波が来る前の10月に発刊されています。新型コロナウイルス感染症のリスクおよび重症化リスクが、若干軽めに記述されているような気がしました。そこの部分は割り引いてお読みいただければよいと思います。
健診や慢性の病気による通院は、不要不急ではなく、必要不急です。
ぜひ適切な自粛を、心がけていただきたいと思います。
※YouTubeチャンネル 「2021年3月19日 参議院予算委員会 歯科部分(字幕あり)」は限定公開のためリンクを貼れませんでした。