「歯みがきはいつはじめるか?」と対になる問い。
いつまでも子どもの仕上げみがきを続けるのは、負担になるのは言うまでもありません。
とはいえ子ども任せにして、むし歯ができたり、歯肉炎の悪化につながることも。今回は子どもの歯みがき自立の話題です。
自分で歯みがきはいつから
上下の前歯が8本程度はえそろう、1歳前後から取組みはじめたらどうでしょうか。十分に時間をかけて、せかすことなく、取組みはじめる。そうすれば1歳半の奥歯がはえる頃には、歯みがきが習慣化できるようになります。
西辻歯科医院ブログ
つまり奥歯がはえる頃(1歳半頃)に歯みがきができるように、前歯8本がはえそろう1歳前後から、歯みがきに取り組みはじめることを勧めました。
歯みがきに慣れるには、どうしても時間が必要だからです。
もちろん1歳前後からはじめる歯みがきは、保護者が行います。しかしどちらの家庭でも、しかるべきタイミングで、子どもに自分で歯みがきをさせはじめるはずです。
ではいつから、自分で歯みがきをさせるか?
はっきりとした目安はありませんが、3歳すぎてから小学校にあがる辺りまでが多いのではないでしょうか。
全国学校歯科保健研究大会の幼稚園・認定こども園・保育所部会での発表から例をあげます。
- 3歳クラス(年少組)では食後のブクブクうがいの練習。4歳クラス(年中組)から園内での歯みがき活動を開始する。
- 3歳クラスから歯ブラシを持たせはじめる。 など
早くても3歳あたりからという認識です。あくまでも子どもの成長に合わせて、焦らないことが肝心。
私の個人的な考えとしては、小学校入学前後でもよいとも。歯みがき習熟の難易度はかなり高いです。就学前の子どもが習得できるレベルではありません。
ただ歯みがき習慣の確立などを考えると、しかるべき時期に自分での歯みがきを、させるべきなのはいうまでもありません。
子どもが自分で歯みがきをはじめると、今まで保護者がしている「歯みがき」が、「仕上げ(歯)みがき」という呼び方に変化します。
仕上げ(歯)みがきはいつまで?
本題です。
保護者による仕上げみがきは、小学校中学年くらいまでは行うべき。
明確な基準がある訳ではありませんが、以前からこのように話をしてきました。
子どもの歯みがき自立は、成長過程での重要なステップです。一方で保護者の負担軽減という側面も。
子どもの自分歯みがきがはじまると、「仕上げみがきはいつまで?」というターゲットポイントが、頭によぎるのではないでしょうか。
昨年の全国学校歯科保健研究大会小学校部会で、鶴見大学歯学部小児歯科学講座の朝田芳信教授の発表での、「仕上げみがきについて」の見解を紹介します。
「保護者による仕上げみがきをいつまでするか」についての明確な基準はないが、8歳頃まで必要とされている。
第86回全国学校歯科保健研究大会「領域別研究協議会」小学校部会 「口腔から全身の健康づくりを目指して」より
大きな理由として、第一大臼歯がはえ始めてからの2年間が最もむし歯になりやすいことを挙げられていました。子どもの歯みがきでは、第一大臼歯のむし歯予防は不十分だと。
第一大臼歯は永久歯の中で、最もむし歯になりやすい歯であり、早く失う可能性が高い歯。一方で咀嚼には、最も重要な歯でもあります。
早いうちにむし歯にすることは、どうしても避けたいです。(第一大臼歯は6歳前後にはえてきます。)
歯のはえ方や歯みがきの上達度を見て、仕上げみがき完了時期を決めることが重要。
朝田教授は上達度の目安として、歯ブラシの持ち手の肩と肘関節が固定された状態で、歯みがきが実施されているかがポイントになると。
肩や肘を動かさず、手首と指先を使って歯ブラシを動かせるかどうかが、一つの目安になるようです。
そうはいっても歯みがきはとても難しいです。8、9歳できれいに磨けるようになるとは到底思えません。
しかし小学校高学年にもなると、仕上げみがきを嫌がるようになるのも、現実。ある意味、子どもが自立に向かっている、サインでもあるのでしょう。小学校のうちは仕上げみがきをしましょうというのは、現実的ではない。
そこで「保護者による仕上げみがきは、小学校中学年くらいまでは行うべき。」という結論に落ち着きます。
自立的健康づくりの入口
2019-12-1 子供のむし歯は少なくなっているが、大人は・・・ での話題と重なります。
小学生は他律的健康づくりから、自律的健康づくりへの入り口です。
- 他律的健康づくり―保護者などに管理された健康づくり
- 自律的健康づくり―みずからが考え、行動していく健康づくり
保護者に管理される世代から、自分の考えにもとづいて行動をする世代へと成長しながら移行していく重要な期間がはじまる時期です。
保護者による仕上げみがきは、小学校中学年くらいで終了するのは、理にかなっている。
ただくどいようですが、歯みがきは難易度が高いタスクです。
完全に任せるのではなく、見守る姿勢が重要。時々歯みがきチェックができる関係を、上手く継続するのが理想。
仕上げみがきの終了を、歯みがき自立に向けてのアシスト期間のスタートと、捉えるとよいのではないでしょうか。
前述の朝田教授が歯みがき時の注意ポイントを4つ挙げられていました。
- 歯みがき時間が短すぎないように。3分程度は必要。
- 小刻みに1~2歯づつみがくこと(スクラビング法)を心がける。
- 適切な歯ブラシ圧。150~300g*。
- 毛先の広がった歯ブラシは使用しない。
(*歯ブラシ圧についてはコチラもご覧ください。)
1.~4.をさり気なくチェックしながら、たまに口の中を覗かせてもらえばOK。
むし歯にならなければよいか
子どものむし歯は減っている。子どもだけでなく、高齢者以外ではむし歯は減っています。
(高齢者でむし歯が増えている原因については 2019-12-23 むし歯と歯周病の新しい関係)
毎年文部科学省から発表される、学校保健統計調査からのグラフです。小学校を卒業した段階での比較をするために、中学一年生の数値を参考にします。
中学一年生のむし歯がある人の割合は、2000年では73.7%。これが2021年には28.3%へと、一直線に減少。
約20年前から小学校の歯科校医と務めていますが、小学生のむし歯が少なくなっているのは実感しています。
実際にむし歯が、一本もないお子さんが増えています。しかしむし歯がないからといって、歯みがきをおろそかにしていい理由にはなりません。
歯肉炎に関しては、あまり減っているという実感はありません。
歯肉の状態が統計処理されるようになった2006年からのグラフです。2008年の5.3%が最高、2017年の3.6%が最低で、ここ数年は横ばい。歯肉炎はむし歯のようには、減っていない。
3~5%台とむし歯に比べて少ないと思われるかもしれません。しかしGO(歯周疾患要観察者)つまり軽度の歯肉炎がある人も含むと、20%前後にのぼります。むし歯と比較して、少ないとは言い難い状況。
確かに歯肉炎があったとしても、痛みなどの問題となる症状が出ることは、ほとんどありません。
しかし歯肉炎が継続すると、いつかは歯周炎に移行。歯周炎は歯を失う最大の原因。つまり歯肉炎を放置することは、数十年後に歯を失う基礎を築くことになりかねません。
そして歯周病(歯肉炎、歯周炎)は全身的な疾患の原因にもなります。
2017-2-2 お口の健康がなぜ健康寿命に影響するか?part2
極端な言い方をすると、将来の健康をも左右する可能性があるのです。
9歳女児の口腔内写真。
赤矢印のところや上の真ん中の歯肉は、腫れたり赤くなっている。歯肉炎です。白矢印のとことは、表面がザラザラして、歯垢が残っています。
こんなお口の状態に気づいて、しっかりと指摘することが正解です。