私は25年間、同じ銘柄の歯みがき剤を愛用しています。
「ライオン Check-Up(チェックアップ)」という、歯科医院専売の商品です。もちろん*フッ化物(以下、フッ素)入り歯みがき剤です。
西辻歯科医院で販売している理由、自らが使い続けている理由を振り返りながら、むし歯予防の秘訣をまとめていきます。
*フッ化物-フッ素を含む化合物。むし歯予防に使用されるのは、すべてフッ化物。
歯みがき剤を使わない歯みがきからの転換
「ライオン Check-Up(チェックアップ)」は1996年に歯科医院専売商品として、売り出されました。販売されて間もないころに、使用をはじめた記憶があるので、25年間愛用していることになるはずです。
実は約30年前までは、歯みがき剤を使わないで歯みがきをするように、多くの歯科医院では歯みがき指導をしていました。これは100%に近いところまで、歯ブラシでプラーク(歯垢)を落とし、むし歯や歯周病を予防していこうという考え方に基づいたものです。
なぜ歯みがき剤を使わない方がよいかというと、次の二つの理由によります。
・発泡剤による泡立ちで、長時間かけた丁寧な歯みがきがしづらい。
・爽やかな香味などで、よくみがけていなくても、みがけた気になりやすい。
ところが1994年に、「フッ素入り歯みがき剤の使用がむし歯予防の最有力手段である」と強い推奨が、WHOから発表されるに至りました。(この発表以前から、フッ素入り歯みがき剤の重要性が広まりつつありました。)
歯みがき剤を使用しないブラッシング指導をしていた、私たち歯科医師の方針転換のタイミングで、発売されたのが「ライオン Check-Up(チェックアップ)」。
長時間のブラッシングがしやすい、低発泡・低香味がコンセプトの歯みがき剤の発売に、さっそく飛びつきました。歯科医院での販売と同時に、家庭でも使いはじめました。
上のグラフのように、1980年代中頃までは、フッ素入り歯みがき剤は日本ではほとんど販売されていませんでした。その後フッ素入り歯みがき剤販売シェアが伸びはじめ、伸びが鈍化した1990年代中頃に、私の愛用歯みがき剤が世に出たのです。
長所でもあり、短所でもあるが
フッ素入り歯みがき剤がむし歯予防に効果があることは理解できるが、泡立ちによる歯みがき時間が短くなるジレンマはどうしてもあります。
しかし予防すべき病気には、歯を失う最大の原因である歯周病もある。歯周病を予防するには、時間をかけた丁寧な歯みがきが必須です。(歯間ブラシやフロスの使用も)
むし歯予防効果とブラッシング時間の短縮というジレンマを解決するコンセプト。
それが、「泡立ちと香味を抑える」です。
低発泡、低香味であれば、泡立ちや刺激のある味を気にすることなく、長時間のブラッシングが可能になります。
実は低発泡、低香味のもう一つ大きなメリットは、歯みがき後のゆすぎ方への影響です。
フッ素のむし歯予防のメカニズムで最も重要なのは、再石灰化の促進です。ゆすいだ後も低い濃度でも、お口の中にフッ素が残ることにより、再石灰化を促進してくれます。
多量の泡や刺激の強い香味が口の中に残ると、どうしても何回もゆすぎたくなるのが人情。でも繰り返しゆすいでしまっては、あまり再石灰化促進を期待できません。
「泡立ちと香味を抑える」コンセプトの効果は以下の二つに要約できます。
・長時間のブラッシングがしやすい
・歯みがき後の洗口が、最小限に抑えられる
このようにとても効果的な歯みがき剤ですが、患者さんには必ずしも評判が良かったわけではありません。低発泡、低香味であるが故の理由です。
みがいた感じがしない。スッキリしない。インパクトがない。・・・
たしかに、その通り。
でも
むし歯予防効果が高く、歯周病予防にも対応できるのです。
低発泡、低香味になれると、市販の一般的な爽快感のある歯みがき剤は刺激が強すぎる感じがします。長年使っていても、低香味であるがために、飽きがきません。患者さんの中には、私と同じ様に使われている方も多くいらっしゃいます。
初代Check-Upは、容量は60gで、500円程度の販売価格であったと思います。この価格ですと、他の市販歯みがき剤に比べての割高感は否めませんでした。
その後1998年に90g、2003年に120gそして2017年には135gと順次増量。現在当院での販売価格は税込みで570円です。今では、割高な歯みがき剤ではなくなりました。
むし歯は確かに減少している
さきほど示したフッ素入り歯みがき剤販売シェアのグラフの続きに、12歳児むし歯の数を重ね合わせました。12歳児むし歯の数は、当院のブログでたびたび登場する12歳児DMFTで表しています。
1986年のフッ素入り歯みがき剤販売シェアは、わずかに10%でした。1990年代後半より、シェアは大幅な伸びをみせ、現在では91%となっています。
一方12歳児DMFTですが、1986年には一人平均で4.58本でした。段階を経るようにフッ素入り歯みがき剤のシェアが上昇するなか、12歳児DMFTは正反対に下降の一途をたどりました。2019年には0.7本。なんと1/6以下に減少。劇的にむし歯は少なくなりました。
このようにむし歯が少なくなった理由は、一つではないかもしれません。しかしフッ素入り歯みがき剤の普及が、むし歯減少の最も大きな理由です。
世界的にみても同じことがいえます。日本より早くフッ素入り歯みがき剤が普及した国は、日本よりも早くむし歯減少を実現。
国内では、5年に1度実施されている歯科疾患実態調査をみても、12歳児だけではなく多くの年代のむし歯減少が確認できます。
ただ残念ながら、手放しでは喜べない状況も。
・中学生以降にむし歯が増える傾向は依然として続いている。
2019-12-1 子供のむし歯は少なくなっているが、大人は・・・ を参考に
・高齢者のむし歯は逆に増加している。
(残存歯数が増えていることが、大きく影響していると考えられている。)
2019-12-23 むし歯と歯周病の新しい関係 を参考に
このような状況下であっても、フッ素入り歯みがき剤の使用は、むし歯予防の中心であることに変わりはありません。歯みがきの時には、必ずフッ素入り歯みがき剤を使いましょう。
ポイントは歯みがき後のゆすぎ方
フッ素入り歯みがき剤をただ使うだけではなく、ちょっとした配慮や工夫をすることによって、より効果がアップします。ポイントをまとめました。
- 高濃度フッ素製品の使用
- 必要十分な量を
- 1日2回以上(可能であれば3回)
- 少量洗口
1.高濃度フッ素製品の使用
日本では長らくフッ素入り歯みがき剤のフッ素濃度は1,000ppmが上限でした。平成29年よりこのフッ素濃度の上限が1,500ppmに引き上げられ、高濃度のフッ素入り歯みがき剤が手に入るようになりました。
高齢者をはじめ、むし歯リスクの高い場合は高濃度フッ素の製品とお選びください。
もちろん「ライオン Check-Up(チェックアップ)」も1,450ppmに、フッ素濃度がアップしています。
ただし6歳未満は、1,000ppm以下で。
2.必要十分な量を
歯みがき時にフッ素をお口の中の隅々まで行きわたらせるには、十分な量が必要です。
歯ブラシに山盛りでは多すぎますが、歯みがき剤のチューブから、歯ブラシの毛束の長さ程度の量は使用してください。
低発泡、低香味の「ライオン Check-Up(チェックアップ)」は、十分な量でも長時間の歯みがきが可能。
15歳未満の歯みがき剤の使用量についてはこちら
3.1日2回以上(可能であれば3回)
フッ素の最大の効果は再石灰化促進。1日1回より複数回の方が、再石灰化促進の時間が長くなります。朝食後、昼食後と夕食後もしくは就寝前の3回が理想。
時間がない時は、フッ素入り歯みがき剤を使って短時間で簡単にみがきましょう。プラーク(歯垢)が十分にとれていなくても構いません。プラークはフッ素を取り込み、*徐放します。
*徐放-有効成分が徐々に放出されて効果が持続する状態
4.少量洗口
歯みがき後の洗口が最も効果を左右する、最大のポイントです。
15㎖程度の少量で、1回だけ口をゆすぎます。
口をゆすいだ後に、歯の表面だけではなく、歯肉、頬や唇の内側、舌の表面に低い濃度のフッ素が残ることにより、再石灰化が促進されます。
近年、フッ素入り歯みがき剤のCMで歯面への滞留性をうたっているものが増えました。
もちろん「ライオン Check-Up(チェックアップ)」も、フッ素が歯面に滞留しやすいコーティング剤を使用しています。しかし何回もゆすいでしまっては、フッ素はお口の中にあまり残りません。
少ない量で、1回だけ
このフッ素入り歯みがき剤を使った、むし歯予防法はとても簡単です。
あまり頑張らなくてもよい!
あまり我慢しなくてもよい!
製品の紹介
歯科医院専売の商品なので、ドラッグストアなどでは手に入りません。でもネット通販などでは当院の販売価格より安く手に入ります。
チェックアップ スタンダード 1450F 135g マイルドピュアミント
私が使用している製品です。長らく「チェックアップスタンダード」の製品名で販売されていましたが、誕生25周年を記念して新しいフレーバーが登場したため、「チェックアップスタンダード マイルドピュアミント」となっています。
チェックアップ スタンダード 1450F 135g マイルドシトラスミント
これが「チェックアップスタンダード」の新しいフレーバーです。
高齢者などの、歯根面が多く露出している場合に有効な歯みがき剤。根面ケアに着目して開発されました。
3歳未満の小さなお子様にお薦め。香味がほとんどなく、フッ素の飲み込み量が少なく抑えられます。